第44話3-19決勝戦前日準備

3-19決勝戦前日準備



 大魔導士杯第三戦目に勝利した俺たちとホリゾンチームは試合終了後に生徒会長に呼び止められた。


 

 「まずは皆さん決勝戦進出おめでとうございます。皆さんにはこれから大魔導士杯準備委員会控室に来ていただきます。」



 なんだろうと思って話を聞くと、明日の最終戦で使用するゴーレムの引き渡しを事前にするとの事だ。



 「最終戦のゴーレムはその場で主を登録するには時間が掛かりますので、事前に各チームに持ち帰っていただき主の登録を済ませていただきます。また、その際に各チームがカスタムをすることは可能ですが、最終形態がゴーレムの外装を超えない事、武器のカスタムは禁止となることは了承してもらいます。」


 ゴーレムとの契約は確かに時間が掛かるのでわかるとして、武器カスタムって何だろう?


 「あの、会長さん、武器カスタムって具体的にどういうことですの?」


 「そうですね、平たく言えばボウガンなどの武器を体内に内蔵させることや、鎖などの拘束武具を内蔵させることをさします。」



 純粋に魔法で強化で勝負しろって事か。



 「最終決戦は一般の方でもわかりやすくするためにあくまでもゴーレム同士の殴り合いが好ましいですので武器の使用はしないようにしてください。」



 「では、試合中の魔法によるゴーレムの身体変形については?」


 ビエムが思案後質問をする。


 「著しい変形は困りますが、武器でなければ可能です。」


 「ふむ、了解だ。それと事前カスタムと言ったが基礎身体能力を向上させること自身は良いのだろうな?」



 なんだそれ?

 足にばね入れたり各関節に油でも注しまくりマグネットでコーティングでもするつもりか?



 「外装を超えない範疇であれば可能です。」


 「わかった、了解だ。」


 なんかにやにやしているなビエムの奴。

 良い方法でもあるのか?




 ほどなくして大魔導士杯準備委員会控室に到着する。

 中に入り、生徒会長に呼ばれた壁際まで来ると布に隠れたロクドナルさんより大きい二体のゴーレムがあった。


 会長とその他の委員会の人がかけてある布を取る。

 中から現れたのはフルプレートアーマー姿のゴーレムであった。

 お城などに飾ってある甲冑と言えばわかりやすいかな?

 なかなかごつい感じのゴーレムだ。



 「今回お渡しするこのゴーレムはミスリルが混ざった合金を使用しています。ですので魔法との感応性は非常に良いはずです。」


 おお、高級素材のミスリルが入っているのか、それはすごい。

 見た目もかっこいいフルプレートのゴーレム、ロクドナルさんなんか目を輝かせて見入ってるよ。


 「これから各控室にこのゴーレムを運んでいただき、明日の決勝戦の準備をしていただきます。ミルシィー、テザ、皆さんを控室にお連れして。」


 そう言って部屋に控えていた生徒会の二人の女性に指示を飛ばす。


 「ホリゾン、ガレントの皆さんこんにちは。私はミルシィー=リナ・ボンド、そしてこちらはテザ=ロンドです。これから皆さんを各控室にお連れしますが、そこでゴーレムのマスター登録をしていただきます。ホリゾンの皆さんは私に、ガレントの皆さんはテザについてきてください。」


 ミルシィーさんはそう言って指をパチンとならすとゴーレムが動きだした。

 

 「ではホリゾンの皆さんこちらへ。」

 

 ミルシィーさんの後ろをゴーレムとホリゾンの連中が付いて行く。



 「それではこちらも行きましょう。」


 ミルシィーさん同様テザさんも指を鳴らしゴーレムを起動する。

 ゴーレムはテザさんの後について歩いていく。

 俺たちもテザさんとゴーレムの後をついてこの部屋を出ていく。



 ガシャン、ガシャンとゴーレムは一歩ごとに賑やかな音を立てる。

 外装はフルプレートアーマーだから仕方ない。

 見た目は重厚でかっこいいのだけど、思ったより重いようだな。


 「テザさん、このゴーレムって中身まで全部合金でできているのですかしら?」



 ふと疑問に思ったので質問してみる。



 「いえ、中身は空洞ですので見た目ほど重量はありません。ただ、今は仮登録なので送った魔力は最低限の為動きも最低限なものしかできませんが。」



 ふーん、そう言うものなのか?

 ロックゴーレムとは訳が違うんだ。



 「着きました。こちらの部屋がガレントチーム皆さんの控室となります。」


 通された部屋は会場の地下にある一室。

 広さはかなりある部屋には椅子やテーブル、洋服掛けなんかがおいてある。


 「それでは当日ゴーレムをメインで操る方、部屋中央の魔方陣に入ってください。これからゴーレムとの本契約を結びます。」


 テザさんはそう言って床中央を指さす。

 よくよく見ると床には丸い魔法陣が書いてあった。


 さて、誰が主として登録するか?

