第62話3-37迷宮の真実その二

3-37迷宮の真実その二



 光り輝く魔法陣は実に数百年ぶりにその威力を発揮するはずであった。



 俺は魔力を操作してボヘーミャ、サフェリナの間の異空間に力を展開してその間にあるものを引き寄せようとする。

 イメージ的には掃除機で全方向のあらゆるものを吸い込むような感じだ。

 しかし、吸い込む方向が全方向となると威力が弱まる。

 そこで一気に短時間で吸い込もうとして大量の魔力を注ぎ込んで引き寄せようとする。


 「これでどうですかしらぁぁあぁっ!!」


 魔法陣に更に魔力を注ぎ込み、その力を増す。

 すると、魔方陣が真っ赤に光り始め、びきっびきっと何かが割れる音がし始める。


 「へっ?」


 そう思った時には遅かった。

 いきなりガラスが割れるような音がしたかと思うと空間にひびが入り割れて真っ黒な異空間がのぞき見える。

 その異空間をあるものが体に電気をバチバチとスパークさせながら引きずり出される。


 それは青い髪をしたふわふわのメイド服を着たかわいい、年の頃サージ君くらいの女の子だった!!


 なんか出ちゃった!!

 どう考えてもマリアの体じゃない!!?


 その女の子は割れた空間から引きずり出されると、ふうっとため息をついて体に取り巻く電気を右手で薙ぎ払った。


 ひび割れた空間は大きく口を開けていて、どんどん空間にひびを広げ穴を大きくしていく。

 それを見た女の子はもう一度ため息をついてもう一度右手を薙ぎ払うと今度はひびの入った空間もすうっと消えてしまい、何事もなかったかのように静かな空間に戻ってしまった。


 誰もかも呆然としてその女の子を見る。


 「僕を引っ張り出すなんて、一体どこのどいつですか!?」


 可愛らしい声ではあるが、得も知れない圧迫感と恐怖を感じる。

 他のみんなも同じようで、誰も動くことすらできない。


 その女の子は俺たちを見渡す。

 そして俺を目に止めるとじっとこちらを見つめる。


 ドクンっ!!


 まるで心臓をつかまれたような威圧感!

 どっと汗が出る。


 「ふうぅん、君ですか。なるほど、ならば僕を引き寄せられるはずですね。」


 そう言って一歩俺に近づいてくる。


 

 な、なんだよ、何もんなんだよこいつ!?



 「エ、エルハイミに手を出すなぁ!!」


 いきなりティアナが業火の炎の玉を女の子にぶつけようとする。

 が、女の子はちょいと手を振っただけでその業火をきれいさっぱり消してしまった。


 「うん、お姫様はもっとしおらしくしないとだめですよ。」


 そう言ってティアナを見るとティアナはビクッとしてその場にへたり込んでしまった。


 「で、殿下!」

 

 アンナさんが呪文を唱えながらティアナの前に出る。

 次いでロクドナルさんが三十六式が一つ、ランスの技を使って女の子に飛び込んでいく。


 「やれやれですね、皆さん少し落ち着きなさい。」


 そう言ってロクドナルさんを指だけで軽くはじき、死角からナイフを持って迫っていたサージ君にふっと息をかけたと思ったら壁まで吹き飛ばし、アンナさんの【電撃】の魔法を右手を振るってかき消した。


 その場にいる全員が瞬時に理解する。

 どうあがいても勝てない化け物が目の前にいる。


 アイミがいてくれたらもしや・・・

 いや、瞬時に破壊されるだろう。

 

 俺はがくがくと震える膝に力を入れて立っているのがやっとだ。


 「そんなに怖がらなくてもいいですよ、別に殺すつもりはありませんから。」


 そう言って俺の頬にその手を付ける。


 「エルハイミ!!」


 ティアナの叫ぶ声が聞こえる。

 女の子は俺の顔を自分の顔に向かせる。

 そして俺の瞳を覗き込む。


 「やはりそうですか、これはご主人様にお伝えせねばなりませんね。」


 俺は魂の奥底まで覗き込まれたような気分になり、その場に崩れて女の子すわりで腰を落としてしまった。

 

 「エルハイミさんですか、非常に面白い。そんなにおびえなくても大丈夫です。何もしませんから。そうだ、僕の名はレイム。天秤の女神、アガシタ様の僕です。」



 「!!!」

 

   

 天秤の女神アガシタ様の僕だって!?

 なんでそんなお方がここに!?


 「何でって、異空間移動中だったのにそこらじゅうのモノを引っ張るもんだから僕まで引っ張られたじゃないですか。」


 そんな、俺の心を読んだ!?


