第51話3-26大魔導士杯優勝祝賀会

3-26大魔導士杯優勝祝賀会



 あれから一週間が過ぎた。


 俺は何とか自力で起き上がれるようになり、自慢の金髪も徐々にその色を取り戻し始めていた。 

 



 あー、良かった、もし髪の毛の色が戻らなかったらママンの折檻が待っている。

 思い出しただけでも身震いがする。


 ううっ、本当に良かった。




 大魔導士杯はその後ガレントチームの優勝で幕を閉じたが、俺が倒れたため緊急医療班が応対して連れ去り、閉会式などの行事は辞退していたらしい。

 実際緊急救護班だけでは対処できなく、まさしく瀕死の俺を最後に救ってくれたのは学園長自身だったらしい。

 なんと学園長は魔力を俺に流し込む事が出来、しかも同時にアンナさんも知らない回復魔法で俺の命をつなぎとめたらしい。

 


 うん、かなりやばかったのね俺って。



 その後、事情が事情なので形式的な優勝式を非公開で執り行い、栄えある今年度の大魔導士杯にガレントチームのその名を刻んだとか。





 事後処理に関してはいろいろとあったようで、お見舞いに来ていたサージ君からその辺は詳しく聞いた。



 まず、ホリゾンチームはその後ビエムが発狂して生徒会長に抗議しまくったらしいが、ホリゾンの関係者らしいフードをかぶった美女に鞭打ちを喰らってビエムは失神して大人しく連れられて行ったそうだ。

 サージ君の話ではその美女はフードの下にボンテージの様なきわどい服を着ていて、イメージ的には前世の女王様のような方だったらしいが、サージ君は女性に興味がなかったようでその辺の話は極めて事務的だった。



 ボンテージの美女・・・

 あー、見てみたかった!!




 それと、うちのチームにも問題が残っていて、なんとイフリートを融合したあのゴーレムが安定してしまって、ティアナにやたらとなついているらしい。

 学園側も取り扱いに困っているようで、学園長の鶴の一声でこのゴーレム、正確にはクリーチャーのマシンドールはティアナが面倒を見ることとなったらしい。


 ティアナは自分の護衛が増えた程度で気にしていないが、アンナさんの話ではこれってトップシークレット並みで軍事技術の公開に近いらしい。

 うちの国、ガレントでも実はゴーレム兵器の開発がされていてゆくゆくは最前線に配備される予定だったらしいが、ここまで高性能なゴーレムやマシンドールは存在しないらしい。



 その後ティアナたちがお見舞いに来てくれた時に連れてきたマシンドールを見せてもらったが、あいつ、言葉はしゃべれないのに随分と表現豊かで状況で長めの耳のような部位がピコピコ動く。


 感知魔法を使ってこいつを見たらイフリートが完全に心臓部の魔宝石に収まっていて安定していたりもする。

 ゴーレムではなくマシンドールと表現される通り竜骨をベースに要所要所の魔法石が原動力になり、その魔力は完全に安定して体内循環をしている。

 つまり、魔力を自身で保有できているわけだ。


 感情自体はまだまだ未熟で、喜怒哀楽の表現がはっきりはしないが、犬レベルの感情があるようだ。

 

 ティアナの話ではなんとなく俺に似ているとか。

 アンナさんの見解では生命力を魔力に変えて注ぎ込んだから、俺に似たのかもしれないらしい。




 それと、学園長があの時言っていたとおり俺たちは魔術実技に関しては特別授業となることとなった。

 当面は俺が回復するまで学園長指導の下、基礎訓練が続けられているようでみんな魔力が尽きるまで毎日何かやらされているらしい。



 俺自身はあの後まだ学園長に会ってはいないが、次会うときはいろいろ聞かれるんだろうなぁ。

 うーん、複雑な心境だよ。




 

 でだ、今現在どうなっているかというと・・・



 ここはガレント大使館の大ホール。



 人数的にはそれほどいないが飾られた装飾は何事かというほどモリモリに盛られ、俺の誕生日にも匹敵するほどの大量のごちそうが準備され、俺たち四人は上座の席に座らせられている。


 「それでは、改めて大魔導士杯優勝おめでとうございます!!」


 フィメールさんの音頭で乾杯が始まり、一斉に拍手の嵐が襲う。

 どうもこの大魔導士杯の優勝は非常に重要な事であるようで、フィメールさんなんか自分のことのように喜んでいる。

 おかげで今回はガレント王国に関与する人員はすべて強制参加。

 サージ君やティアナのお付メイドのラミラやサリーも参加している。

 

 そしてあのマシンドールも一緒なんだが・・・


 「ティアナ、その、この子は何でここに座っているのですの?」


 ティアナと俺の間にあのマシンドールが座っている。

 俺が話しかけてもツーンとしていて、反応が薄い。

 逆にティアナが何か話したりしているとあの耳をうれしそうにピコピコ動かしている。


 「なんか最近特になつかれたみたいで、私にべったりなのよ。」


 成人の女性、アンナさんくらいの背丈があるマシンドールは嬉しそうにティアナに頬ずりしている。


 

 むかっ。


 ん?

 なんで俺ムカッとしているんだろう?


 

 「ティ、ティアナそう言えば最近学園長に魔術実技を直接習っていると聞きましたが、どんなことしてるのですの?」


 ティアナの顔を見ながら話そうと思って乗り出すとこいつが割って入ってくる。



 むかっ!

 おい、邪魔だってば!


 

 「こらこら、ダメでしょ、エルハイミとお話し中なんだから、大人しくなさい。」


 ティアナがそう言うとマシンドールはしゅんとして耳をだらーんと下げた。



 ふっ、ざまーみろ。

 俺とティアナの間に入ろうとするからだ!



