第71話4-8ティアナ十歳

4-8ティアナ十歳



 ガレント王国王城に約三年ぶりに帰還したティアナは国王発令の誕生祝をするために大忙しだった。


 

この世界は五年ごとに誕生日を盛大に祝う風習がある。

 それは王族から一般人にかけて皆同じで、十五歳で成人となる。


 王族の姫が誕生日を祝うとすれば国を挙げてのお祭りになる。

 

 既に王城に入ってから二日目、予定ではあと二日後にティアナの誕生会をここ王城で開くこととなる。

 流石に外国からの招待は難しいので、各大使館や領事館の人が出席したり、ガレント王国ゆかりの貴族や騎士、商人や地方豪族なども参加するらしい。

 



 「エルハイミぃ~ティアナはぁ~?最近遊んでくれないから暇だよぉ~。」


 マリアが俺の周りをぶんぶん飛んでいる。

  

 ぴこぴこ?


 アイミが体を揺らして俺を覗き込んでいる。


 どさっ!


 アンナさんが資料の束を俺の横に置いてくれている。


 何が起こっているかと言うと、ティアナの誕生日まで時間があるからアイミの基礎解析とそのデーターを基に量産化ゴーレムを量産化マシンドールに出来ないかの検証と資料作成である。



 聞いてないよぉ~!!



 王城に着けば暇かと思っていたら王様に挨拶したら早速俺とアンナさんはつかまって技術開発部等と言う部屋にほぼ缶詰にされるとは!!


 確かに暇を持て余しておりますよ、謁見をした後三十分くらいは。

 でもその後見学のはずがそのまま開発の中心に放り込まれるのってどういうこと!?


 参考体としてアイミもここに連れてこられたが、ティアナがいろいろと忙しいから仕方ない。

 それは分かるとしてマリアまでこっちによこされるとはどういう事よ!?


 色々と不満はあるのにアンナさんがノリノリでいろいろ始めてしまうから結局付き合う羽目になって今に至る。

 託児所兼雑務係的な立ち位置の俺は便利屋の如くいろいろさせられている。


 今はマシンドールの基礎駆動についてまとめさせられているが、そもそも動力って何ですればいいのよ!?

 ゴーレムと違って機械機構を盛り込んで魔力伝達をスムーズにするのがマシンドール、機械人形と言われるゆえんなんだけど、完全に分野外の機械機構についてまとめてくれって、そりゃぁ無理ってもんさ。


 アイミの駆動系は強化関節にミスリル合金が融合して各所各所に用意していた駆動強化用の魔晶石が現在の駆動動力になっているので機械機構とはまるで違う。

 仮にその辺を同様に魔晶石でやろうとしてもアイミのように常に魔力循環していないから動くたびにコマンドの魔力を送らなきゃならない。

 つまりものすごく魔力消費するわけだ。

 だから全く違った動力源が無いとすぐに魔力切れで動かなくなってしまう。


 「アンナさぁ~ん、これ無理ですわぁ。アイミと同じには根本が違い過ぎて出来ないですわぁ!!」


 「うーん、流石にアイミを基準とすること自体が無理がありますね。自立したマシンドールなんてそうそう在るもんじゃありませんから。」


 他の文献や資料に一応目を通してみるけど基本操り人形なのでどうしても動力元が外部仕様となってしまう。

 うーんどうしたものか?

 魔力の消費だけでなく、循環をさせて消費を最低限にする方法って・・・



 ここで師匠の言葉がふとよみがえる。


 「消費ばかりしていないですぐさま回収する。」


 

 使った余剰魔力の回収と言う節約の意味だと解釈していたけど、そもそもマナってそこら中にあるわけだよな?

 マリアが空を飛べるのはあの羽が周囲のマナに干渉して浮力に変えてるみたいだから、自分の魔力を使っているわけではないらしい。


 

 うーんと、まず駆動系の魔力確保を常に外部からマナ吸収できるようにして疑似循環させればとりあえず動くって事かな?



 俺はなんとなくイメージを固めて魔晶石に駆動強化の魔法を封じ込め、それを発動と共に別にくっつけた風によるマナ回収機関を即席してみた。


 風が入る吸気口を作り、そこからマナを摘出して魔晶石の駆動強化魔法を発動させる。

 すると義手に組み込んだこの機構は風さえ当たれば最低出力で動き出した。



 「アンナさん、これ動いちゃったですわ!!」


 まさかの駆動に当の本人がびっくりしてたりする。


 「エルハイミちゃん、これってどこから魔力調達してるのですか?」


 「えーと、風の中にあるマナを吸収して取り出していますわ。ですからうちわ持たせて吸気口に風をずっと送れば最低限の動きはしてしまいそうですわ。」

 

 「!? それって、永久機関じゃないですか!?」


 

 偶然の産物がとんでもないものを作ってしまった。

 マナが豊富にあるこの世界では前世での外燃焼機関のようなとんでも化学が通用するようだ。



 既に技術開発部の室内は大騒ぎになっているが俺はもう一つのとんでもない仮説にぶち当たっていた。



 もしかして師匠ってほとんどの魔法は自分の魔力じゃなく外部に存在するマナに干渉して魔法を発動させてるんじゃないか?