 「まあ、これでも一応は女神の使いですからね。そのくらいは出来ます。それより、そこの子の肉体を探していたんですか?それなら残念ながら遠の昔に朽ち果ててますね。」


 マリアはレイム様に見られてビクッとしている。


 「ふう、何も取って食おうと言う訳ではないのにそんなに怖がられるとは心外ですね。そうだ、先程ここへ引き寄せられる途中に拾ったフェアリーの遺体がある、これで良ければ君をこの体に再生してあげますよ?」


 そう言って懐から小さな妖精を引っ張り出す。

 その妖精はぐったりとしていて動かない。


 「驚かせたお詫びです。どうしますか?」


 マリアはびくびくしていたが、自分の肉体はすでに朽ち果てていると聞かされ、選択肢なんてそれしかないわけだ。

 恐る恐る首を縦に振る。


 「よろしい、では。」


 そう言って懐から光る鎖を出したかと思ったらマリアに投げつけマリアをからめとってしまう。


 「あっ!」

 

 俺は思わず声を出す。

 

 「大丈夫、すぐに終わります。」 

  

 レイム様はからめとった鎖をクンと引くとマリアが光る球体となってレイム様の手の中へと消えていく。

 そしてもう片方の手に載せていた妖精が光だし、その小さな手足をぴくぴくと動かし始める。


 レイム様の手のひらでその妖精は起き上がり、背中の羽をパタパタと動かす。


 「あ、あれ?あたしは・・・」


 「どうですか?フェアリーに再生された感想は?」


 「うあっ!大きい人だぁ!!」


 慌てて飛び上がった妖精の声は紛れもなくマリアの声。


 「あ、あれ?あたし飛んでる??」


 「フェアリーに生まれ変わったのですから当然ですよ。」


 そう言ってレイム様はにっこりと笑う。


 「さて、それじゃあ僕はそろそろ行かないと。そうだ、この中途半端な魔法は僕が回収します。こんな変なものが巷に広まったらまた面倒事が増えてしまう。関連の書物なんかも回収しますからね。」


 そう言ってレイム様はもう一度右手を振るう。

 すると関連書物、魔法陣の書かれた床等がすうっと消えてしまった。


 「これで良しっと、そうだ、そこの人たちも治してあげないとね。」


 そう言って指先一つでダウンしているロクドナルさんや壁に吹き飛ばされて伸びているサージ君を回復させる。

 

 「自、自分は・・・」


 「くっ、殿下ご無事ですか!?」


 二人とも気がついたみたいだが、レイム様を見てビクッとなる。


 「ロクドナル、サージ、動くな!そのお方はアガシタ様がお使いレイム様なるぞ!粗相は許さん!レイム様、数々の不始末、どうか私めの首でお許しいただきたい!」


 そう言ってティアナは首を垂れる。

 そんなティアナを見てレイム様はカラカラと笑う。 


 「いやだなぁ、僕はそんな事気になどしませんよ。お姫さん、あなたの首なんて取るつもりさらさらありません。」


 そう言ってから俺の方を見る。


 「おや、エルハイミさんにも迷惑かけてしまったみたいですね。うーんこれは困った。そうだ、僕ので良ければお渡ししましょう。」


 そう言っておもむろにスカートの中に手を入れて下着を脱ぐ。

 女の子すわりしている俺はそれを見て初めて自分の股間が温かい液体で濡れてしまっているのに気付いた。

 途端に顔から火が出るくらい恥ずかしくなってしまってうつむいてしまう。


 そんな俺にレイム様は近づいて来て下着を渡してきてくれる。


 「手持ちがないのでこんなのしかないですが、ご容赦くださいね。」


 にっこりと笑っておられるようだが、俺は恥ずかしさのあまり顔があげられない。

 しかし、それでは不躾なので、思い切って上を見てお礼をと思った俺に衝撃が走る!!


 見上げたその位置はなんとレイム様のスカートの中が見えてしまうポジション!!

 しかも見えてしまったその中身は生前よく見慣れたものがぶら下がっている!!??




 え?

 えぇ??


 え”え”え”ええぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!?????




 「おや、見られてしまいましたか?お恥ずかしい。別に隠すつもりは無かったのですが、僕は貴女たちから見ると『男』になりますね。この姿はアガシタ様のお世話をするためにアガシタ様から指示された格好なんですよ。別に僕自身はそう言う趣味があるわけではないんですがね。」



 びきっ!

 

 俺は背景ごとひび割れた。



 「それでは、皆さんこれで失礼しますよ。また会うかもしれませんがそれまでお元気で。では。」


 そう言ってレイム様はすううっと消えてしまった。


  

 

  

 ◇





 その後俺たちは【緊急通知石】でスタッフを呼んで迷宮から運び出してもらった。


 特に俺はその後精神的ダメージが大きく帰るその日まで寝込んでしまった。

 他のみんなもいろいろとあって、その後はみんな大人し療養していた。


 迷宮で隠し部屋を探していた他のメンバーたちには見つけた隠し部屋には特に何もなかったのと、マリアはどこかへえ消えてしまったと伝え、レイム様のことは伝えなかった。


 多分言った所で信じてなどはもらえないだろうから。


 マリアはフェアリーになったが行く当てがないからと言って俺たちについてくる事となった。


 

 

 こうして俺たちの夏のバカンスは幕を下ろすこととなったのだが、最後の最後で大きな精神的ダメージをみんな喰らってしまい。ボヘーミャに戻ってからも数日は回復できなかった。



 この時はまだ精神的なダメージだけであったが、その後身体的にダメージを喰らう羽目になるとはまだ知る由も無かったのだが。


 

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