第42話3-17大魔導士杯第三戦目その二

3-17大魔導士杯第三戦目その二




 俺のこの手が真っ赤に燃える。お前を錬成せよと輝き叫ぶ!



 俺は手のひらにその魔力を溜め、人の高さ以上に積み上げられた木炭をにらむ。



 イメージをもう一度練る。

 魔法はイメージが重要だ。


 

 そして手のひらを炭の山に向ける。

 高まる俺の魔力はその輝きを増し、まばゆい光となって炭に吸い込まれる。

 途端に炭の山は淡い輝きを起こし、形状を変えてゆく。

 徐々に変わっていくその形は大きな貝。

 人ひとり入れそうな大きな貝になった。


 「ふうぅぅ、ここまでは成功ですわ!」


 額の汗をぬぐい、次の準備をする。


 「エルハイミ、これって貝?」


 どこからどう見ても墨でできた貝である。

 ティアナはそれを見ながら首をかしげる。


 「これのどこが美しいものなのよ?」


 「ティアナ、ここまでで約三割ですかしら?これから先が本番ですわ。アンナさんここからかなりの集中が必要です、私に可能な限り【状態回復魔法】をかけて心の乱れが起こらないようにしてください。」


 俺はアンナさんを見る。


 「エルハイミちゃん、いったい何をしようとしているの?」


 「【重力操作魔法】と【圧縮魔法】、それに【真空魔法】を同時にかけます。」


 どれもこれも魔力と集中力を注ぎ込めば注ぎ込むほど効果が上がる魔法だ。


 「それと、ティアナ、私が合図したらこの炭の貝の中にありったけの魔力で超高温魔法【灼熱収縮】をかけてください。」

 

 ポカーンとしていたティアナだが、俺の要求に対して何も聞かず分かったと一言だけ言ってくれた。

 俺はにこりと微笑んでから始めますと言って集中する。



 アンナさんが【状態回復魔法】をかける。

 通常は精神に対する幻覚や混乱、睡眠魔法に対して状態を回復させるのだが、雑念や動揺、心の乱れをなくして気持ちを落ち着かせる効果もある。

 

 アンナさんの魔法がかかったのを確認して俺は【重力魔法】を発動、同時に【真空魔法】も発動させる。

 【真空魔法】により炭の貝の周りを真空にしていく。

 次いで【重力魔法】で圧をかけながら更に【圧縮魔法】をかけていく。

 この時点で相当な圧力が炭の貝にはかかっているようで、大きさがだんだんと小さく圧縮されていく。



 よしっ!

 ここまでは上手く行っている。



 俺は細心の注意を払いながらイメージをもう一度鮮明にする。

 そして更にその【圧縮魔法】と【重力魔法】を強めていく。

 ぎちぎちと嫌な音が聞こえてきそうな感じで小さく震えながら炭の貝はさらに小さくなっていく。  

 

 そしてその臨界点が来たようだ。

 炭の貝はその表面をにつやを持ち始めた。

 高重力下に高圧力の力が掛かり分子がつぶされ始めたのだ。



 ここだっ!



 「ティアナ、【灼熱収縮】を!」


 俺の声にティアナはありったけの魔力をその貝の中身に向けて解き放つ。

 同時に俺も更に強固なイメージを持ちながら【圧縮魔法】と【重力魔法】を強める。


 炭の貝は小刻みに震えながら輝きを増していき、更にその大きさを小さくしていく。

 そして光り輝き周りの真空の外側にある空気を焼いてそれは出来上がった。


 ポンッと軽い音がして、煙が立つ。


 炭の貝はかなり小さくなってその姿かたちは変えないまま、うすい飴色の半透明の貝に変わった。



 「ふう、成功ですわ!!」


 俺はもう一度額の汗をぬぐい、集中していた気を抜く。

 途端に疲れが全身を覆う。

 想像以上に魔力を使ったようだ。

     

 

 「エルハイミ、何あれ?あの黒い炭はどこ行ったのよ?」

 

 「ティアナ、この飴色の貝が先ほどの炭ですよわよ。」


 「!?」


 俺の言葉に全員が飴色の貝に注目する。

 それは大きさこそ違うが姿かたちは確かに先程の炭の貝と同じであった。

 しかしその見た目は全く別物、飴色の半透明な貝は水晶の如く静かな美しさをたたえていた。

 

