第59話3‐34サバイバル

3‐34サバイバル



 昨日は散々な目にあった。

 

 そうだよ、苦手だよ、お化け幽霊、怪奇現象についでに怪談や呪いの話、みーんな大嫌いだよ!!

 朝から拗ねてる俺。

 それをからかうように笑うティアナ。

 抱っこして優しく髪の毛をなでてくれてるアンナさん。

 とりあえず周りでピコピコ言ってるアイミ。


 三者三様の慰め方なんだろうけど、今回の件はマジでへこんだ。

 まさか最後の最後に本物に会うとは。




 気を取り直して朝食を取りに行く。


 あれ?サージ君しかいない。


 「サージ、ロクドナルはどうしたのよ?」


 「おや、言ってませんでしたっけ殿下?ロクドナルさんならもうとっくに釣り大会で出かけましたよ。」


 サバイバル訓練の海編、食料調達についてはあまり考えていなかった。

 なので開催時間とかまったく気にしていなかったので気付かなかった。


 「えー、そうだったの?あたしも釣りしてみたかったなぁ。」


 「そうですね、まだ大丈夫なんじゃないですか?生徒会長やほかの人、数人もさっき出てったので。」


 それならと言う事で、朝食を簡単携帯できるものにしてもらいサージ君にくっついてみんな開催地へ向かう。


 そこはすでに男性陣中心ににぎやかに釣り大会が開催されていた。

 ホテルから見て港のちょうど反対側にある岩場が開催地だ。


 ちょうどせり出したそこは先端に灯台用の灯の台がある。


 先ほど来た生徒会長たちは地元の漁師さんたちに釣りの仕方をレクチャーされてるようだ。

 それより先に来ている人を見ると結構釣れているようだな。



 「おお、殿下おはようございます。ご覧ください早朝よりの釣果ですぞ!」

 

 見るとバケツに六十センチくらいあるイナダっぽい魚が数匹入っていた。

 地元の漁師さんに教わっているらしく、血抜きしているみたいだった。


 「へえ~凄いじゃない。ね、ね、あたしもやってみたい!」


 興味深々のティアナにロクドナルさんは竿を渡す。

 そして針を引き上げ、かたわらにあった小さな箱を引き寄せる。


 「殿下、これから餌を付けますからしばしその竿を動かさずお持ちください。餌をつけましたら、そうですな、あの白波が立っているあたりに投げ入れてみてください。うまくいけばすぐに食いついてきましょうぞ。」



 そう言って小さな箱を開けて中からゴカイのようなうにょうにょした虫のようなものを取り出す。



 「きゃあぁぁぁっっ!!何それ!気もち悪いっ!!」


 びくっとして一歩下がるティアナ、持っていた竿を引いてしまう。

 それと同時に押さえていた針がロクドナルさんの手を離れてティアナに向かう!


 ぱしっ!

 ぴこぴこっ!!


 アッと思ったが、すぐにアイミが動いてくれて難無く済んだ。

 あぶねー、針って結構引っかかると傷になるし痛いんだよね。

 

 「殿下、大丈夫でありますか!?」

 

 慌てるロクドナルさんだが、アイミのおかげで問題なかったので安堵の息を吐く。

 アイミから針を受け取り、ティアナから竿も受け取る。


 「知らなかった、釣りってそんな気持ち悪いもの使ってするんだ。」


 「確か、その虫は匂いが強く魚が好むらしいですね。」


 アンナさんがうーんと上を向きながらその知識を記憶から掘り起こす。


 「はっはっはっ、アンナ殿の言う通り、地元の方に聞いたらこれが一番いいらしいですぞ。ほかの餌より食いつきが良い。」



 そう言っている横で俺はおもむろにその虫を摘まみ上げる。

 そして軽くにおいをかぐと、確かに匂う。


 しかしそれを見たティアナとアンナさんが大騒ぎする。


 「エ、エルハイミっ!何してるのよ!!」


 「エルハイミちゃん!!そんなものつまんで!ふ、不潔ですよ!!」


 慌てる二人をよそに俺はロクドナルさんが持っている針にチャチャっとその虫をくくり付ける。

 そして竿を借りてひょいと白波の辺に投げ込む。

 するとすぐにグンっ!という引きが来た!

 俺はタイミングを見合わせて竿を引く。

 ググッ!!

 

 よし乗った!!


 「ティアナ、ロクドナルさん、来ましたわ!!手伝って!!」


 ちょっとショック状態だったティアナや様子を見ていたロクドナルさんは慌てて俺を手伝う。


 「これは大物ですな!!」

 

 俺の体を押さえるティアナ、俺の持つ竿を横から手助けするロクドナルさん。

 いよいよその竿はしなりを強め大きむ曲がる、が、まだまだ折れることなく頑張ってくれている。

 よし、もう少しだ!


 「行きますわよ、せーの!」


 「「「どっせいぇええぇぇぇぃぃいいいっ!!」」」


 三人の声が重なり一気に獲物を釣り上げる。

 獲物はたまらず海から引き揚げられ、勢い余って宙を舞い、そのまま俺たちの足元まで飛んできて落ちた。

 

 ばっしゃーん!