 それなら毎回毎回あれだけ魔法使っても全然魔力切れ起こさないのも理解できる。



 ええええぇっっ!?

 それって反則じゃないの!!?

 と言うか、どうやったらできんだよそんな事!?



 英雄と呼ばれる師匠は伊達じゃないって事か?

 周りの騒ぎをよそに俺は俺で別件で内心騒いでいた。



 ◇

   

 

 さて、技術開発部でまたまたやらかした俺だったが本日は国を挙げてのティアナの誕生祝賀会だ。

 朝からおめかしされるので城の使用人たちに着せ替え人形の如くいじられまくっている。

 とはいえ俺の誕生日の時のようにはなっていないのでまだ気が楽だ。


 俺はパパンにエスコートされ会場に入る。

 既に会場は来客でごった返しているが主役のティアナがまだいない。

 

 と、国王陛下が来場された。

 場は一気に国王陛下に注目する。

 ざわめきが無くなり誰もが国王陛下の言葉を待っている。



 「皆の者、本日は我が孫娘ティアナの十歳の誕生祝賀会によく来てくれた。知っての通りティアナは無詠唱魔法を扱いその能力をさらに高めるために魔法学園ボヘーミャに留学をしておった。この数年で大きく成長をしていると聞き及んでおる。その力は我が国に必ずや貢献し、輝かしい未来を築くであろう。本日はめでたき日、皆の者よティアナを祝ってやってくれ。」



 国王陛下の言葉に会場は一斉に拍手と称賛の声が上がる。

 そしてそんな中、ティアナ殿下ご来場の声がかかり会場は一斉に入場口に注目する。

 

 ロクドナルさんの正装にエスコートされながら純白のドレスに身を包んだティアナが入場する。

 真っ赤な髪を一つにゆるく結い、左胸の前に流したスタイル。

 程よい装飾品で着飾ったその姿はとても十歳の少女に見えない。

 もっと年上のそれこそ成人間近の女性にも見える。

 まだスタイル的には胸が貧弱だがそれをカバーするようなドレスのデザインのおかげでスリムな女性を演出している。


 男性陣からほおおぉぉっと感嘆の声が上がる。

 うーん、もともと美人だがこういういで立ちをすると更に美人に見えてくる。


 

 「皆さま本日は私の誕生会にようこそおいでくださいました。まだまだ修行の身でありながらこのように盛大に祝ってもらい感謝いたします。どうぞ本日は心行くまでお楽しみください。」



 そう言って渡された杯を掲げる。



 「ティアナよ誕生日おめでとう!そなたの幸ある未来に乾杯!」



 国王陛下の音頭で乾杯が始まり周りも一斉に乾杯の声を上げて杯を傾ける。

 おめでとうと言う祝辞が飛び交い、演奏団の音楽が奏でられる。



 ティアナの元には早速祝辞の挨拶に来客人が殺到する。

 これをこなさなければならないのだからティアナもご苦労様だ。


 俺はとりあえずパパンにくっついて挨拶の列に並ぶ。

 しばらく並んだが、やっと俺たちの番になる。

 パパンは祝辞を述べてティアナの手の甲に口づけをする。


 そして俺も。


 「ティアナ殿下、お誕生日おめでとうございますですわ。殿下のますますのご発展を心よりお祈りいたしますわ。」


 そう言って、俺もティアナの手に口づけをする。

 通常は男性が女性にするものだが、女性が女性に敬意を払う時にもする仕草でもある。


 そのしぐさにおおーっと周りが騒がしくなる。

 しかしそんな騒がしさを他所にティアナは真顔で俺に言う。


 「エルハイミ殿、本日はありがとう。私も更なる高みへと精進するつもりです。どうか貴女にも私の傍らにずっと一緒にいてもらいたい。」



 やだ、男前!

 ちょっ、そんなプロポーズじゃないんだから、困っちゃうじゃないか!!



 周りもそんなティアナの特別な言葉にどよめく。

 まあ、国に帰属するティアナとしては将来優秀な人材を手元に置きたいという表明をこの場でしているわけだ。

 既に国王に専約されてはいるが、どうせならティアナの為に力になりたい。


 俺はティアナに向かってにこりと笑って言う。



 「はい、殿下の御心のままに。」



 周りから拍手や称賛の声が上がる。



 ええ、付き合いますとも、これからも。

 そしてその誓いは最後まで果たされると確信する俺だった。


 

  

 

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