第50話3-25大魔導士杯決勝戦その六

3-25大魔導士杯決勝戦その六



 夢を見ていた。



 毎日が忙しく、せわしい生活。


 朝から満員電車に揺られ、痴漢と間違えられないように両腕を胸より上にあげスマフォをみたり経済新聞を読んだりと「俺無害」アピールをする毎朝。

 日課の立ち食いそばを食ってから会社に行って本日の出張予定のホワイトボードに目を通し手帳を見てから自分の予定を書き込む。

 客先周りをしたり、協力工場に足を運んだりして一日を終える。

 付き合い酒に夜まで騒いで、酔っぱらった頭で自宅のアパートに帰ってシャワーを浴びてからベットに倒れ込む。


 ふとタンスの上に立てかけてある実家の家族たちの写真に目が行く。


 そう言えば、今年の正月は忙しくて帰れなかったな。

 みんな元気にしているだろうか?

 地元に残った弟は数年前に結婚して上手くやっているらしい。

 そのうち子供もできるだろうけど、そうしたら俺もおじさんか?

 

 イーガルの爺様、俺がいなくて寂しがっているかな?

 バティックやカルロスはもうハイハイできるようになったかな?

 パパンは相変わらずママンの尻に敷かれているのだろうか?

 

 ヨバスティンやササミーは元気にしているだろうか?


 ん?

 あれ?

 ハミルトン家??


 俺は須藤正志、三十六歳独身の胸毛が素敵な筋肉隆々なナイスガイ!


 なのになんで今はこんなちっこい女の子の体なんだ?


 

 だんだんと意識がはっきりとしてくる。

 遠くからティアナの必至な声が聞こえてくる・・・



 そう言えばティアナって最近少し大人っぽくなったよなぁ~。

 将来すっげー美人になるよなぁ~。

 今はまだおこちゃまだけど、大人になったら嫁さんにでも欲しいよなぁ~。

 おっと、俺はロリコンじゃないぞ!

 ぼん、きゅ、バーンになってからの話だ!!



 「エルハイミ!!」



 ティアナの必至な声が聞こえる。

 エルハイミって誰だよ?

 俺は須藤正志だよ、ティアナ・・・・





 はっと目が覚めた。


 気が付くと何処かの部屋のベットに俺は寝かされていた。

 涙目のティアナの顔がすぐそばにある。



 あれ?

 俺どうしたんだっけ??



 「気付いたようね、とりあえずは峠は過ぎたみたい。まだまだ不安定だから安静にしないといけないわね。」


 聞きなれない女性の声が聞こえる?

 いや、どこかで一度聞いた声だ。


 「エルハイミ!!」

 

 そう言ってティアナは俺に抱き着いてくる。


 「ええと、ティアナ?これはどういうことなのかしら?」


 ティアナの助けを受けながら上半身を起こす。


 「あなたは自分の生命力まで魔力に変え、使い果たす寸前だったのよ。」


 声のした方を見ると黒髪で目元を仮面で隠した若い女性が立っていた。

 えーと、どこかで見た感じだけど、誰だっけ?


 「ええと・・・」


 「学園長のユカ・コバヤシよ。」



 !!?



 そうだった、彼女はこの学園の学園長で、英雄の一人、魔法戦士ユカ・コバヤシその人だった!!


 「あ、あの私は一体・・・」


 俺の質問に答えたのはティアナだった。


 「エルハイミ、あなた本当に危なかったのよ!私に全魔力を注ぎ込み続け、さらにイフリートをゴーレムと一体化して安定させるために大量の魔力を注ぎ込み足らない分をあなた自身の生命力を魔力に変えてたのよ!」



 衝撃の真実!

 俺そんなことしてたの!?

 道理で終わった瞬間一気に疲れて意識が失われるわけだよ!!


 あっぶなぁー、また死んじゃう所だったよ!!




 「あなた方の魔術師としての才能は素晴らしいけど、優秀過ぎて魔法の取り扱いが上手く行っていないようね?」


 学園長はそう言って俺とティアナを見る。


 「他の人も優秀と言っていいわ、一人で融合魔法をコントロールしたり、初心者のわりにめきめきと魔術の力も向上させる騎士見習い。素晴らしい学生だわ。」


 言われて初めて気づいた、アンナさんやロクドナルさん、サージ君も部屋にいた。


 「でもあなたたちは優秀過ぎて他の生徒と同じに魔術の操作を学ぶのはかえって危険ね。今後魔術の授業は私自ら行うからそのつもりでいなさい。この学園の生徒を不運に死なせることは教育者として見過ごせないからね。」


 唐突な話に頭が付いて行けない。



 え?

 なに?

 学園長自ら俺たちに魔術を教えるって??



 ぱちくりと瞬きをしていたら学園長は俺の近くまで来て俺を見る。

 そしてあり得ない言葉をかけてきた。


 『あなた、日本人ですわね?』



 !!??



 驚いた、日本語だ!!



 『私のこの言葉がわかるかしら?』


 周りのみんなは学園長の話す知らない言語について行けない。

 俺だけが反応しているのを学園長は満足そうに見て取り、続けて話しかける。


 『今は回復に専念なさい、詳しい話はあとで聞かせてもらいますわ。』


 そう言ってから部屋から出ていった。


 日本語、黒髪、コバヤシ・ユカ、なんで今まで気づかなかったんだろう?

 そう言えば彼女は見てとれる口元とかも日本人のそれだった。



 「エルハイミ?」


 心配そうにティアナが覗き込んでくる。


 「エルハイミちゃん、学園長は何を言っていたのですか?聞いた事の無い言語のようでしたが・・・」


 「エルハイミも寝言で何か聞いた事の無い言葉を言ってたけど、あれは何なの?」


 ティアナとアンナさんが俺に質問してくる。



 おれ、もしかして寝言で日本語話してたの??



 「ええと、それは・・・・」


 言いよどんでいると爽快に笑うロクドナルさんがいた。


 「はっはっはっ、殿下もアンナ殿も些細なことはいいではないですか。エルハイミ殿もまだ本調子ではない様子、まずはゆっくり休んで体力の回復をしないと。お可哀そうに、髪の毛の色も白くなったままだ。」



 え?

 髪の毛が白いって・・・



 自分の髪を取り見てみると半分くらいから白くなっている!!!


 「ティ、ティアナどうしましょう!!髪の毛の色が白くなっている!!これではお母様に怒られてしまいますわ!!」


 あの、のほほ~んとしたママンだが、身だしなみや髪の毛の手入れだけはうるさかった。

 髪は女の命ですわよ~、ちゃんとしないとお母様怒っちゃいますわよ~! なんて言って怒らせると後が本気で怖かった。


 「エルハイミちゃん、大丈夫ですよ。ちゃんと休んで体力が回復してくればまた元通りになりますから。生命力まで使ってしまったので一時的に身体のすべてが弱っているのですから。」


 アンナさんの説明にほっと胸をなでおろす俺。

 ティアナも俺の髪の毛を手に取り、優しくなでる。


 「そうね、まずはエルハイミの回復が最優先よね。エルハイミ、ちゃんと休んでいないとだめよ!」


 そう言いながら俺をベットに寝かせる。


 確かにまだまだ体がだるい。

 横になって俺はほどなく睡魔に襲われる。



 そしてみんなが見守る中、また眠りに落ちるのであった。  

   

 

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