第61話3-36迷宮の真実

3-36迷宮の真実



「にょっ、にょぇぇぇぇぇええええぇぇっっっ!!!」



 地下温泉に俺の悲鳴がこだまする。


 「エルハイミ!どうしたのよ!?」


 「エルハイミちゃん!!?」


 ティアナとアンナさんが慌ててこちらへ来る。

 俺はガタガタ震えながらマリアを指さす。

 しかし、当の本人は幽霊にあるまじき落ち着きでのほほ~ンとお湯につかっている。


 「で、でましたわぁぁぁっっ!!」


 「何よ、エルハイミ、人の事お化けや幽霊みたいに!失礼しちゃうわね!」


 おい、お化けや幽霊のマリア、何ぬかしていやがんだよ!!


 「あなたがマリア?どういうつもり?なんでエルハイミにちょっかい出すのよ!?」


 ティアナが俺とマリアの間に割り込む。

 騒ぎに気付いた他の人たちも徐々にこちらに集まってくる。


 「何みんなして血相変えているのよ。私はお化けや幽霊じゃないってば。」


 「でも、あなたは大昔に殺されたのではないですか?」


 「うーん、殺されてはいないんだけど、身体だけどこかに行っちゃったのよ。」


 どういうことだ?

 もしかして自分が死んだこと理解できていないのか?


 「【鑑定魔法】!」

 

 アンナさんが鑑定魔法をかける。

 そしてマリアが一体何なのか鑑定する。


 「これは・・・」


 「アンナ、どうなの?」


 「厳密に言うと、この子はアストラルボディー、精神体で存在しています。」


 え?

 それってお化けや幽霊じゃないの??


 「お化けや幽霊は一般的に生前の思いが強く残った念です。なので新思考等は原則できず、思い残した事が達成されると昇天してしまいます。しかし精神体は精霊等に近く新思考も記憶の更新も可能です。つまり、死んでいるわけではありません。」


 「だから言ったでしょ、お化けや幽霊じゃないのよ!」


 そう言えば、今はここにいるみんながマリアを見れる。

 湯船にもやや干渉しているみたいで動くと水面が揺れる。

 つまり今は精神体として強くこの物理世界に干渉していることになる。


 「で、では一体何のようなんですの??」


 お化け幽霊の類でないのなら俺もそれほどおびえずに済む。

 まだちょっとビビっているけどマリアに用件を聞いてみる。


 「うん、エルハイミたちがここへ来るって聞いたから、お父さんのもう一つの研究室を見つけてもらいたいの。あなたたち魔法使いでしょ?ならきっと見つけられるって思ってね。あたしは多分あの時、お父さんがどこかに転移させるって言ってたんだけど気付いたら体だけどっか行っちゃって、お父さんの研究室も燃えた後だったし、お父さんもどっか行っちゃったし、お母さんは殺されたって島の人たち言ってたけどお墓しか見たことないし、家は燃えちゃったしで、今までずう~っとこの辺をふらふらするしかなかったのよ。」


 腕組みしてうんうんとうなずいている。

 えーと、どういう事?


 「ちょいと待てよ、お前さんその話どのくらい前かわかってんのかい?」

 

 イリナさんが口をはさんでくる。

 言われて初めて気づいたようにマリアは首をかしげている。


 「あれ?そう言えばどのくらい前だったのかな??」


 「精神体だけになると時間の概念が希薄になると聞いていましたが本当のようですね。」


 マリアの様子を見取ったアンナさんが説明をする。


 「マリアちゃん、よく聞いてください。貴女が精神体になってからすでに数百年経っていると思われます。」


 「数百年?」


 そうして黙り込んでしまうマリア。

 しばらくしてあれ?あれ?とか言い出している。


 「じゃ、じゃあお父さんお母さんは!?私の体は!!??」


 やはりよく理解していなかったのか。

 アンナさんはため息をついてから俺とティアナを見てうなずく。

 他の人たちも目線をそらしたり、手で目を覆ったりしている。


 「マリアちゃん、良いですかよく聞いてください。私たちも聞いた話になりますが、あの時あなたたちを悪い人が襲ってあなたのお母さんは殺されてしまい、家には火が放たれたそうです。あなたのお父さんはどうやらあなたを逃がそうとして転移魔法を使ったようですが、何かの不都合であなたの精神体だけここに残されてしまったようですね。そしてあなたのお父さんは、その悪い人たちに転移魔法を渡したくなかったようで自害してその転移魔法もろとも火をつけてすべてを燃やしてしまったと聞いています。」


 可哀そうだけど真実をごまかしても仕方ない。

 ましてや当人は何百年もこのことを理解できないでいたみたいだからここははっきりとわかっていることを伝えるしかない。


 「そんな・・・」


 流石にショックだったのか、マリアは黙り込んでしまった。

 この場のいるみんなが声をかけられずにいる。

 気づかされたら浦島太郎みたいな状態だ。

 呆然としてしまうのも当然だった。


 「じゃ、じゃあ、あたしはずっとこのままつるペタのままなの!!??」



 って、おいっ!

