第43話3-18大魔導士杯第三戦目その三

3-18大魔導士杯第三戦目その三



 大魔導士杯第三戦目の最初はホリゾンチームが勝利を得た。



 ビエムの奴なんであんなに人をムカつかせられるんだろう?

 あー、なんか腹立たしい。


 そんな感情をまとっていると、ティアナがものすごい視線をホリゾンチームに送っている。

 まるで魔眼で呪殺しているかのようだ。


  

 「それでは引き続き行ってみましょう、続いてはノルウェンチームの作品、どーぞ!!」


 生徒会長の司会ではっと我に戻る。

 そう、今はそれどころじゃなかったんだっけ。


 見るとノルウェンチームは自分たちの作品の布を取る所だった。

 取り去った目隠しの布下から出てきたのは・・・



 真っ白な女神像だった。



 会場がどよめく。


 炭を使った作品ならば黒いのが当たり前、しかしノルウェンチームの作品は真っ白な女神像だった。


 両手を胸の前で組み、慈愛に満ちた表情で人々を見下ろすそのお姿はまさしく豊作と愛の女神ファーナ様のお姿。

 皆が知る聖典の中に出てくる挿絵そのものの姿。

 見るものに心の安らぎさえ感じさせる逸品。


 「おおーっと、これは予想外の作品だ!真っ白なそのお姿は女神ファーナ様ではないか!しかし炭を使った作品なのになぜ真っ白なのでしょうか!?」


 皆が思う疑問を生徒会長が問う。

 審査員が何人か出てきて作品を確認する。

 中には鑑定魔術を使って状況確認をしている審査員もいた。

 審査員は生徒会長の所へ行って何か話している。


 「はい、皆様、鑑定魔法の結果間違いなく炭を使った作品となりました!鑑定結果この炭は燃焼した後の灰でできた作品だそうです!」



 おおー。



 感嘆の歓声が上がる。

 なるほど、燃焼が終わった炭を固め上げ作り上げた真っ白な女神像は純白の大理石で作ったかのようだった。


 

 「なかなかやりますね、素材の使い方に常識的な考えを持たないとは。」

 

 感嘆するアンナさん。

 しかし素材の常識にとらわれていないのは何も彼らだけじゃない。 


 

 「それでは最後になりますガレントチームどうぞ!」


 生徒会長のアナウンスを受けいよいよ俺たちの作品の布を取る。



 ざわっ!



 会場がざわめく。

 

 「おおっと?これは何だ?飴色をしたやや透き通った貝?」


 そう、飴色をした貝は炭とはかけ離れたものである。


 観客が注目する中、その貝は徐々に開き、中から透明ではあるものの光り輝く全裸の美女が胸を手で隠し、腰には長い髪を巻きつかせる姿で立ち上がった。



 それはまるで美の女神。



 しかし面影はどこかで見たような雰囲気を持っている。


 「これはどういうことだ?開いた貝から美しい透明な美女が立ち上がった!?」


 会場がさらにざわめく。

 

 「なんだあれは!?あれのどこが炭を使った作品なんだ!?」


 なんかビエムが騒いでる。

 もちろん会場からもいろいろと声が上がっているようだが、早速審査員が作品に近づき鑑定を始める。


 

 審査員がどよめく。


 そして再度鑑定魔法を試みるも、どうやら結果は同じだったらしく数人で話し合っている。

 審査員がそのままこちらに来る。

 どうやら理解を超えた現象のようで、説明を求めに来たらしい。


 彼らの質問に俺らは何度か受けごたえをし、状況を説明する。

 数人の審査員は手を目に当てたり、頭を振ったりしているがその事実は動かぬ証拠、認めざるを得ない。

  

 大きなため息を吐いて彼らは生徒会長のもとに行き、何かを話す。



 「はい、皆様審査員の鑑定魔術結果をお伝えします。まずはガレントチームの作品は間違いなく炭の元素を使ったもので規定に沿っています。」



 ざわざわっ!!



