第63話3-38バカンス後日談
3-38バカンス後日談
衝撃の生徒会主催夏季合宿は最後の方でとんでもない目にあってしまった。
今はボヘーミャに戻ってきて数日が経った後だった。
いろいろあって特に精神的にこっぴどくやられた俺はここ数日でどうにか回復できた。
「はあぁっ、災難でしたわ。」
テラスでお茶を飲んでいる、いつものように。
他のみんなは俺より早く回復したが、それでも思うところはいろいろあるようだ。
あの後、ティアナやロクドナルさん、アンナさんやサージ君まで自主的にいろいろと鍛錬を行っているようだ。
もちろん俺も一昨日辺りから参加してはいるが、そん時に驚いたのは学園長の宿題以上にハードな鍛錬を行っていることだった。
「あれだけ力の差を見せられれば少しはやらなきゃって思わされるわよ。」
ティアナは鍛錬の時そう言っていた。
レイム様の足元にも及ばなかった俺たちは各々が思うところがあって誰と言う訳ではなく自主的に鍛錬が厳しくなっていった。
それはそれでいいのだが、今俺たちを悩ませる問題は目の前にいるこいつを含め、今回あったことを学園側に説明しなければならないのだが、問題が問題なだけに面倒そうだと判断した学園側は俺たちに事情説明を学園長に直接話に言ってもらいたいと言う事らしい。
妖精、フェアリーのマリア。
見た目は薄いドレスを着た成人女性の姿をしている。
スタイル抜群のグラマラスなマリアは薄い水色の緩やかなウェーブのかかった髪に透き通る白い肌、整った顔つきはまさにお人形さん。元のマリアとは全く違った美人であった。
もちろんフェアリーなので身長は約人間の十分の一、大体十六センチくらいだろうか?
背中から昆虫的な羽が生えていて、飛ぶとその軌跡にキラキラとした光の残像をわずかに残す。
まさしくおとぎ話に出てくる妖精そのものである。
「ねぇねぇ、マカロン大きすぎる、誰か小さく割ってよ!」
その外観に対してこの口調はミスマッチだと思うのだが、精神年齢は俺と同じくらい五、六歳だから仕方ない。
誰となくマカロンを割ってマリアに渡す。
マリアはそれを嬉しそうにほおばり食べている。
「さて、そうなるとマリアの事はもちろん、やっぱり学園長にはレイム様の事も話しておかないといけないわよね?」
マカロンを口にほおり込みながらティアナは言う。
「流石に今回の事は学園長には報告しておかないといけないでしょう、レイム様が人間の前に現れると言う事自体希少なわけですし。」
アンナさんもお茶を飲んでからため息をつく。
「で、ありますな。」
珍しくロクドナルさんは口数が少ない。
そんなみんなにサージ君はお茶のお代わりを入れて回る。
「それで、今から学園長の所に行かなきゃならないんだけど、どうに報告するかだわね。」
こめかみを押さえながらティアナは唸っている。
まずは妖精の件だが、王族や貴族なので妖精をペットとして飼っているものはいる。
なのでマリアの件はいいだろう。
問題は神の使いであるレイム様とお会いしたという話は下手をすると国家が転覆するほどの大問題になるかもしれないと言う事だ。
腐っても神様のお使い。
その発言一つ一つは王の絶対命令をも凌駕する。
しかし今回のようなケースはイレギュラーもイレギュラー、本来の目的があっての接触とは訳が違う。
間違って神様の使いを異空間から引っ張り出しました、てへっ、ぺろっ! ですまねー話。
「ありのまま話したとして、学園長がなんと言うやら。」
ティアナでなくても頭が痛い。
多分、今回の件は学園都市ボヘーミャとしては事無きに進ませるだろう。
明確な神の意思があっての接触ではないのだから特に学園側にリスクは見当たらない。
自分の管轄している土地での問題でもないし政治的動きはないだろう。
ただ、自分の学校の学生が関わっていたと言う事は無視できない。
通常は事情徴収やその内容によっては謹慎を言われるかもしれないが、今回はガレントのお姫様が相手だ。
そうやすやすと謹慎処分にするわけにもいかない、結局学園長に全てをゆだねることとなった。
「悩んでいても仕方ないわ、とりあえず学園長のところへ行きましょう。」
そう言ってティアナは立ち上がった。
つられ皆も立ち上がる。
そして食い意地のはるマリアを捕まえて一同学園長室に向かう。
ここへは二度目になる学園長室。
前回は俺一人で来たが今回は大人数だ。
扉をノックして待つことしばし、中から学園長の声がして入室許可された。
「どうぞ、おはいりなさい。」
「失礼します。ティアナ=ルド・シード・ガレント他三名参りました。」
そう言って正式な挨拶を俺たちはした。
「どうぞ、かけください。」
そう言って学園長はソファーを進める。
