第60話3-35迷宮
3-35迷宮
またまた昨日マリアに驚かされた俺はびくびくしながらアンナさんにくっついている。
不浄の者を浄化する魔法【浄化昇天】を使えるのは女神に対して信仰心が深く、死後その信仰する女神の元へ行くことを強く望むものにしか使えないらしい。
大抵は教会大司祭などにならないと使えないらしいが、魔術に長けていて信仰の深い者にも使える場合がある。
それがアンナさんであった。
もっとも、それ以外にも霊体は精神体みたいなもんだから精神に干渉する魔法でダメージを与えることもできるのだけど【浄化昇天】魔法ほど効き目は強くない。
頭ではマリアが悪い子じゃないだろうし、危害を加えるそぶりもないから問題ないとわかっていても幽霊とか大の苦手な俺は急に現れたり、驚かされるのが苦手で、こうして今朝からびくびくしながらアンナさんにくっついているわけだ。
「全く、エルハイミって意外とこういうのだめなのねぇ~。」
けらけら笑いながらティアナは俺をいじってくる。
ティアナはなんかモンクみたいな動きやすそうな服着て手にはごついグローブというか、メリケンサックみたいのしてる。
「仕方ありませんな、人には苦手なモノの一つや二つはありますゆえ。」
笑いながら歩くロクドナルさん。
しかし軽装の戦士の冒険者風。
「大丈夫ですよ、エルハイミちゃん。何かあれば私たちが守ってあげますから。」
母性に目覚めたのか、ものすごく甘やかせてくれるアンナさん。
こちらも絵にかいたような魔術師のかっこう。
「ところで、お昼のお弁当こんなにもいるのでしょうか?」
付き人のサージ君はかなりの荷物を持っている。
でもその恰好はいかにも冒険者パーティーの荷物持ち役っぽい服装。
そう言えば、俺はなぜか司祭のような服装を着させられている。
朝からティアナがレンタルで持ってきた服だ。
そしてほかの参加者連中も。
なぜみんな冒険者風のかっこうしてんのっ!?
「それでは皆さん、もうすぐミロソ島の迷宮入り口となります。迷宮内には様々なアトラクションが設置されていますので追加オプションを希望の方は入り口の管理棟で手続きをお願いします。我々生徒会は南口の出口で馬車を待機させますので皆さん楽しんで来てください。途中迷宮で迷って出れなくなるや、体調不良で動けなくなるなど緊急時は入り口で無料配布される【緊急通知石】でスタッフに知らせるようにお願いします。これは一度しか使えないので、各人持つようしてくださいね。」
もう生徒会なのかアインシュ商会なのか分からなくなってきたロザリナさんはそう言って迷宮入り口前の管理棟までみんなを案内した。
ここで迷宮内での各種オプションを追加できるのだが、学生割ができるので今がお得とか、十名以上の団体様の場合さらに団体料金でお得とか、非常に商売上手である。
ティアナはオプション一覧を見ながらうなっている。
「せっかくだから案内は無しでやってみたいわね。その方が雰囲気出るし。それと、モンスターとの疑似戦闘体験は絶対やってみたいわね!後は~」
「殿下、基本マップは無料配布ですが、探索済みマップはいかがいたします?」
アンナさんがメニューを見ながら考える。
「うーん、マッピングも面白そうだけど、モンスターとの疑似戦闘体験の場所まで行くの時間かかるのは嫌だからそれも買っておきましょう。」
「殿下、一応ポーションとかも売ってますがどうしますか?」
見るとお値段ちょとお高めのポーションなんてのもある、これってジュースか何かだろう?
お店の人に聞くと一応本物で、ローポーションだとか。
ちょっと疲れ軽減とか、魔力少し回復はするみたいだ。
面白そうなのでそれも買ってみる。
「購入した品物は全部僕のところで保管します。その他体験オプションのチケットも僕が持ちますので、皆さんはマップを見ながら進んでください。」
サージ君は購入したポーションとかチケットとかをカバンにしまい込みながらそう言う。
準備万端でいざ出発!