 「でもエルハイミちゃん、これでは炭を使った作品では無くなってしまうのでは無いでしょうか?」


 「ご安心を、【鑑定魔法】でこの素材を確認してみてくださいな。」


 アンナさんは心配そうに【鑑定魔法】を使ってみて驚く。


 「た、確かに素材である炭が基になっていますが、こ、これって!?」


 「アンナさん、そこまでです。時間になったみたいですわ。後は私にすべて任せてくださいましな。」



 会場には時間終了のアナウンスが流れる。

 各チームは出来上がった作品を所定の台に置き、目隠しの布をかけている。



 「それでは、各チームが制作した作品を見て行ってみましょう!まずはホリゾンチーム、どうぞ!」



 ホリゾンチームはかけられていた布を取り外し、自分たちの作品をお披露目する。

 おお~っっと会場から声が漏れる。


 それは真っ黒な炎の女神シューラをかたどったものであった。

 しかし、真っ黒な女神様とは。


 「ホリゾンチーム、炎の女神シェーラ様の像を作成しました!しかしそのお姿は炭色、真っ黒のままです。」


 審査員がひそひそ話を始める。

 と、ここでビエムは大きな声で注意を促す。


 「お集まりの皆様、我がホリゾンチームの作成した女神シェーラ様の像を今一度よくご覧ください、そろそろ時間となります。」



 その言葉に全員がホリゾンチームの作品に今一度注目する。


 すると、女神シェーラの像の胸のあたりにオレンジ色の光がともる。

 そのオレンジ色は瞬く間に全身に広がり、ついには女神像全体からオレンジ色の炎を立ち上らせる!

 その光景はまさに炎の女神シェーラ様!

 美しくオレンジ色に輝きながら炎の衣をまとうお姿、まさに女神そのものである。



 会場からは一斉に驚きと感嘆の声が上がる。



 ビエムは満足そうに口角を上げて笑っていた。



 ぬうぅぅ、そう来たか。

 確かにあれは炎の女神シェーラ様を最高に美しく目立たせる。

 まさか炭自体を発火させてその色合いとのギャップを図るとは。



 これには審査員も満足そうにしており、中には拍手していた人までいた。



 「ホリゾンチーム、素晴らしい演出でした!それでは続いてボヘーミャチームの作品です、どうぞ!」


 ボヘーミャチームは台座の上に置かれた作品の布を取り去る。

 するとそこに現れたのは真っ黒ではあるが両手を広げ静かに目をつむり天を見上げる暗黒の女神ディメルモ様の像があった。

 その像はもの悲しさの中に静けさをまとい、暗黒の女神の名の通りの美しさをたたえていた。

 流石ボヘーミャ、第二戦目の時とは違う。

 魔術操作による精巧さと、像の表面を研磨するその技術力は並ではない。



 しかし、技術では勝っているだろうがホリゾンの炎の女神のような派手さが無い。

 静寂すぎるのだ。



 「ボヘーミャチーム、ホリゾンチーム同様女神様の像で打って出てきた!物静かなそのお姿は暗黒の女神ディメルモ様だ!」

 

 誰もが静観するその像はホリゾンチームのそれを見ていなければきっと人々の心に残るだろう。

 しかし、やはり審査員の表情はあまりよろしくは無い。



 「それではここで審査員による採点を始めます。両チームそのままでしばしお待ちください。」



 審査員が集まって話し合いをしている。

 しばらくして、結果が出たようで司会の生徒会長ロザリナさんが呼ばれる。


 ロザリナさんは渡された紙を見ながら結果発表をする。


 「それではお待たせしました、採点結果の発表です!」


 両チームとも固唾をのんで結果を待つ。


 「勝者、ホリゾンチーム!」


 おおおーーーーー!


 歓声が沸き上がる。

 やはり決め手はあの演出か?

 

 悔しそうにしていたボヘーミャチームではあるが、あの演出には納得せざるを得ない。

 肩を落とし退場する姿に哀愁を感じる。


 一方、ホリゾンのビエムは高笑いをしている。


 

 なんかむかつくんだよな、あいつ。

 待ってろよ、俺たちの作品だってすごいんだからな!



 さて、いよいよ今度は俺たちの番である。

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