第4話「Decided Prepared」Bパート

「分からないんだ、何も。これからどうすればいいのかも」

 大悟は吐露する。確かにセレーネのニュークリアスにはなった、いや、なってしまった。それが一体何なのか。それでどうしろと言うのか。敵を徹底的に殺せとでも言うのだろうか。冗談じゃなかった。そんなことはお断りだと大悟は思っていた。だからこそ、ニュークリアスとして何をすればいいのかが分からない。視えないのだ。大悟は頭を抱えて俯いた。何も視えないのなら、いっそのこと全てを視えなくしたらいい。何も考えないようにすればいい。そうするしかないじゃないか。大悟はそう自分に言い聞かせた。

 人が近づく気配がする。足音がする。すぐに三咲だと分かった。長い間一緒にいると、何となく空気感で分かってしまうものであった。また引っ叩かれるのか。大悟は少し覚悟したが、そんなことは一切無かった。

「大悟、一人で背負い込み過ぎなのよ。そんなだから、こうなるんじゃない」

 大悟の視界は三咲の胸の中にあった。すぐに三咲に抱き寄せられていることが分かる。不思議と抵抗する気にはならなかった。むしろ、温かさを感じた。今までにない温もり。体感的なものではない。心的な感覚だ。こうしていると、こうしてもらっていると、何となく心が落ち着いた。

「もっと、もっとさ、私たちを頼ってよ、大悟。何のために今、私たちがいるの」

 そう言われても、やはり頭のどこかで人間ではないと思ってしまう。そうなってはならない、そうでは何も変わらないことぐらい大悟も分かっている。だけど、どうしても。どうやっても、そう思ってしまう。そんな自分の思考回路が愚かで悔しかった。自然と涙が頬から落ちる。泣いたのはいつ以来だろうか。三咲の抱きしめる力が強まる。

「大丈夫。私たちがついてるわ、大悟」

 しばらくして、大悟は三咲の腕の中から抜け出した。どんな顔になっていようが、そんなことは関係無い。三咲の顔を見て、覚悟を示したかった。

「俺は、人殺しになるかもしれない。セレーネのニュークリアスとして、人殺しになるかもしれない。それは普通の人間じゃなくなるってことだと、俺は思う。でも、それでも、そんな俺にお前は着いて来てくれるか、三咲?」

 そう、力を手にしてしまった以上、戦うしかない。その代償が人ではなくなるという。だけど、それも生きるためには仕方のないことだと思えば、そう割り切るしかない。着いて来てくれなどとは言えない。それこそ、頼むしかないのだ。

「着いて来てくれるか、ですって? 当たり前よ、大悟。行くわ、どこまでも。もしあんたが人でなくなったとしても、私はあんたに着いて行く」

「私も、三咲隊員と同じ意見ね」

 少し下がったところに立っていた小宮山が言う。見守るというニュアンスの声色であったが、それは正しいと大悟は思った。親身になったとしても、小宮山は、ウルティマの隊員は三咲ほど大悟を知っているわけではない。むしろ、妙に親身になられても違和感を覚えるだけなので、その方が大悟としてもありがたい。

「……ありがとう、二人とも」

 直後、敵接近警報が基地に鳴り響いた。こちらのことなど考えてくれるはずもない。そんなことぐらい、大悟は分かっていた。だが、それでも世界というのはやはり甘くない、厳しいものだと思った。でなければ、こんなタイミングで警報が鳴ったりはしない。いや、運は良い方なのかもしれない。この戦いでもしかすれば、いや、そんなあやふやでは駄目だ。この戦いで、覚悟を決められる。大悟はそう思った。

 相手を、敵とはいえ人間を殺すことになる。だけど、そうやってでしか前に進めない世界なら、そうやってしか覚悟を決められないというのなら、殺す覚悟も必要だ。そして、それが今ならぴったりということ。それだけだ。大悟はベッドから立ち上がる。両手に嵌められた紋章の指輪――クリアスリング――を天に向けて掲げる。三咲が心配そうな目で大悟を見る。そんな三咲に、大悟は微笑みかけた。