入り口では準備のできたグループから順に迷宮に入っていく。
入り口で【緊急通知石】をスタッフに渡されてから俺たちも入っていく。
アンナさんが魔法の杖に明かりの魔法をつけて、ロクドナルさんが前衛、中間がティアナとアンナさん、しんがりが俺とサージ君の隊列でまずは基本の順路を進む。
迷宮の中は整備されていて、すべて石畳でできていて壁や天井もきれいに整備されている。全体的にぼうっと明るく調整された内部はかろうじて明かりがなくても見えるかどうか程度。
「へえ、迷宮てこんな感じなのかな?」
「殿下、ここはだいぶ調整されているので実際はもっと荒れた状態でしょう。」
「観光用でありますからな。しかし、雰囲気は悪くない。」
各人がいろいろと感想を述べながら最初の分岐点に到着する。
看板が設置されていて、モンスターとの疑似戦闘体験は右側、迷路コースは左側、基本探索コース順路は真ん中だそうだ。
ティアナは迷わず右側へと曲がる。
まあ、ここに入る目的のほとんどがティアナ一押しのモンスターとの疑似戦闘体験だもんね。
右側に一同進む。
しばらくすると分岐点があり、また看板がある。
右が疑似戦闘体験場、左がこの迷宮の歴史展示場となっているそうだ。
ちょっと歴史展示場にも興味があるがとりあえずは疑似戦闘体験だな。
みんなで右に向かうとほどなくちょっとした広間に出る。
スタッフの人がいて、その人にサージ君はオプションのチケットを渡す。
「ようこそ疑似戦闘体験へ!皆さんこのアトラクションははじめてでしょうか?」
「ええ、初めて!とても楽しみにしてるわ!」
「分かりました。それでは、まずはご説明をさせていただきます。」
スタッフの人はモンスターとの疑似戦闘体験について説明を始めた。
まず、いくつかルールがあってそれの説明から入る。
一、疑似モンスターは実態がない投影魔法のようなものなので戦闘は必ずフィールド内ですること。
二、魔法の使用は禁止
三、モンスターの急所を予定数破壊すると勝利となる。逆にモンスターの攻撃を何度も受けると敗北となる。ちなみに
モンスターの攻撃は分かりやすいように多少の圧力などが身体にかかるので先に了承してもらう事。
四、戦闘中のポーションなどのアイテム使用は禁止
五、上記ルールを破った場合、危険行為があった場合は安全のため直ちにプログラムを中止するので了承のこと。
以上のルールを守ってもらう事と、これから俺たちに難易度を決めてもらうそうだ。
難易度とは、これから疑似戦闘で戦うモンスターの強さを選ぶことである。
スタッフの人によると、初級、中級、上級とあるらしく、最初なので初級をお勧めされた。
「初級はゴブリン、中級はオーガー、そして上級はレッサードラゴンです。」
「上級でお願いするわ!!」
おい、ティアナせめて中級にしろよ。
いきなりレッサードラゴンて、どんだけ無茶ぶりだよ!?
スタッフの人も苦笑いしているが、お客の要望なので上級で疑似戦闘を始める。
全員が武器をもって戦闘フィールドに入る。
ロクドナルさんは剣を、俺はモーニングスター、ティアナは素手で、そしてアンナさんは槍を持っている。
すべての武器は安全を考慮されて打撃部は柔らかい素材が使われている。
一番凶悪なのはティアナが最初からつけているメリケンサックかな?
あれ、感知魔法で見たら本物だよ!!
「それでは始めます。」
スタッフの人が操作する水晶が淡く光ると、ちょっと透けているレッサードラゴンが俺たちの前に現れる。
「ぐるるるるっ!ギャォォオオオオっっっ!!」
一応鳴き声とかも再現されている。
レッサードラゴンはまずその長い尻尾を振って全員をなぎ倒そうとする。
もちろんそんな動きはお見通しなので全員がバックステップでそれを避ける。
次いでリーチの長い槍や剣がドラゴンの顔や腕、胸元を襲う。
命中するとその部分が赤く点灯する。
ドラゴンは咢を開き前衛のロクドナルさんに噛みつこうとする。
ロクドナルさんはそれを半身引いて剣でいなし、スキができたところに俺のモーニングスターや横から入り込んだティアナの鉄拳が命中する。
とたんに当たったところが赤くなる。
「結構、面白いわね!手ごたえがないのが残念だけど、入ると赤くなるからわかりやすい!」
「そうですわね、学園長のしごきに比べれば余裕ですわね!」
などと油断していたら、なんとドラゴンブレスが来た!
間近なのでよけられない!
俺たちはアンナさん以外はみんなドラゴンブレスを受けてしまった。
と、体全体にドライヤーで熱風を受けたような圧力がかかる!
おおっ!すっげー、これ確かにブレスっぽい!!
「本物だったらこれで動けなくなってしまう、いやはやいささか甘く見過ぎましたな!」
そう言ってロクドナルさんは動きを変えて滑るようにドラゴンの足に切れ込みを入れていく。
俺もモーニングスターをドラゴンの鼻先にヒットさせたり、アンナさんもちょこちょこと腕や首筋にヒットを入れる。
ドラゴンの赤い部分がどんどん増えていき、いよいよ急所ポイントが点滅し始める。
急所ポイントは頭と心臓!
ドラゴンの噛みつき、尻尾の攻撃を避けながら、ティアナが頭に、ロクドナルさんが踏み込み心臓にその一撃を入れる!