 「それなんだけど、エルハイミが元気になったら授業を受ける前に一度学園長が単独で会いたいって言ってきたのよ。」



 単独だって?

 それってやっぱりあの事だよな。



 「まだ回復が十分じゃないからって断っているけど、どうする、エルハイミ?」


 心配そうに見つめてくるティアナ。

 うーん、事情説明はしなきゃならないけど、前世の話をティアナに聞かせるのもどんなものか?

 思案していると復活したマシンドールがまたティアナにすり寄ってくる。


 「ティアナ、学園長の所へは私一人で大丈夫ですわ。私も気になることがあるので。」


 「そう?大丈夫?」


 ちょっと悲しそうな顔したティアナだがそれ以上は聞いてこない。

 

 ぴこぴこ。



 ・・・おい、邪魔だってば!

 人がまじめな話しているのに!



 「そ、それよりティアナ、この子、名前とかあるのかしら?」


 ふと話題が変わりそれを聞いたティアナとマシンドールが同時にこちらを見る。

 マシンドールなんか耳をピンと立てているよ。


 「そう言えば、この子名前決めて無かったわね。」



 ぴこぴこ!



 おい、お前なんだその期待のピコピコは!?


 「うーん、エルハイミ、何かいい名前ないかしら?」

 

 いきなりふられるが、そもそも俺にそう言ったセンスは皆無、残念ながらいい名前なんてすぐに思いつかない。


 悩んでいたがふと変なことを思ってしまった。

 俺が頑張って魔力を魔力を注ぎ込み、ティアナが核となるイフリートを召還してできたこの子・・・



 きょ、共同作業で生まれた子!!??



 ぼっ!


 途端に顔が熱を帯び頭から湯気を出してしまった!!

 何を考えているんだ俺は!!

 相手はおこちゃまだぞ!

 そりゃぁティアナの事は純粋に好感を持っているよ、でもそんな風に考えたことは一度だって無いはず!!

 しかも今は同姓だぞ!!?

 出来っこないじゃんか!!?


 「あ、ええと~。ティ、ティアナと私が作った子だから・・・」


 おい、俺っ!

 なに口走っているんだ!!??

 自分で言っていてさらに混乱する。


 「ティアナ、エルハイミだから~。」


 「だから?」


 ティアナがずいっと近寄ってくる。

 その美しい顔がいきなりよってきたので更に俺は混乱する。

 

 ぴこぴこっ!!


 「あ、はい、耳・・・」

 

 「え?アイミ?アイミか・・・良いわねその名前!私たちのこの子にピッタリかも!」


 びこびこっ!!!


 「うん、エルハイミがつけてくれたこの子の名前、アイミ!いいこと、お前は今日からアイミよ!!」


 ぴこぴこ♪


 完全に舞い上がっている俺を他所に名前が決まったようだ。

 そしてアイミは名付け親としての俺を気に入ったのか、俺にも頬ずりしてきた!?


 「あら、アイミったらエルハイミに名前決めてもらってエルハイミにもなついたみたい。」


 ぴこぴこっ!


 こらピコピコ!

 ちょっと無節操じゃないか!?

 現金なやつめ。

 しかしなつかれると結構かわいくなってきたりもする。


 「ふう、仕方ないですわね。でもアイミ、あなたのご主人様はティアナなのだから、何があってもティアナは守るのですわよ?」


 そう言った俺にアイミは反応していきなり立ち上がり自分の胸の前に小さな魔法陣を出現させる。

 そして魔法陣が輝きながら回転してアイミの胸の中に吸い込まれていく。

 

 ざわざわっ!

 

 アイミの異変に周りの人たちもざわつく。

 そしてその様子を見ていたアンナさんがこちらによって来る。

 

 「エルハイミちゃん!今のは絶対命令では!?」


 へ?

 なにそれ?


 理解できないままアイミを見てアンナさんを見る。


 「ゴーレムと同様マシンドールにも基本となる絶対服従の命令が一つだけできます。それは創造者にしかできない。エルハイミちゃんがこの子に命令をしたのでは?」


 えーと、俺って何命令した?

 確かご主人様はティアナで、何があってもティアナは守るのですわよと。


 ・・・やっちまったか?


 「そ、そうすると言い聞かせたつもりが命令となってしまったと言う事ですの?」


 ほほに一筋の汗を流す俺。

 アイミはそんな俺を他所にまたティアナに擦りついている。


 「ふむ、そうすると非常に強力な護衛が増えたと言う事ですかな?」


 「ぴゃっ!」


 「おっと、失礼、驚かせてしまったようですな。しかしここまで高性能なマシンドール、見たこともない。これはエルハイミ殿が学園をご卒業された暁には我がガレントのゴーレム兵の開発が一気に進みそうですな!」


 フィメールさんは目を輝かせ上機嫌にしているが、心臓に悪いので俺に気配を気取らさせないようにいきなり後ろに立たないでもらいたい。


 「我がガレント王国はこれで安泰!ガレント王国万歳!王国に乾杯!!」


 興に乗ってしまったフィメールさんはもう一度乾杯の声を上げる。

 つられ参加者たちも乾杯をする。

 後はその勢いでどんちゃん騒ぎとなっていく。


 あかん、これダメなパターンだ。

 この様子だと年齢関係なしに夜中まで付き合わされることになりそうだ。


 ぴこぴこ?


 「ふう、アイミ仕方ないですわ。今晩は遅くなるでしょうからティアナをお願いしますわ。」


 ぴこっ!


 どうやら任せろと言っているようだ。

 既にどんちゃん騒ぎになりつつある宴を眺めながらもう一度ため息をつく。



 明日が七日目の休日で助かった。



 俺は腕まくりをしながらジュース片手に宴に参戦するのであった。    

 

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