 ひゅるるるる~

 ぼとっ!

 びちびちっ!

 ビクンビクンっ!!


 「!!」


 な、なんじゃこりゃぁ!!


 人魚だ!

 しかも男の人魚!!

 さらに言うと筋肉隆々のマッチョな人魚!

 上半身が男性で下半身は魚。

 いかつい顔の角刈りのマッチョな人魚。


 「うあっ!なにこれ!!」


 「いやっ!不潔です!!」


 「むう、マーマンであるか?」


 みんなその不気味な人魚に驚く。

 どうしていいのか迷っているとアイミが人魚の口にくっついている針とをって、その人魚を蹴飛ばし海に戻す。


 ぴこぴこっ!


 どうやら無かった事にしたらしい。

 

 「・・・ティアナ、続けます?」


 「もういいや、帰ろう、そして忘れよう、何もかも。」


 俺たちの午前はこれにて終了だった。





 午後になり山編では遭難時の食料調達や拠点作成方法、野営時の野生動物や魔獣からの身の守り方の講習が行われた。


 一応こっちも参加したが、レンジャー技能を持つユグリアのミーヤ=エバンさんの独壇場だった。

 まあ、講師役の地元の人の話なんかも役にたってはいたけど、魔法が使えない人用の一般的なものなのでそれ相応。


 聞いてて損はないけど、魔法って本当にすごいよな。


 水も火も簡単に使えるし、魔力さえあれば地面を隆起して簡易の部屋だって作れる。

 野生動物や魔獣もアイミやゴーレムがいれば初動で遅れを取ることはないし、その気になれば簡易結界だって作れる。


 あとは食糧問題だけど、山の中なんかならキノコや自生している植物を生きる辞典のアンナさんがいれば食用に適したものを見分けるのも最適な調理方法もわかるのでとりあえず問題無くなってしまう。

 

 まあ、森林浴でも出来たぐらいで本日も穏やかに終了。


 ホテルに戻って食事してお楽しみたーいむのお風呂にみんなで入って、魅惑のネグリジェとかわいいキャミソールに囲まれて寝ることになる。


 明日はいよいよお待ちかねの迷宮だ。

 本物の迷宮って初めてなんでちょっと楽しみ。

 寝ながらの女子トークもその話題で持ちきりだ。


 「ねえねえ、アンナ、迷宮ってやっぱりじめじめしてるのかな?」


 「そうですね、通常は地下ですから、湿度は高いでしょうね。変な虫がいるかもしれませんから虫よけの薬は忘れずにつけましょね、殿下。」


 「ティアナは疑似戦闘やってみますの?」


 「もちろん!ちょっと楽しみなんだよね!」


 そんな話をきゃいきゃいしながら誰となく眠りにつく。




 みんな寝静まって静かになる頃、誰かが俺を呼ぶ。


 「エルハイミ、エルハイミ。」


 「むううぅぅ~誰ですのぉ~??」


 寝ぼけ眼で起き上がるとベットの端にマリアが立っていた。


 「びゃぁぁぁあああぁ!!!で、でたぁっ!!」


 慌てる俺にマリアは口に人差し指をつけてしーっとする。


 「エルハイミだめだよ、騒いじゃ。ほかの人起きちゃうよ?」


 ガタガタ震える俺に普通に話しかけてくるマリア。


 「マ、マリア、い、一体何の用ですの??」


 「んー、みんな明日迷宮行くんでしょ?私も一緒についてくね。いいでしょ?」


 それだけ一方的に言うとじゃあね~と言って消えた。



 「んんっ、エルハイミちゃんどうしたのですか?」

 

 「う~ん、トイレ?」


 アンナさんとティアナが目を覚ます。

 そしてガタガタ震えている俺に気づく。

 先ほどの話をしてアンナさんに抱っこしてもらってティアナに頭をなででもらう。


 「そのマリアって子、迷宮に何の用なのかしらね?」

 

 「そうですね、わざわざエルハイミちゃんに話に来るなんて。」


 なんでもいいよ、とにかく俺はいきなり幽霊に会わされるのは怖くていやだ!

 ガシッとアンナさんに抱き着く。

 

 「まあ、あたしたちもいるし、大丈夫よエルハイミ。何かあったらあたしが守ってあげるから!」


 元気にそう言ってくれるティアナ。


 「そうですね、害をなさないなら問題ないですが、私のエルハイミちゃんに何かしたら徹底的に浄化してやりますから安心してください。夜も遅いです、そろそろ寝ましょう。エルハイミちゃん、抱っこしたまま寝てあげますから安心してくださいね。」


 「あー、アンナずるい。あたしもエルハイミ抱っこする~ぅ!」


 

 二人に抱き着かれたまま俺は眠るが、ほんと、勘弁してほしい。

 明日はマリア付きの迷宮かぁ。

 ちょっとため息をつきながら眠るのであった。


   

  

 

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