見事にそれらは点滅する急所を打ち抜きドラゴンは呻き声を吐きながら霧散してしまった。
そしてコモン語で「おめでとう!」の文字が浮かび上がる。
「おめでとうございます!上級モンスター討伐成功です!」
スタッフの拍手で戦闘終了。
スタッフから上級モンスター討伐のバッジを景品でもらう。
安物のバッジだが、いい思い出の品物になりそうだ。
その後、軽く休憩してから迷宮の歴史展示場を見て、ティアナが迷宮コースに行こうと言い出した。
まあ、まだまだ時間もあるだろうから大丈夫だろうとそちらを進む。
一応有料のマップにはこちらの迷宮ルートも記載されているので、そうそう迷うことなく進めるだろう。
そう思いマップの通りに進むと・・・
「地下温泉」
なんか変な標識が出てきた!!
「温泉?なにそれ?」
ティアナが読みあげたそれは温泉に間違いない。
「確か、地中から湧き出た温かいお湯で、地中のあらゆる成分を含んでいるのでいろいろと効能があったと記憶しています。」
さすがアンナさん、よくご存じで。
俺ももう一度標識を見ると、何やら説明文章が付随している。
「えーと、当地下温泉はミロソ島唯一の温泉であり、迷宮整備の折偶然にも湧き出た温泉でその効能は美肌から関節痛、冷え性肩こり、筋肉痛と幅広い効能を持っており迷宮を訪れる冒険者にひと時の安らぎをもたらすオアシスです。どうぞごゆっくり地下温泉をお楽しみください。ですって?」
「美肌!」
「肩こり!?」
「関節痛、筋肉痛ですとな!」
うーん、なんかみんな変に反応しているな。
でも冷え性か、元日本人としては温泉というだけでテンション上がるんだが。
「入っていきましょう!」
「そうですね、是非とも!」
「いいですな、筋肉の療養にも良いとは。」
早速地下温泉の標識の方へと進む。
ほどなく壁にのれんのようなものが掲げられている入り口にぶつかる。
「男」と「女」と表記されたのれんをくぐれば受付があった。
「いらっしゃいませ、地下温泉にようこそ!入浴料はおひとり様銅貨三枚です。温泉セットは銅貨五枚となります。」
受付嬢から説明を受け、温泉セット込みで代金を支払う。
そしていそいそと服を脱ぎ、髪をまとめてから温泉セットのタオルや石鹸、シャンプーのようなものをもって、いざ突入!
入ってびっくりした。
かなり広い。
洗い場はもちろんだが、湯船がすごい!
岩でできた壁からお湯がなみなみと滝のように流れ入っている。
湯船は趣がある岩で囲まれ、形状は不定形。
部屋全体がぼうっとした明かりで照らし出されていて、まるでライトアップした鍾乳洞の地下池のようになっている。
先客がいたようで話し声が聞こえる。
見るとエルフの姉妹かな?
あ、あっちにはスィーフの人たちもいる。
って、もしかしてダンジョンに来たうちの連中みんなここにきてるのか??
「おや、ガレントのお姫さんじゃないか。」
イリナさんが気付く。
「あら、あなたたちも入ってきたの?」
サフェリナのサラさんだっけ?
他にもサフェリナの美女軍団のおねー様方がくつろいでいる。
湯気が強めだが俺は今、猛烈に感動している。
まさしくパラダイス!
桃源郷はここにあったのだ!
「あら、みんなも入っていたんだ。ってほとんど全員じゃない!?」
そう言われてよくよく見れば確かにイザンカのフィルモさん以外みんな温泉につかっていた。
すごいな、こういうのって初めてじゃないか?
もう、どこ見ても男の子の心がおっきしまくりだけど。
俺は落ち着かずきょろきょろしながらティアナ、アンナさんと湯浴みしてから湯船につかる。
おおっ!?
さすがに普通のお湯とは違い、なんか肌にまとわりつくような滑らかさがある。
肩までつかりよく温まる。
ふぅぃぃぃいいぃぃ~。
やっぱり温泉は気持ちいいなぁ~。
冷え性は相変わらずなのでよく温まる。
と、サフェリナのレコさんがこちらを見る。
「ねえ、あなた確かエルハイミって名前だったわよね?」
「はい、そうですけど、そちらは確かレコさんでしたっけ。」
「うん、そう。ところであなたの横にいる子って誰?」
おや?
ティアナを知らないはずないのにな・・・
そう思い、言われた方を見ると気持ちよさそうにお風呂に入るマリアがいた。
「にょっ、にょぇぇぇぇえええええええぇぇっっっ!!!!」
温泉に俺の悲鳴がこだまする。
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