 俺は自然とティアナを見る。

 つられアンナさんやロクドナルさん、サージ君もティアナを見る。


 「ここはやはり殿下にお願いするのがいいでしょう。」

 

 「そうでありますな、殿下よろしいか?」


 「ティアナ?」


 一身に視線を集めるティアナ。


 「ええ、良いわ。私自らホリゾンに引導を渡してやる!」


 ティアナは右手のこぶしを左手の手のひらに叩き付けながら言った。


 「それでは、マスター登録をしますのでこちらに。」


 テザさんに言われティアナは魔方陣に入る。

 そしてテザさんはゴーレムをティアナの前に移動させ呪文を唱え始める。

 次第に魔方陣は輝き始め、ゴーレムも表面を淡い光で輝かせ始める。

 テザさんが手のひらをティアナに向ける、そしてもう片方の手をゴーレムに向ける。

 次第にティアナの体も薄い光に覆われ、ついにその光はゴーレムとティアナをつなげる。

 一瞬光が強くなってそのまま光は徐々に消えた。


 「これでゴーレムへの正式登録が完了しました。ゴーレムへは意識すれば五感が共有できるはずです。」


 「ほんとだ、これ凄いかも、なんか私がゴーレムになったような気がするわ!」


 そう言ってティアナはゴーレムを操作する。

 先ほどまでの仮登録に比べ随分とスムーズに動くようだ。

 心なしかガチャガチャいうともかなり静かになったような気がする。


 「ゴーレムは一度命じたことは簡単なもであればそのまま命じられたことをしますが、違ったことをさせるごとに魔力を使ってコマンドを入れなければなりません。よりスムーズな動きや細かい作業、複雑な命令はその都度魔力消費をして命令しなければなりませんので、試合中は魔力切れが起こらないように気をつけてください。他に何かわからないことなどありますか?」


 テザさんは俺たちを見渡す。


 「確認ですが、カスタムでこちらが用意した素材をゴーレムの中に使う事は可能ですか?」


 アンナさんは気になった疑問をテザさんに聞く。

 

 「可能です。どのような素材を使ってもゴーレムの最終外装以内に収まっていれば大丈夫です。

 

 テザさんの回答をもらいアンナさんはわかりましたと言ってもう一度ゴーレムを見る。

 何か考えでもあるのだろうか?


 「それでは皆さん、私はこれで失礼しますが、この部屋の魔法施錠の呪文をお伝えしておきます。一応防犯の意味でこの部屋は我々実行員会、生徒会委員会、出場者しか入れないようになっていますので。明日は午後の開催一時間前までにこちらで準備を終えて待っていてください。」


 そう言ってテザさんは部屋から出ていった。


 「あ、本当だ意識を切ったらゴーレムの感覚がなくなった。これって面白いわね。」


 ティアナが今までゴーレムで遊んでいたが、飽きたようだ。

 こちらに戻ってきてみんなの顔を見る。


 「殿下、これからこのゴーレムに私の知る限りのありとあらゆる素材でカスタムを行いますがよろしいですよね?」


 なんかアンナさんの目の色が変わってきた。

 心なしか息も荒い。

 時折自分の世界に行っているみたいでうふふふっとか笑ったりもしている。


 「うあー、始まっちゃった。良いわよ好きにして、でも明日の開催前に少しは私に慣らし運転させてよね、アンナの事だから全く別物にしちゃうんだろうから、さっきの感覚とどうせ全く別物になるんだろうから!」


 「はい!お任せあれ殿下!明日の朝までには終わりにして見せますわ!」


 最上級の笑顔で答えるアンナさん、でも目だけが異様な色をしている。

 大丈夫なのだろうか?

 

 「ふむ、そうしますと今晩の稽古は素手での立ち回り方法をお教えした方がよろしいですな?」

 

 ロクドナルさんは今晩の稽古のメニューを考える。

 確かに武器は使えないので空手の稽古が必要となる。


 「そうしましたら本日のお食事は携帯できる簡単なものにしてもらってこちらとそちらにお運びしますね。それと寝袋とかも必要でしょうか?」


 サージ君がアンナさんを見ながら言う。

 

 「そうね、今晩は遅くなるかもしれないから、お願い。」


 ティアナはそう言って、早速稽古をしに行こうとロクドナルさんを連れて行った。

 俺はアンナさんを見るが、嬉々としていろいろな素材を持ち込み始めている。

 

 ティアナの稽古が終わったらこっちにも来るか。



 明日の対決に向かって俺たちは動き出したのだ。 


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