 「しかしどういう理屈かはわかりませんがこの作品は素材こそ炭でありながら高度な魔術の加工によりなんとダイアモンドと化しております!!」




 どっ!!!




 会場が大きく揺れた。

 それもそのはず、大きさからすれば人の下腕ほどあるこの作品はその素材構築は炭でできているものの魔術加工によりダイヤモンドと化しているのだ!

 前世の世界では一般的な技術になりつつある人工ダイヤモンドである。


 「エルハイミ、あれってダイヤモンドだったの!!?」


 「まさかとは思いましたが、エルハイミちゃんどういうことなのですか?」


 ティアナとアンナさんも驚く。

 まあ、炭素を高温圧縮すると元素の並びが変わって構造体がダイヤになるって言ってもわからんだろうから説明は端折ってきたけど、実際ここまで上手く行くとは思わなかった。

 現に外側の貝の部分は温度が低く再結晶化するのにひずみが出て黄色ぽいどころか飴色っぽくなってしまった。

 これでは前世でも産業用ダイヤにもならないだろう、強度が著しく低くなるからだ。


 「えーと、炭の様な炭素に高温と高圧をかけると固まって透明になってダイヤと同じ構造になるんですわ。」


 一応種明かししておくけど、理解できるかな?


 「素材元素自体は同じでも環境でその見た目が変わると言う事ですか?」


 「ええ、現にダイヤモンドに高温をかけると発火しますので、もともとは同じ元素と言う事となりますわ。」


 なんかアンナさんは理解しているみたいだ。

 

 「確かに、とある書物ではダイヤモンドは高温で燃えると記載がありました。そうすると原因は炭素と同じ素材だったからですか・・・」


 あ、だんだん自分の世界に入り始めた。

 ティアナなんか途中からついてこれなくなって作品を見ながらうあー、うあー言ってるよ。



 「エルハイミ、これって私?」



 ぼっ!!


 

 思わず赤面してしまった!

 なぜわかった!?

 イメージはティアナが成人したときの姿。


 

 どんな挿絵や壁画を見ても美女ぞろいの女神様の本当の姿は分からない。

 だったら確実な素材をイメージに使いたかったのだが、まさかモデルの当の本人に言い当てられるとは思ってもみなかった。


 「あ、えーと、それは・・・」


 言いよどんでるとティアナは満面の笑みをたたえこう言った。


 「うん、悪くない!エルハイミが未来のあたしをこうに思ってくれるならそうなるようにあたしも頑張らないとね!!」



 なんで上機嫌なんだ?

 勝手にモデルに使って怒られると思ったんだけどな。

 うーん、女心はわからん。 


 

 

 「それでは結果発表をいたします!勝者ガレントチーム!!」

 

 長々と審議を行っていたようだがここで生徒会長の勝敗宣言が出た。

 歓声に沸く会場。


 そして何故か悔しがるビエムたち。

 

 よっし、どーだホリゾンの諸君!


 ティアナも満足そうな顔をしている。

 アンナさんはまだこっちの世界に帰っていないけど、爽やかな笑いをしているロクドナルさん、今回あなたは何もしてないんだぞ?

 まあ、場の雰囲気を盛り上げる要員としておこう。


 と、今回の最優秀賞が発表された。


 「それでは皆様、今年の最優秀賞です、最優秀賞はガレントチーム、題名は「美の誕生」です!」



 えっ?

 そんな題名いつ決めたんだ?



 するとロクドナルさんは爽やかに笑いながら白い歯を輝かせ、俺たちに向かって話しかけてきた。


 「いやはや、皆さんが何やら魔術の難しいお話をしているときに題名を聞かれましてな、とっさに思ったことを言いましたら題名にされてしまったようですな、参った参った、はっはっはっ。」



 前言撤回、おいしいところしっかり持っていったロクドナルさん、ちゃんと仕事していました。


 

 さあ、それでは次はいよいよ決勝戦。

 ホリゾンよ、首洗って待っていろよ!! 

 


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