 そこじゃないだろ!そこじゃ!!



 「なんとなく襲われた時のことは思い出したけど、そうだったんだ。じゃあ、あたしってこの後どうすればいいのよ??」



 意外と強いなマリア。

 しかも淡白。


 

 「転移魔法って精神体と肉体が離された後、肉体ってどこ行っちゃうのよ?」

 

 ティアナが疑問を持つ。

 それを聞いた他の人たちも口々に言い始める。


 「転移が成功するならば指定されたところに運ばれるはずだよね?」

 

 「もし当時肉体だけでも転移先に現れればそこでは大騒ぎになるわよね?」


 エルフ姉妹の姉、ファルさんが疑問を持つ。


 「でも島の物語では女の子は見つかっていないって言ってよね?」


 するとエルフ姉妹の妹、ルルさんがあることを言い始める。


 「昔エルフの村でも転移魔法が便利なので魔法王ガーベルの転移魔法を研究したって言ってたけど、あたしたちエルフには使いこなせなくて、物理世界と妖精界の間の空間で物が止まっちゃってあきらめたって話聞いたけど。」


 その言葉を引き継ぎ姉のファルさんが話す。


 「結局その空間にとどまっていたものを物理界に引き戻すのにも時間が掛かったんだけど、驚いたことに戻ってきたものは送った時と同じ状態、時間が止まったかのようだったって聞いたわ。転送しようとした果物なんかは送った時と同じみずみずしいままで。だからその技術を使って魔法の袋をエルフは作った。袋の大きさに対して何十倍もの荷物が詰めて運べる魔法の袋をね。」


 「確かに、その袋は知ってる。食糧や何か入れても腐らないから冒険者に高値で売り買いされてるって。」


 商業が盛んなサフェリナではよく見かけるのだろう、サラさんはそう言う原理だったのかとかつぶやいている。


 「そうすると、マリアちゃんの肉体ももしかしてその空間に未だあるかもしれないと言う事ですか?」


 アンナさんが話をまとめ口にする。

 それを受け取ってファルさんは言う。

 

 「もし、その転移魔法が同じような原理でその空間を使っていればね。」


 「じゃ、じゃあ、エルハイミたち手伝って私の肉体取り戻してよ!!そうしたらお父さんの研究成果あげるから!魔法使いの人にはすごく価値あるってお父さん言ってたよ!!」


 それを聞いた俺たちはびくりとする。

 もし完璧でないとしても運送でこの魔法が手に入ればいろいろと国益につながる。

 物語の中にもあったがこの魔法の特徴の「使用魔力が少ない」と言うのはもしかすると現代人の魔力でもあつかえるかもしれない。


 みんな目の色を変えてマリアに協力を表明する。

 こりゃ、のんきにお湯につかってる場合じゃない!


 みんな慌てて風呂から上がり、支度を整えて迷宮に潜り込んで行った。



 「あー、マリア、着いて行かなくていいんですの?」


 お化け幽霊の類でないのでやっと俺も落ち着いたが、みんな肝心なマリアを置いてちゃったよ。


 「んー、エルハイミが見つけてくれればいいよ。」


 お気軽なマリア。


 「まあ、いいじゃない。こっちも準備できたし、ロクドナル達待ってからあたしたちも探しに行ってみましょうよ!」


 元気なティアナである。

 

 「古代の魔法、魔法王ガーベル以外の転移魔法の技術・・・」


 ああ、アンナさんがあっちの世界に・・・




 待つことしばし、ロクドナルさんとサージ君が出てきた。


 「おお、殿下お待たせしてしまったようですな。これは申し訳ございませんな。」


 ほこほこになってロクドナルさんとサージ君もまだ首からタオル巻いている。

 あ、サージ君フルーツ牛乳飲んでる!

 ずるい!

 俺も飲みたい!!


