第40話3-15大魔導士杯第二戦目その五

3-15大魔導士杯第二戦目その五



 その美しい幼女は周りをうごめく異形の生物に囲まれ、肩で荒い息をしている。

 水着の肩ひもはずれてきわどい胸元までずり下がり、紅潮した顔も体も白濁した液体に汚された状態でぐったりと通路の壁に寄りかかっていた。



 って、それ俺っ!



 予想外のアクシデントで足止めを喰らってしまい、何故か窮地に立たされている俺。

 ウナギに翻弄され、何とか水着に潜り込んだウナギを取り除いてたらナマコ軍団の洗礼を受けてしまった。

 そんな可哀そうな幼女のあられもない姿に歓声が沸き上がるここって何なんだよ!?


 ふつふつと怒りがわいてくる。

 全くどいつもこいつも!!


 一応必死に押し寄せるナマコ軍団を押しのけるロクドナルさんだが、彼も白濁の液体で全身が汚されている。



 見たくないビジュアルだよ!!



 俺の怒りは頂点に達しそうだったが、それより先に怒りMAXで怒髪天に達していた人がいました。


 ぼんっ!という凄い音がしたと思ったらゴール近くのティアナから大量の煙が立ち上った。


 見るとティアナの体が真っ赤に燃えていて触れた海水が瞬間に水蒸気へと変わっているではないか。

 触れるものすべてを瞬時に業火の炎で焼き尽くす。

 それはティアナの心情を表しているかの如く。



 「あたしのエルハイミに何て事してくれてんのよぉっ!!!」



 今までに見たことの無い激おこだ。


 「うわっ、殿下落ち着いて!って、駄目だ!【絶対凍結防壁】!!」


 あまりの熱量にアンナさんは自分の前に魔法で氷の壁を張ってその炎を防ぐが、それでもどんどん氷の壁を溶かしていく。



 「きゃぁああっ!あついぃ!!」


 「プロテクションじゃ間に合わないわ!」


 「きゃっ!海水が熱湯になっている!!」


 スィーフチームもその熱量に防御するのが精一杯。

 ゴール手前はさながら地獄釜状態になっている。


 流石にこの状態では海洋生物どころか参加者も近寄れず誰もゴールに向かえない。


 我を忘れ怒りに燃えるティアナはこちらを向き叫ぶ。


 「エルハイミ!今行くわ!!」



 ちょっと待て、ティアナ、ゴールの方向と逆だってば!!

 


 「落ち着いてティアナ!私の事はいいからゴールに行ってくださいっ!今が最後のチャンスですわ!!」


 大声で叫ぶ俺。


 その声にこちらに向かっていたティアナはハタと気づき、俺とゴールを見比べその歩みを止め急ぎ踵を返しゴールへ向かう。

 業火の炎はティアナの周りの海水を一瞬で蒸発させるので、ティアナは普通に歩くのと同じにそのままゴールする。



 「勝者ガレントチーム!!」


 ゴールにティアナが入ったとたん、司会の生徒会長は声高々に勝者を宣言する。


 おおぉおおっーーーー!!


 歓声が沸き上がる。

 ここへきてやっと自分が業火の炎を身にまとっていたことに気付くティアナ。

 我を忘れる程だったのか、慌てて炎を引っ込める。


 体制を立て直して俺やアンナさん、ロクドナルさんがティアナの元へ集まる。


 「ティアナ、なんてすごい炎なのかしら!」


 「殿下、あれは上級魔法【紅蓮業火】ではないですか!?」


 まだ実感がないのか、ティアナはこっちを見て目をぱちくりしている。


 「ええと、私頭にきてからなにしたかよく覚えてなくて・・・・」



 言いよどむティアナであったが、ここで事件発生!

 よほどの高熱のせいだったのか、ティアナの水着がここでボロボロっと破れ始めた。


 「えっ?」


 「あっ!?」


 「あれっ?」


 俺たち三人の声が重なる中、ボロボロに破れた水着はその未発達な胸元や可愛らしいお尻、辛うじて大事な所は布切れが残ったが、幼い姿態を大衆にさらしてしまった。

 

 一斉に観客から歓喜の歓声が起こる。



 うぉぉおお”ぉぉおおおおぅぅうううううっっーーーーーーー!!!!!




 「ティアナ!」

 

 「殿下!!」


 慌てて俺とアンナさんはティアナを大衆の目から守る。

 が、当の本人はあっけらかんとしていて右腕を高く上げ勝利の雄たけびを上げている。



 ティアナ、あんた羞恥心が無いのかよっ!!

 それに観客のお前ら、八歳の幼女の裸見て何盛り上がってんだよ、変態どもっ!!



 ロクドナルさんが慌てて持ってきたタオルに包まれるまでティアナの雄たけびと会場の歓声は鳴り響いた。


 

 こうしてぎりぎりで勝利した俺たちであったが振り返れば何という危険な競技だったのだろう。

 疲れた、なんかものすごく疲れた精神的に。

  

 大きくため息をつきながら俺たちは上機嫌のティアナを引き連れて退場していったのであった。



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