第39話3-14大魔導士杯第二戦目その四

3-14大魔導士杯第二戦目その四



 「なに?エルハイミ?」


 「エルハイミちゃん?」


 「エルハイミ殿?」


 俺の呼びかけにみんなが反応する。

 いよいよ大魔導士杯第二戦目だ。



 今までの対戦を見て参考に俺は口早に告げる。


 「皆さん良いですか、海流が変わるのは大体六分に一回のようです。最初にクラーケン、次いでウナギ、ナマコ、クラゲ、そして最後にくっつきトビウオです。しかしこの中で一番厄介なのが魔素吸収するクラーケンです。他は強化魔法を使えます。」


 「確かに、あの不潔でいかがわしい海洋生物で魔獣属性があるのはクラーケンだけですね。」


 そう、他の海洋生物は普通の生物で魔素云々は関係ない。

 魔法を使った身体強化で対処できるのだ。


 「本来は悔しいですがホリゾンのように短時間で障害物を超えて海流の変化の影響を最小限にすればいいのですが、残念ながら私とティアの体力では彼らの様な手法は出来ませんわ。」


 俺は一同を見渡す。

 今のところ異論はないようだ。


 「そこで私が最初に魔力放出をしてクラーケンをひきつけ、その後に最短でティアナとアンナさんが身体強化魔法を使ってゴールを目指してほしいのです。」


 そこまで言って一旦みんなを見る。


 「でもそれじゃエルハイミがクラーケンにひどい目にあっちゃうじゃない?」


 「そ、そうです!エルハイミちゃんがあんな汚らわしいクラーケンに蹂躙されちゃうなんて許せません!エルハイミちゃんは私のものです!」


 アンナさんなんか最後の方で変なこと言っているようだったけど、予想通り心配してくれる二人に俺はびっッと人差し指を立てる。

 そしてロクドナルさんを指さす。


 「その点は大丈夫ですわ、私には強い味方の騎士様がいますわ!」


 「つまり私が盾となり、レディーを守ればよろしいのですな?」


 ニカッと笑顔を見せるロクドナルさん。

 やはり予想通りの回答をするが今度は人差し指を左右に振ってちっちっちっと舌を鳴らす。


 「それでは犬死になってしまいますわ。ロクドナルさんには体力温存してもらって、その後の移動に全力を使ってもらい私をティアナたちの元まで送り届けていただきたいのですわ!」


 ふむと思案するがどうも理解できていないようだ。


 

 「つまりですわね、こう言った作戦で行こうと思うのですわ!」


 俺はみんなにプランを話す。




 「うん、それっていけそうね!」


 「確かに、そうすれば身体にかけた魔法になりますね。」


 俺の提案にみんなは賛同をしてくれる。

 

 「では手はず通りに行きましょう!」


 そう言って俺たちは所定の場所へ向かう。




 「皆様お待たせしました!いよいよ大魔導士杯第二回戦最後の対決です!」


 ぅぉおおおおおおぉぉぉぅぅぅぅっーーーーー!!


 観客の盛り上がった歓声が上がる。

 今回のガレントチームは女性三人に男性一人、対するスィーフチームは四人全員が女性。

 観客の期待が高まる。



 君たち、女性って言っても中には十歳にならない幼女が二人もいるのにまさかそっちも期待してんじゃねーだろうな!!?



 なんとなく観客席を見る目がジト目になってしまう。

 歓声止みならない中、生徒会長はマイクを手に取る。

 

 「それでは両チーム、位置についてください!よろしいですか?では最終組第二回戦はじめっ!!」



 会長の合図と同時に俺は一気に無詠唱魔法でチーム全員に筋力増加、素早さ上昇、そして対水圧防御魔法をかける。

 同時に三つもの魔法をチーム全員にかけるという荒業に会場からどよめきが起こる。


 魔法が発動した俺たちのチームは水路の海水をものともせず障害をクリアしながら魔のクラーケン海域まで一気に到達する。

 相手のスィーフチームまだまだ後方で障害物を超えきれていない。



 悪いが一気に行かせてもらおう!