 「そんなことはどうでもいいわよ!ロクドナル、この迷宮にはまだ隠された部屋があるらしいのよ!それを見つけて古代の転移魔法を手にするわよ!」


 ティアナの説明にロクドナルさん、首をかしげる。


 「ほう、こんなところにまだ隠し部屋が存在するのでありますか?」


 「そうよ、ほら、マリアこっち来て!」


 そう言ってマリアを呼ぶティアナ。

 何故かマリアは俺の後ろに隠れたままだ。


 「だって、知らない男の人って怖いんだもん!!」


 口をとがらせて文句を言うマリア。

 アンナさんがあっちの世界いに行っているので、状況をかいつまんで俺が説明する。ついでにマリアも紹介しておく。

 話を聞き終わったロクドナルさんは ふむ、と言ってマリアに挨拶する。


 「マリア殿、ロクドナル=ボナーと申します。お可哀そうに、私で良ければお手伝いいたしますぞ!」


 うわー、男前。

 ロクドナルさんはそう言ってサージ君も紹介する。


 「して、マリア殿、その隠し部屋につながるヒントのようなものは無いですかな?」


 「うーん、お父さん確かもう一つの部屋はお風呂もあるから湿気が問題だって言ってたかな?なんでも書物がカビてしまうからって。でもお父さんお湯につかるの大好きだったからそちらの部屋も結構使ってたはずなんだけど、何故かお母さんやあたしには絶対に場所教えてくれなかったんだよね~。」


 「お風呂ですの?」


 「うん、お風呂。そう言えば昔はよくここの温泉に村の若い子連れて来いって言われてたっけ。」


 「え?この温泉そんなに前からあるの?」


 「うん、この迷宮整備しているときに湧き出たからね。」


 うーん、そうするとこの近くなのかもしれない?

 と、サージ君がフルーツ牛乳飲み終わってこっちに来る。


 「そう言えば男湯って古いけど随分と立派な石像があるなと思っていたらそんなに昔からある温泉だったのですね。」


 え?

 石像??

 女湯にはなかったぞ。

 

 ちょっと待て、古くからある温泉、部屋にお風呂がある、マリアたちに場所教えない、村の若い子を連れて来いって言ってた、男湯だけに石像がある。

 これらの条件を考えると・・・・


 「ロクドナルさん、男湯ってまだ誰か入っていますかしら?」


 「いや、我々が最後だったと思うが、サージ君、他に誰かいたかな?」


 「いえ、僕がフルーツ牛乳買ってるときにはもう誰もいませんでしたよ。」


 それを聞いた俺はすぐさま男湯へと入っていく。

 後ろでアンナさんとティアナが慌てているようだが、受付の人は俺がまだ小さい女の子なので気にも留めない。

 

 「お嬢ちゃん、どうしたの?お父さんでも探しに来たのかな?」


 受付のおじさんに ごめんなさい! と言って【睡眠】の魔法をかける。

 そして俺はそのまま浴室へ踏み入る。慌てて様子を見に来たロクドナルさんにティアナたちを呼ぶように言ってから俺は石像を探す。


 あった。


 その石像はグリフォンのような恰好をしていた。

 すぐさま【感知魔法】を発動させるとやはり仕掛けがあった。



 「エルハイミ、どうしたのよ男湯になんか入って!」

 

 「エ、エルハイミちゃん、早く出ましょう、女の子がこんなこと、はしたないです!」


 ティアナはそれほどでもないがアンナさんなんか顔真っ赤にしている。

 ロクドナルさんやサージ君もやれやれという顔をしているが、問題はそこじゃない。


 俺はグリフォンの石像のお腹の辺りを押す。

 すると口が開き鎖が出てきた。

 驚くみんなをよそに俺はその鎖を引くと、湯船の向こう側の壁がごごごごっと音を立てて開いていく。


 「あっ!?」


 俺の一連の奇怪な行動にいち早くティアナは理解をしたようで、次いで真っ赤な顔をしていたアンナさんもそちらに目が釘付けになる。


 「こう言うことですわね!」


 俺は男ならみんな思ういけない事を理解して予測したが大当たりだったみたいだ。

 みんなを引き連れてその部屋に足を踏み入れる。


 「わあぁ、初めて見る。お父さんこんなところに秘密の部屋作っていたんだ。」


 マリアはそう言いながら部屋に入る。

 俺たちも明かりの魔法をつけて室内を見ると、幾つかに部屋が分かれているようだ。

 順にそれらを調べる。

 湿気がある程度あるせいか、埃はそれほどひどくない。

 ただ、ところどころカビが生えている。


 「でも、エルハイミよくここが分かったわね?」


 「そうですね、なぜここだと?」



 ぎくっ!