「俺は、やれることをやるだけだ」

 小宮山が三咲の肩に手を添えて促す。小宮山と共に三咲は医務室から去る、その寸前。

「生きて、戻ってきて、大悟」

 その言葉が医務室に響き、そして無音が訪れる。もうここには誰もいない。いるのは自分だけだ。大悟は意識を集中する。クリアスリングに力を籠めるイメージをする。一瞬、セレーネと一体化した自分の姿が見える。いける。大悟はそう確信した。勢いよく、両手のクリアスリングを胸の前で重ね合わせる。自分の意志で言葉を連ねる。

「ホルスの神人よ、目覚めろ!!」



                ■



 シルフファルコンが次々にヘカティアのレーザーガンポッドによって撃ち落とされていく。その様子を、矢作は己の乗機であるシルフパルサーから見えていた。いくらシルフファルコンがシルフパルサーの簡易型と言っても、その性能は従来の戦闘機を遥かに上回っているはず。なのに、こうも簡単に撃墜されるのは、もう連合軍のパイロットの腕が悪いとしか考えようがない。だけど、貴重な戦力だ。矢作はシルフパルサーの機首をヘカティアに向けて、翼下に装備していた空対空ミサイルを発射する。今のヘカティアは空中をブースターで自由自在に飛行している。レーザーガンポッドでは致命傷を与えにくい。命中確率が低いとはいえ、ミサイルしか手はない。

「クソッ、駄目なのか!?」

 やはり予想通り、シルフパルサーから放たれたミサイルはあっさりと回避された。刹那、ヘカティアは矢作より前に飛んでいた岸田のシルフパルサーにレーザーガンポッドが向けられる。矢作は急いで岸田機に呼びかける。

「岸田、逃げろ、完全に墜とされるぞ!」

『駄目です、完全にロックされてます!』

「クソッタレがぁ!」

 矢作はやけくそで機体の速度を上げ、ミサイルとレーザーガンポッドを一斉射する。岸田は勿論、矢作自身も危険は承知の上だった。こうでもしなければ、無惨に岸田機のコックピットを破壊されるかもしれない。回避運動を取る岸田機。飛来する矢作機のミサイルのレーザー弾丸。だが。

「化け物がぁ!」

 無傷。ヘカティアは無傷だった。このままでは二機ともヘカティアのレーザーガンポッドで破壊される。殺される。命が消える。意識が消滅してしまう。こんなテロリストどもに、殺されてしまう。

「死んでたまるかぁ!」

 矢作が無我夢中で叫ぶ。ヘカティアのレーザーガンポッドが火を吹く。もう駄目だ、どうにもならない。矢作は目を瞑った。

 意識が消えることも無ければ、痛みも無かった。衝撃も一切無い。矢作は、自分のシルフパルサーが飛んでいるということを確認するのに、ほんの一瞬手間取った。すぐ傍に岸田のシルフパルサーも確認できる。そして、先ほどまで自分がいたところには、あの遺跡の巨人、MG7「セレーネ」がいた。

「大悟君か!」



(間に合った、か……!)

 セレーネのコズミックコアで、大悟は一安心した。光子衝撃銃フォトンショックライフルを咄嗟に放ったのは正解だったようだ。ヘカティアのレーザーガンポッドを、光子衝撃銃フォトンショックライフルが全て消し去っていた。出撃していた味方のシルフパルサーは、二機とも無事に空を飛んでいた。もうミサイルの残りは無かった。

(俺が、俺がやってやる!)

 大悟は光子衝撃銃フォトンショックライフルをヘカティアに向け、発射する。インプットされた情報によると、光子衝撃銃フォトンショックライフルはいくら撃ってもエネルギー切れは起こさないらしい。とはいえ、連射と一定数のエネルギーを放てばチャージも必要らしい。ならば、牽制射撃と本命射撃を重要視しなければならない。一発目は避けられた。当然だ、碌に照準を定めずに撃ったのだから。

(もう一発!)

 二発目も避けられる。これも想定内。三射目こそが本命だ。大悟は光子衝撃銃フォトンショックライフルの照準をヘカティアの翼付きのブースターにすかさず定める。

(喰らえ!)