事前に訪問を伝えていたので全員が座れるように予備の椅子も準備されていた。
学園長は前回同様に自分で人数分の緑茶を入れてみんなにお茶を出してくれた。
すがすがしい緑茶の香りと湯気が立つ。
学園長は自分の席に座り、どうぞとお茶を進めながら自分もお茶を一口すする。
「さて、事前に報告ありましたが生徒会主催の夏季合宿で大きなイレギュラーが発生したと聞き及んでいます。具体的に何があったのか話してもらいましょう。」
そう言ってティアナを見てから俺を見る。
「はい、実は今回天秤の女神アガシタ様の使いであるレイム様に接触をしました。」
ぴくっと小さく震えてから学園長は続きを話すよう言う。
ティアナはいったんお茶をすすってからみんなを見て話しを始める。
「事の始まりはミロソ島の肝試しで幽霊と思っていたマリアという少女との接触から始まります。」
ティアナはそう話を始めた。
学園長は静かにその話を聞き、たまにお茶をすするが最後まで一言も間で話すこともなく、ティアナの話を聞き終える。
ティアナも島で起こったことをすべて包み隠さず伝えた。
学園長はもう一度お茶をすすってから大きなため息を吐いた。
「まずは報告ご苦労様でした。実際にわかに信じがたいこともありますがティアナ殿下の話に嘘偽りはないと思っています。」
そして、お茶の追加を俺たちにふるまう。
「あ、あの学園長・・・」
言い淀むティアナに学園長はテーブルの上でお茶請けと格闘しているマリアを見ながら、ふうっ と息を軽く吐く。
「率直に言うとよく生きて帰ってこれたものです。あのレイムがよくもあなたたちを殺さず、しかもマリアさんに新しい体を与えるなんて、ずいぶんと丸くなったものです。」
丸くなった?
どういうことだ??
「たびたびおかしいとは思ってたのです、あれだけの力を持ちながら私たちにあまり積極的に協力しなかった理由がわかりました。」
だんだんと学園長の震えが大きくなってきた。
肩をわなわなと震わせている。
一体どういうことだ?
バキンっ!!
学園長が持っていた湯飲みが割れる!
そう、学園長自身が握りつぶしていたのだ!
「なっ!?」
俺を含めここにいる全員が驚く。
「レイム!あなたのことだからどこかこの近くにいるんでしょう!出てきなさい!!」
学園長の叱責にどこからともなく笑い声が聞こえてくる。
「あははははっ、さすがユカ、よく僕が近くにいることに気づいたね!」
そう言ってあのメイド姿のレイム様がすうっと現れる。
「レイム、あなたなんて格好してるのですか!?」
「うん、君の怒った顔と驚いた顔両方みられるとは思わなかった。元気にしていた?」
立ち上がり腕組みをしている学園長。
その物腰には殺気すら含まれている。
「いったいどういうつもりなのです?あなたがこの子たちにちょっかいだすとは?」
けらけら笑うレイム様だが、学園長は油断なくその様子を見ている。
「いや、そこの子、エルハイミさんだっけ?彼女の力が強くて引っ張り出されたんだよ、ほんとに。」
「まさか、偶然とでも?」
「いやいや、これは本当に偶然でした。ただ、僕を引き寄せるほど強力な魔力を使える人間がいるとは思わなかったけどね。それに彼女はかなり面白いよ。」
にこりと笑顔で小首をかしげる。
知らない人が見れば思わず鼻の下を伸ばすだろうその愛らしさは、しかし彼女ではなく、彼なのだこの神の使いは。
「まあ、いいです。しかしこれですべてが納得いきました。レイム、あなた神の使いだったのですね?」
「うん、ごめんね今まで黙ってて。あの時はアガシタ様からこの事は話しちゃダメだって言われてたので仕方ないんだよね、ああ、マーヤたちも勿論知らないよ。ユカだけ仲間外れってわけじゃないから安心して。」
「その力あればアノードも死なずに済んだでしょうに!」
レイム様はやや困った顔して頬を指でかく。
「だって仕方ないじゃないか、僕が言われてたのは魔人たちの討伐までで、その後の人間同士の問題には介入できないよ。勝手に手を出したらアガシタ様に怒られちゃうもん。」
「よくもぬけぬけと!」
レイム様の言葉に機嫌を悪くした学園長は怒りをあらわにした。
「まあまあ、そんなに怒らないでよ、そうだ、お詫びに一ついいこと教えておいてやるよ。君も知っている通り最近北の方がいろいろと動いているよね?小競り合いのうちはいいけどそろそろバランス崩す動きが出るかもしれないよ。」
「それはどういう意味ですか?」
「うーん、まだはっきりわかっていることじゃないけどどうやら君たち英雄に対抗する為に何かしているらしいって事かな?」
「英雄に対抗する?」
学園長はそう言ってあごに手を当て思案する。
「まさか、あの時動いていた訳の分からない組織ですか?」