 まあ、男でなければ思いつかないだろう、そのロマンに。



 しかしそこはあえて伏せておく、風呂好きと言う事にして隣の女湯が非常に近く、壁一枚しか隔たりがないであろうと言う事は秘密にしておく。



 「まあ、なんとなくですわ、お風呂好きと聞いていたのでもしやと思いまして。」



 そう言ってから各部屋を探索する。


 部屋は大きく三つで、最初の部屋が浴槽付の浴室で、その奥に研究室と魔法陣があった。そしてさらに奥には物置部屋のようなものがあり、そちらにはいろいろな書物や道具が納められていた。


 俺たちは魔法陣のある部屋でこの魔法陣について調べる。

 近くにあった魔法の本や、書類でほどなくこの魔法陣が例の転移魔法操作の為のモノであることが分かった。

 そして魔法の書に記載されていた原理を見てアンナさんはため息をついた。


 「確かに魔法王ガーベル以外で転移魔法に似た魔法を開発したのはすごいですが、これは使い勝手が悪すぎますね。」


 アンナさんの説明では、前世にあるコイルガンのようなものらしい。


 どういうことかと言うと、小学生の頃電磁石と言うのを理科の実験でやったと思うが、コイルを釘に巻き付けて電気を流すと磁界が発生して釘が磁石になる。

 この原理を応用して筒状のモノの真ん中辺にコイルを巻き付け、筒の端に小さな鉄の塊を置いて電気を流すと筒のコイルを巻いた所まで鉄の塊が引き寄せられる。

 そのまま電気を流し続けると鉄の塊は中央のコイルの所で止まってしまうが、中央付近に来た瞬間電気を切ると鉄の塊はその勢いを殺さず筒の反対側から飛び出す。

 これがコイルガンの原理だ。


 この魔法陣も同じような原理で、召喚魔法の原理を利用して端からここまで転移したらその瞬間異空間を維持して魔法を止めると惰性で反対側にそれが飛んで行って出口の魔法陣に吐き出されるというものである。

 なので物理的に大きなものは運べないが使用魔力は全移動距離の半分で済むので消費魔力は少なくて済む。

 更に引き寄せる瞬間だけ強く引き寄せられれば瞬間なので魔力使用量も抑えられるので合計使用魔力量は更に抑えられる。


 しかし問題もあり、通常の召還魔法と違うので精神体まで引き寄せられないようだ。

 実験はされていないので実際はどんな結果が出るかまでは研究されていなかったが、マリアの例を見る限り肉体と精神体は分かれて肉体だけ異空間で移動させられているようだ。

 しかし、当時緊急処置でマリアだけでも逃がそうとしたのだろう、端からの力かからない分、吐き出しも出来ずどうやら異空間にマリアの肉体は放置されたままになっているようだ。


 そこまで魔法の書を解読したアンナさんは仮説を立てる。

 初動の運送力が不足しているので、たぶんマリアの肉体はこの近くの異空間にまだ漂っているのではないか。

 また、エルフの姉妹の話から、その異空間が同じ性質ならその肉体は朽ち果てることなく健在なのではないか。

 そして、その異空間から肉体を引き戻すにはかなりの魔力を消費して真ん中であるここミロソ島の地下迷宮第二の研究所に呼び戻さなければならないだろうと言う事。


 これらの条件をすべて満たすことは本来不可能。

 しかし、ここには莫大な魔力を保有している俺がいる。

 つまり、強力な掃除機がいるわけだ。

 

 「上手く行くかどうかはわかりませんが、エルハイミちゃん、やってみましょう。」


 「ええ、勿論ですわ!マリア待っていてくださいな、貴女の体を引き寄せて見せますわ!」


 やる気満々な俺にティアナは心配そうにしている。


 「エルハイミ、無理だけはしないでよね、やだよまたあんなことになっちゃうのは・・・」


 ティアナにしては珍しく弱気だ。


 「殿下、ご安心ください。私がちゃんとサポートしますから。それに最大でもここからボヘーミャかサフェリナかくらいの距離分の魔力消費です、エルハイミちゃんの膨大な魔力なら大丈夫ですよ。」


   

 そう言ってアンナさんは呪文を俺に教えてくれる。

 意味を理解しながら今回は俺も詠唱をしながら集中をする。

 アンナさんのサポートの呪文も重なっていよいよその魔法陣は数百年ぶりに輝きを増すのであった。  

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る