 強い意志を籠めながら、光子衝撃銃フォトンショックライフルを撃つ。光子エネルギーの弾丸が、ヘカティアの翼を貫通する。沖合に降下していくヘカティア。ギリギリでブースターユニットをパージし、何とかヘカティアは着地し、レーザーガンポッドをセレーネに構える。機体のダメージが直接ニュークリアスに伝わるセレーネでは、どれだけ装甲が厚くてもそれは焼け石に水程度でしかない。つまり、回避するしかない。ヘカティアからレーザーガンポッドが発射される。そのタイミングを読み、大悟はセレーネを走らせて回避する。走りながら右手に装備した光子衝撃銃フォトンショックライフルを発射するが、動きながらでは照準を合わせることなどそう簡単にはできない。当てずっぽうで放った光子エネルギーの弾丸は全て外れていた。しかも連射してしまったせいか、エネルギーチャージ中の文字が大悟の目に投影されていた。これでは攻撃手段が頭部のレーザーバルカン砲とレーザーソードだけだ。それでは有効打になるかどうかは分からない。相手はアイゼンギガントなのだ、普通の兵器ではない。

 だが、それでも何もせず、回避しているだけよりかはマシだ。大悟はレーザーバルカンを発射する。予想通り、ヘカティアには低出力であるレーザーバルカン砲は効かなかった。

(こうなったら!)

 大悟はレーザーソードを展開し、背部バーニアを吹かして一気に距離を詰めた。しかし、それをヘカティアは見越していたらしい。大悟は腹部、胸部に強烈な衝撃と痛みを覚えた。セレーネが、ヘカティアのレーザーガンポッドの攻撃をまともに受けていた。コズミックコアの中で絶叫する大悟。しかしその声が外に漏れることも無ければ、意図的に聞こえることはない。大悟は気付けば膝をついていた。



『副隊長! あれでは大悟君が!』

「分かってる! 行くぞ!」

 上空を旋回しながら飛行していた矢作は、岸田のシルフパルサーを連れて一気に急降下、ヘカティアに突撃した。

「レーザーガンポッドが効かなくても、目くらましぐらいには!」

 そう叫びながら、操縦桿のトリガーを引き続ける。コックピットのHUDにはレーザーガンポッドの部分はエラーの赤色になっていた。これ以上連射すれば銃身がオーバーヒートするか、爆発を起こす。だけど、そんなことは知ったことではない。今は戦いに巻き込んでしまった大人として、一人の若き命を助ける方が大切だ。

 レーザー弾丸が次々とヘカティアに直撃する。が、そのどれもがやはりダメージにはなっていなかったようだ。悠々とヘカティアはこちらに振り向き、両手でしっかりとレーザーガンポッドを構える。もう、回避する余裕も無ければ、思考回路も追いついていなかった。ヘカティアからレーザー弾丸が斉射される。

『駄目かぁ!』

「クッソォ!」

 レーザー弾丸がシルフパルサーの翼を貫通し、破壊する。それでも機体はまだ制御系は死んではいなかった。完全ではないものの、ある程度は動かすことができた。操縦桿を動かして、何とか矢作は着水した。続けて岸田のシルフパルサーも無事着水した。しかし、敵は目の前だ。レーザーガンポッドをこちらに向けている。矢作の首筋に、汗がひやりと流れる。

「ここまでか……!?」



(パルサーが……!)

 大悟は体を動かそうとしたが、先ほどの攻撃で体が言うことを効かなかった。動かないのだ。衝撃と痛みで。悠然とヘカティアはシルフパルサーへ歩みを進める。その手には、しっかりとレーザーガンポッドがある。確実に仕留めるべく、接近している。

(クソ、何で動かないんだよ、俺の体は!)

 これでは今までずっと我儘を言いながらも、見守ってくれた隊員に感謝することもできなくなる。後悔しかできなくなる。このままでは駄目だ。動かさなければ。とにかく動かさなければ。動け、動け、動いてくれ、俺の体。

(何で動かないんだよ!)

 どれだけ動かそうとしても、どれだけ念じても、大悟の体は動かなかった。それは即ち、セレーネの巨体も動いていないということだ。今ここでやらなけれ何にもならない。今ここで戦わなければ人類のために戦っている人が死ぬ。こんなテロリストごときに殺されてしまう。それは駄目だ。皆が悲しむ。三咲も悲しむ。人類から希望の光が減ってしまう。駄目だ、それだけは駄目だ。動け、動いてくれ。

(動け、動けよ、俺の体ぁ!)