「ごめん、僕もまだそこまではわかっていないんだ。今はアガシタ様にも情報集めろって言われてるだけだしね。」
レイム様は肩をすくめ、両手を軽く上げる。
なんだ、なんか話が大きくなってきたな。
「ま、そんな訳で僕はそろそろ行かなきゃならない。アガシタ様の言いつけもあるんでね。それじゃユカ、また近いうちに会えると思うけど、元気でね。お姫さんやエルハイミさんもまたそのうちまた会いましょう。それじゃ、皆さんまたね!」
レイム様は言いたい事だけ言ってまた すうっ と消えてしまった。
「待ちなさい!レイム!! ・・・・また逃げられたか。」
学園長の静止むなしくレイム様は消えてしまった。
「あの、学園長?」
しばし間をおいてティアナが学園長を呼ぶ。
学園長はレイム様が消えた虚空をわなわなと見つめていたが、ティアナの呼びかけにふっと力を抜いてこちらに向き直す。
「ふう、見苦しい所を見せたわね。ご覧の通りよ。レイムとは知り合いだったの、まさか神の使いとは思わなかったけどね。」
「それより、学園長、北の動きって・・・」
ティアナは一番気にしていることを学園長に聞いてみる。
「そうね、殿下にはそちらの方が気になるわよね。魔人戦争で最後に魔人を討伐したのってどこだか知ってるかしら?」
そういえば、魔人戦争の決戦の場って・・・
「北のノージム大陸、名もなき小国だったところ。今は復興してルド王国になっているはず。」
アンナさんが答える。
「そう、今は新興国ルド王国になっている場所よ。ホリゾン帝国の庇護下にあるここは名目上は魔人を討伐した場所にまた余計な者が魔人復活をさせないために監視を目的として成り立った国と言う立場だけど、その実はホリゾン帝国の軍事試験場となっているのよ。」
そう言えばルドの国って別名「見守る国」とか言ってホリゾン帝国に援助してもらいながら近年その軍事力を大きく拡大していると聞いた事が有る。
「あまり知られていないけど、ルドの国は突然異変で出てくる英雄の要素についてかなり研究が進んでいるの。英雄と呼ばれる人たちは例外なく女神とその魂が強く結びつき、通常ではありえない魔力操作が出来たりその女神に属する魔法を容易に取得出来たりする特徴があるの。それを人工的に出来るようにしたらどうなると思う?」
「それは世界の軍事バランスが崩れます!一騎当千以上と言われる英雄はまさしく人類の切り札、そうやすやすと人工で英雄が生まれるとは思えません!」
アンナさんが答える。
学園長は首を縦に振るが確かに人工で英雄が量産できたらえらいことになる。
「今はまだ成功したとは聞き及んでいません。しかしそれに近い事が開発されているとしたらどうかしら?つまりはそう言うことです。そしてそれは実戦で無ければその真価は問えない。」
北に不穏な動きが出て、更に真価を問うならば英雄と戦わせればその成果が検証される。
まさか十数年前の北陸戦争ってそれが原因!?
「確かにあまりいい話ではありませんね。それにもしそれにあの訳の分からない組織が絡んでいるなら見過ごせない問題になります。」
「訳の分からない組織?」
ティアナの質問に学園長はええ、と言いながら話を続ける。
「当時からその組織は全容がつかめませんでしたが、一つ言えるのは人類に災いを引き起こす引き金であると言う事です。」
「それってどういうことですか?」
見るとティアナが固くこぶしを握り締め学園長に聞き入れる。
「人類に災いが起こる背後にはその組織の影が必ずうごめいているようなのです。」
「そんな!」
ティアナは思わず立ち上がる。
そんなティアナに学園長は冷静に話をする。
「そこで、あなたたちガレントの皆さんにはそう言った問題の抑制力となる力をつけてもらおうと思います。私一人ではとても対処しきれる問題ではないでしょうから。それに丁度良い、あなたたちは夏季休暇中もここへ居残るわけです。明日から再びあなたたちには私の知りうる技全てを伝授しましょう。」
へっ?
それってどういう事!?
「次に北に動きがあるとしてもまだ時間はかかるでしょうし英雄に匹敵する力もそれほど多くは無いでしょう。ならばあなたたちを鍛え上げる時間はあります。」
「願ってもないお話です、ぜひお願いいたします!」
ティアナの返答に学園長は満足そうにうなずいている。
自国を守る為、過去の因縁にあがらう為、双方の利害が一致した。
そしてその力をつける為俺たちは学園長のシゴキ・・・もとい、特訓を受けることとなったのだ。
そしてそれは俺たちにとって、お願い、いっそのこと一思いにとどめを刺して!!
そう思う毎日の始まりでもあった。
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