 海流が発生してタコどもが押し寄せ始める。

 すぐさまに魔法の発動を切り、俺とロクドナルさんはティアナとアンナさんから距離を置く。


 「ティアナ、アンナさん始めます、頑張って先へお願いしますわ!」


 俺はそう声をかけてからロクドナルさんへも声をかける。


 「ロクドナルさん、一気に行きますわよ!お願いしますわ!!」


 「おうっ!!」


 ロクドナルさんの気合が入ると同時に俺はロクドナルさんに筋力増加の魔法をかけ、背中を押してもらう。

 

 そして迫りくるタコ軍団に向けて特大の防御魔法手のひらに発動させる。

 防御魔法は俺の手のひらを中心に通路一面をふさぐ。

 魔力に反応したタコどもは一気に俺が展開した見えない力の壁に群がる。

 まるで水族館の大きな水槽にタコがびっしりと張り付いたような光景が広がる。



 うえっ、流石にこんなに集まると気持ち悪い!!



 その量は半端なく、防御魔法の壁をどんどんと押してくる。

 ロクドナルさんはその荷重で俺が押し込まれないよう後ろから押さえてくれている。

 

 タコどもがこちらの魔力に引き寄せられ、ティアナたちの周りから完全にタコどもがいなくなった。


 よし、頃あいだ、俺は更に魔力を集中させ絶対防壁を伸ばし海水ごと通路のタコどもを防壁内に閉じ込め念動魔法を併用して一気にそれを持ち上げる。

 その光景は俺の手のひらの上に大きな四角い水の柱が出来上がったかのようで天高くそびえる水の塔そのものである。


 「せーのっ!そぉーぃぃいいいっ!!」


 天高くそびえた水の塔を進行方向と逆に放り投げる。


 どっっぱーんと大きな音を立てタコどもが水面に叩き付けられる。

 その衝撃でほとんどが気絶したようでぷかぷかと浮かんでいる。


 よっしゃぁっ!これで前方をふさぐタコどもは一掃できた。


 「ロクドナルさん、お願いしますわ!」


 再度ロクドナルさんにお願いをする。

 ロクドナルさんはおうっっと軽く答えてから俺の体をひょいっとお姫様抱っこで抱えて強化魔法がかかった状態で一気にティアナたちと合流する。


 「ご苦労様エルハイミ!」


 「流石ですね、エルハイミちゃん!」


 前方を進んでいたティアナたちに合流して俺たちは一気に加速する。


 「予想以上に時間が掛かりましたわ!次の海流がもう少しで始まってしまいますわ!アンナさん、呪文は?」


 「もう少しみたい!って、エルハイミ、あれっ!!」


 ティアナが何かに気付いたみたいに後ろを指さす。

 すると後ろからスィーフチームがあり得ないスピードで追いかけてくる。



 なんじゃありゃ!?



 水しぶきを切って四人の少女が俺たちに追いついてくる。

 と、その下半身が異常であることに気付く。

 変形魔術で下半身を魚に変えているようだ。



 ちっ、同じようなこと考えていたか!



 しかしこちらは魔術精度が違う、アンナさんの魔術が完成する少し前に俺は大量の魔力をアンナさんに注ぎ込む。


 以前ティアナにしたのと同様、アンナさんにも適合性があったみたいだった。

 俺の大量の魔力はアンナさんの中に流れ込むと同時にアンナさんも呪文を発動させる。


 「【アニマルメタモルフォーゼ】!!」


 大量の魔力を消費するこの魔法でアンナさんとティアナを大型の魚に変え一気にコースの先に進めさせる。


 それと同時に俺は自身とロクドナルさんを魔のウナギ軍団から守るために絶対防壁の壁を手に展開させそれをドーム状にしてウナギの侵入を防ぐ。


 ちらっとスィーフチームを見ると、三人が一人を囲んで真ん中の一人がプロテクションの魔法を傘のように展開している。

 魚に姿を変えたティアナとアンナさんはするするとウナギや障害を抜けていく。

 その後を弾丸よろしくスィーフチームがウナギをかき分けて追っていく。



 うわっ、すっげー力技だな!



