第二章

第7話2-1お勉強

2-1お勉強


  

 長々と古代魔法王国建国王ガーベルの話を聞き終わった俺はつくづくとんでもない王様だなと言う感想しかなかった。



 だって、一晩で栄華を誇った魔法王国を崩壊させちゃうんだぜ?

 しかも自分の欲望の為に。

 もうちょっと方法あったんじゃないの?



 ややあっけにとられていた俺に爺様はゆっくりと眼鏡をはずし、軽くお茶を飲んでから息を吐いた。



 「エルハイミよ、どうじゃった?建国王ガーベルの物語は?」


 「はい、おじい様すごいとしか言いようがございませんですわ。昔は魔法でお城が空の上にあったなんて!」


 「はっはっはっ、もう二千年以上前の話じゃがな。我がガレント王国には当時の『空から落ちた王宮』の遺跡が王都の真ん中、『中央都市』にまだあるのだが、今では瓦礫と迷宮になっておりとても危険な場所となっておる。魔物たちの巣窟じゃ。それゆえガレント王国の王都は王城が城壁と一体となっており遺跡を取り囲んでおるのじゃ。七つの衛星都市は王都と王城に何か有った時の為王都を囲んでおる。 その一つが我がハミルトン家が納めるここユーベルトの街となるのじゃよ。」


 「そうなんですの?それではおじい様、今ではその『中央都市』には人が住んでませんの?」


 「そうじゃの、いまでは人は住んでおらんじゃろう。一獲千金を狙った冒険者が良く訪れるが、大概は迷宮の魔物にやられてしまう。」


 そう言って爺様はもう一度お茶をすすった。


 「おじい様、本日は大変ありがとうございました。エルハイミはおじいさまが大好きです!」


 爺様のもとまで行って営業スマイルを携え、軽くひざを曲げるお辞儀をして爺様にお礼を言う。


 「うむ、エルハイミはいい子じゃな、またの機会に本を読んでやろう。」



 「おじい様、お願いがございます!」



 そう言って俺は椅子から立ち上がりかけた爺様に両手を合わせ、懇願のまなざしをウルウルとしながら向ける。もちろん孫娘のお願いを聞かない爺様は居ないのですぐにこちらにまなざしを向ける。


 「どうしたのじゃ、エルハイミ?どんなお願いがあるのじゃ?」


 俺はにこっと笑ってからこう伝えた。


 「はい、エルハイミは文字を習いたく思います。文字を覚えてエルハイミもおじい様のように本が読みたいのです。」


 年齢的にもそろそろ色々出来そうになってきたのでまずはこの世界の文字を覚えたい。そうすればここで情報収集しまくれる。


 「おお、エルハイミよ、文字を習いたいと申すか?うむ、結構な事じゃ、その年で自ら文字を覚えようとするとは見事じゃ!そうじゃなとびきりの家庭教師をつけてやろう!エルハイミよ、早速明日家庭教師を紹介するぞ!」


 そう言って爺様は上機嫌に書庫を出ていった。


 即断即決はありがたいんだが、元気な爺様だ事。


 多分家庭教師の選定に向かったのだろう、ポツンと取り残された俺は残ったお茶を飲んでからヨバスティンにお礼を言って書庫を出た。


 さて、行動開始だ。





 翌日、爺様がつれてきた中年の女性は見るからに教育係の人だった。



 齢三十位の未婚の女性で、びしっとしたいで立ちに長そうな髪をきれいに頭に巻きあげ、お約束の逆三角のメガネまでつけている。



 「エルハイミよ、今日からお前に付ける教育係のジーナ=アンダーソンじゃ。ボヘーミャ学院を首席で卒業した才女じゃぞ。」


 おいおい、爺様よいきなりすごいの連れてきたな!?ジーナさん、ちょっと冷血な雰囲気があるんですが・・・


 「エルハイミと申します、どうぞよろしくお願いいたしますわ。」

 

 そう言って俺はスカートのすそを上げ、正式な挨拶をした。そして営業スマイルでジーナさんを見てみると・・・


 「ジーナ=アンダーソンです。エルハイミ様、ご挨拶については満点を差し上げますわ。よくできてらっしゃる。今日からエルハイミ様の教育係としてしっかりとやらせていただきますわ。」


 そう言って俺と同じように正式な挨拶を返してくる。

 爺様は初対面での採点に満足したようで、かっかっかっと水戸黄門様のように笑って後は頼んだぞと言いながら退席していった。



 えー、いきなりジーナさんと二人きりかよ!?

 俺人見知りじゃないが初日くらいもう少し付き合ってよじーちゃん!!



 心の叫びを隠しながら、とりあえず最優先事項をジーナさんにお願いしてみる。


 「ジーナさん、おじい様からお話は伺っていると思いますが、私、文字を習いたく思っております。」

 

 営業スマイルでお話してみると、ジーナさんはメガネのずれを直しながら軽く咳払いをした。


 「エルハイミ様、私の事はジーナとお呼びください。イーガル様からお話は聞いておりますが、イーガル様はそれ以外にもレディーとしての作法も同時にお教えするよう言われております。どうぞ私めにお任せください。」


 そう言ってどこからか取り出した教鞭をピシッと手のひらに叩き付けた。



 えー?聞いてないよ~、文字だけじゃないのかよ~。

 爺様、ハッスルしすぎだよ~。



 俺は頬に一筋の汗を流しながらジーナさんにこう言った。


 「お、お手柔らかにお願いしますわ。」




 それからスパルタ教育が始まったのである。




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