 瞬間、スイッチが切り替わるような音がした。そして、視界が動いているのが分かった。大悟が首を動かしているわけではない。セレーネが立ち上がっているのだ。大悟が体を動かしているわけではない。自動で、セレーネは動いていた。大跳躍し、遺跡に戻る。遺跡の壁の一部を破壊し、その中からレーザーソードのグリップに似たバトン状の物を取り出した。その長さから、どう考えても両手で扱うことを前提とした物のようだった。再びセレーネは跳躍する。ヘカティアの正面に立ち、持っていたバトン状から光の剣――光子剣フォトンソード――を出現させた。

 光子剣フォトンソードに怯えたのか、ヘカティアは少し後退りながら、それでもレーザーガンポッドを斉射した。しかし自動で動くセレーネは、光子剣フォトンソードを超高速で回転させてレーザー弾丸を全て消し去った。

(何だよ、これ……)

 圧倒的だった。あまりにも。これがセレーネの本当の力なのだろうか。まるで意思を持っているかのように、じわりじわりとヘカティアに詰め寄っていた。大悟がどれだけ体を動かしても、セレーネは言うことをきかなかった。

 レーザー弾丸の雨あられが止む。どうやらヘカティアのレーザーガンポッドのエネルギーが尽きたようだ。

 瞬間、セレーネは両手で光子剣フォトンソードを構えて、それを一気に振るった。光子エネルギーの剣が、ヘカティアを切り裂く。機体の奥深くにまで切り裂いた後ができた。爆散はしなかった。が、大悟は倒れていくヘカティアに、見たくもないものが見えてしまった。

(女……それも子供……!?)

 ヘカティアの内部にいたのは、大悟自身と同い年ぐらいの少女であった。



「こんなことって……!」

 リンダは何とかヘカティアのシュードクリアスから這い出たが、動くな、という声がすぐに聞こえた。遠くの着水したシルフパルサーのパイロットが、こちらに拳銃を向けている。届くはずのない射程だというのに、何故構えるのだろう。そして何故、自分は今、その届くはずのない拳銃に怯えているのだろうか。いや、そんなことはすぐに分かる。どこに行っても、もう残っているのは死、だけだからだ。ゼットロンに戻っても死、ウルティマに捕らえられても、最終的には死ぬ。死ぬしかないのだ、もう。

 頬に熱いものが流れる。口の中は鉄の味がたっぷりとする。頬を流れているのが涙なのか、或いは血なのか、それすらも分からない。だけど、もうどうしようもない。死ぬしかない。リンダは腰に備えていた拳銃を抜き、頭に突き付けた。やめろ、という声がシルフパルサーの方から聞こえる。だから、どうしたというのだ。それが何だというのだ。もう、死ぬしかないのだ。

 いや、これでこの死ぬほど腐った現実からおさらばできると思えば、それは実に嬉しいことだった。こんな家族も誰も味方してくれる人間がいない世界など、生きていてもしょうがない。死んだ方がよっぽどマシだ。そう思えば、頭に突き付けた拳銃の引き金を引くのは、実に簡単過ぎることであった。



               ■



 ネビルにとって、この結果は予想通りであった。同時に予想外でもあった。リンダがやられるということは分かっていた。だが、敵のEG7が新たな武器を更に使うというのは正直考えていなかった。それも、あの光子エネルギーはEGをあっさりと破壊するぐらいのパワーがある。何らかの対策は取らなければならないだろう。

 所詮は役立たずになるだろう。ネビルは当初、ジョンとリンダのことをそう思っていた。しかしそれは違った。あの二人は、ネビルにとっての楽しみを増やしてくれた。役立たずではない。面白いことを提供してくれる道具だった。