 しかし流石に魚に変身したティアナたちを追い越せない。


 こちらは一見有利だが魔法の持続時間が問題だ。

 アンナさんの魔力保有量は一般人よりは多いが俺やティアナに比べればずっと少ない。

 ティアナはまだ変身魔法が使えないし、魔力注入も出来ない。

 なので、今の魚の姿がいつまでもつか。


 心配しているとやはり、ティアナとアンナさんの速度が落ちてきて変身が解けてしまう。

 だいぶゴールに近づいたが元の人の姿に戻ったティアナとアンナさん、そのすぐ後ろまで来ていたスィーフチームだがどうやらあちらも魔力切れのようだ。

 ほぼほぼ同じころにあちらも人の姿に戻る。


 海流がまた始まり、ウナギが引いていく。


 「ロクドナルさんまたお願いしますわ!」


 そう言って俺はロクドナルさんにまたまた強化魔法をかけ、ウナギが流されて消えると同時に防御壁魔法を解除する。

 早急にあちらまでたどり着いてフォローを入れないと!

 予想以上にスィーフチームの動きが速かったからだ。


 おうっと答えたロクドナルさんに抱えられて動き出すのであった。


 が、お姫様抱っこされた瞬間に何かが俺の上に落ちてくる。



 すぽんっ! 



 一瞬なんだかわからなかったが、それに気づいたときには時すでに遅し、そいつは何と俺の水着の中に潜り込んできたのだ!


 「うっきゃぁあぁぁぁぁぁっつっっーっ!!!」


 胸元から入ったそれはぬるぬるした体をうねうねと動かしながらお腹の方へと這いずっていく。



 うぎゃぁぁぁぁっ!!

 きもちわるいぃぃ!!



 自分の意思とは全く別な動きをするウナギに思わず変な声が出る。

 何とか取り出そうとするがウナギは脇腹を通りお尻の方へとうごめいていく。


 「うにゃぁあぁぁぁぁぁっっっ!!」


 またまた変な声が出てしまうが、こちらはそれどころじゃない。

 

 うねうねと脇腹を超えるそれはものすごくくすぐったく、更に背筋を震わせる気色悪さを持っている。

 しかもお尻の方へ向かっているので抱きかかえられている状態だと手が回らない。

 

 「いぃやぁっ!!」


 思わず変な声が出る。


 ロクドナルさんは異変に気付き、俺をお姫様抱っこから解放して下におろしたがそれが輪をかけていけなかった。

 海流が変わったので次なるナマコが大量発生!


 ただでさえお尻の方へ行ったウナギを捕まえるので精一杯な所ナマコが発生したことによりロクドナルさんへの注意が遅れた。


 「ぬう、奇天烈な海洋生物め、エルハイミ殿には近づけさせんぞ!」


 そう言って強引に押しのけたり握ったりする。

 やばいそれダメだってっ!!



 びゅるるるるっ!

 びゅっ!

 どばぁっー!



 刺激を受けたナマコたちが一斉に俺とロクドナルさんに白い内臓をぶちまける。


 俺は何とか引っ張り出したウナギを手放しその白い液体を防御するも、顔や髪の毛、体に大量にぶっかけられえしまう。

 更にぬめった足場にバランスを崩してしまい、水着の肩がずり落ちてしまったりもする。



 う”ぉぉおお”おおおおおぉぉぉぉっっっつつっーーーーーーっっ!!!



 観客の怒涛の歓声が上がる。

 何でこんな幼女でそんな怒涛の歓声が上がるんだよっ!!


 心でツッコミを入れる俺。


 


 やばい俺ぴーんちっ!!!

   


 

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