「次は俺が楽しむ番だな。フッフッフ……」

 残っているゼットロンのメンバーなど知ったことではない。戦力がネビル以外に無いならば、今を楽しむのが一番だ。

 ネビルは一人、EG5「エレーボス」が眠る部屋で含み笑っていた。



                ■



「……ああ。だから多分、しばらくは戻れないと思う」

『そうなんだね……父さんもいないから心細いけど、あんたがそうやって守ってくれるってのなら、母さんは反対しないわ』

 ウルティマ基地の医務室に戻った大悟は、母晶子と携帯端末で電話をしていた。今まで小言のうるさい母だと思っていたが、それが実は違うということに大悟は気付いていた。

 こんなにも、こんなにも自分のことを考えて、想ってくれていたのかと思うと、感謝の言葉しか浮かばない。だが、今はまだそれを言う時ではない。言える状況ではない。ゼットロンは、まだ生きている。

『ただ一つ、条件があるわ』

「条件?」

『絶対に、絶対に生きて帰ってくること。それと、帰ってきたら頑張って勉強して大学に進学すること』

「二つになってるよ、それ」

『一つだろうが二つだろうが、今の母さんにはどうだっていいのよ。とにかく、生きて、生きて帰ってくること。いいね?』

「そりゃ勿論、そうするよ。……大学の方は、ちょっと分からないけど。じゃ、母さん、切るよ」

 電話を切り、携帯端末を仕舞った。それとほぼ同時に、黒田たちウルティマの隊員が医務室に入ってくる。大悟は三咲を見、頭を下げた。

「さっきは、悪かった」

「いいわよ別に。気にしてないわ」

「そう言ってくれると助かるよ」

 黒田が大悟に近づき、面と面を合わせる。大悟より黒田の方が僅かに慎重は高いので、大悟は見上げることになる。

「大悟君、本当に入るつもりか?」

 黒田のその言葉は、まだどこか決意の色が揺らいでいるように大悟は思えた。だから大悟はしっかりと答える。はっきりと答える。意思を見せる、貫く。もう決めたことだ。変えるつもりなど元から無い。

「俺、門山大悟は、世界統一連合軍特務部隊ウルティマへの入隊を希望します」

 はっきりと揺らぎない言葉。その言葉に黒田も踏ん切りがついたらしい。

「後で正式な君の部屋を渡す。それと入隊希望書と制服も持ってくる。いいな、大悟隊員?」

「了解です、黒田隊長」

 大悟隊員、という呼ばれ方に、大悟は何だかこそばゆかった。

「後で歓迎会、開くからよ。そんな緊張しなくていいぜ」

 と副隊長である矢作が気楽そうに言う。

「副隊長はもう少しいつでも緊張感を持ってもらいたいものですね」

 と岸田が矢作の言動に呆れていたものの、その言葉に棘は感じられない。多分この二人は何だかんだで仲が良いのかもしれない。

「何か困ったことがあったら、いつでも私に言ってね。出来る限りのサポートはするわ」

 小宮山はそう言いながら、矢作たちと共に医務室を後にした。残されたのは大悟と三咲だけであった。そうなると、大悟はどうにも気まずかった。

 気まずい沈黙を先に破ったのは、三咲であった。

「……本当に、これでよかったの? 一般人として協力するっていう道もあったのよ?」

 そういうことに対する答えを、大悟はもう決めていたし、持っていた。

「前に俺、言ったよな。俺には罪があるって」

 その言葉に、三咲は頷く。大悟は続ける。

「入隊するのは罪滅ぼしをしたいってのもある。けど、それ以外のこともできるんじゃないかって、思えたんだ。それ、三咲のおかげなんだ」

「私?」

「そうさ。三咲がああまでしてくれなければ、俺は間違いなく罪滅ぼしのためだけに動いてやるって決めてた。けど、それを止めてくれたのは三咲なんだ」

「そう言われると、何か照れるわね……」

 三咲は少し頬を赤らめる。大悟も何だか恥ずかしかった。後で考えたらとんでもなくガラでもないことを言っているのではないかと、後悔しそうだ。

「ま、まぁそういうことだから、今後はよろしく頼むよ、三咲」

 精一杯照れているのを隠したつもりだったが、どうせ三咲には分かっていることだろう。腐れ縁の幼馴染の勘は伊達じゃない。

「ええ、頑張りましょう、大悟」

 だけど、三咲はあえてなのか、それとも本当に気付いていないのか、追及をしてこなかった。ありがたいのやら、ありがたくないのやら。今の大悟にはちょっと分からなかった。



               ~~~続く~~~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Eisen Gigant 折井昇人 @monnusi0903

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