202-聖王都プラテナ北部・最前線
<再び聖王都プラテナ 最前線から少し離れた路地>
「北地区住民の全世帯、地下道への避難完了しました!」
「続けて別地区の衛兵に民を避難させるよう伝達しろ! 民間人の犠牲者を絶対に許すな!!」
ライナス殿下の的確な指示によって、聖騎士ほか多くの衛兵が街中を駆け回る。
後方から凄まじい爆音が響いてくるものの、それを眺めている余裕はない。
『ヴォオオオオオオオオーーーー!!!』
大地を揺らすほどの
最前線からはかなり距離があるにも関わらず、民家の古窓がバリンと音を立てて割れ落ち、軍馬が悲鳴を上げて暴れ回る様から衝撃の強さが計り知れた。
声の聞こえてきた方向からして、どうやら勇者の居る辺りで何かあったようだ。
「怯むな! 勇者を信じて、我らは出来ることを尽くすぞッ!!」
殿下が恐怖に耐えながら前線で声を上げるのを見て、家臣達の志気も上がる。
皆が一念発起する姿にライナスは内心安堵しつつも、それを表情には出さず心の中で呟いた。
「……神よ、我らに救いの慈悲を」
その直後、騎士達の頭上を巨大な影が轟音とともに通り過ぎていった。
「!?」
突然のことに騎士達は驚愕していたものの、影の正体に気づいたライナスは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「……恩に着る」
・・
【ほぼ同時刻】
<聖王都プラテナ北部 最前線/勇者パーティ>
「ぬおおおおおおおおッ!!!」
剣士クニトキが大剣を振り下ろし、そこから放たれた疾風の刃がグレーターデーモンAの翼へと突き刺さる!
突然の背中の痛みに苛立ちながら化け物が振り返り、その勢いで巨大な尾が建物二棟を薙ぎ倒した。
「レネットッ!」
『シュレッド・シューティング!!』
建物に衝突した慣性で動きが鈍ったタイミングに合わせ、弓手のレネットがグレーターデーモンAの後頭部へと鋼の矢を一撃!
『ヴォオオオオオオオオーーーー!!!』
相当ダメージがあったらしく、巨人はその場で発狂し暴れだした。
凄まじい咆哮を上げながら暴れる様はまるで酷い嵐のようで、勇者達もたまらずその場から退避する。
……だが!
「しまった!」
巨人の振り回した拳が教会に隣接する高棟へと当たり、建物が傾いた。
このまま倒壊してしまえば、今この時も必死に詠唱を続けるシャロンが巻き込まれることは必至だ。
「ウインド……ハンマーッ!!」
どうにか逆方向へ倒そうと魔法使いシズハが風魔法を放つものの、到底力及ばず。
ついにぐらりと建物が倒れだした。
「シャロンさんッ!!!」
シズハが悲鳴にも似た叫び声を上げる。
が、全神経を詠唱に集中しているシャロンに声は届かない!
万事休すと思われたその時――
「セイクリッド・ホーリーシールド!!」
空の上から男性の声が響いた途端、巨大な光の盾が展開。
建物は斜め向きのまま制止し、シャロンの頭上に影を落とした。
「上位神聖術!? いったい誰が!」
カネミツが驚きながら声の聞こえた方に目をやると、なんとそこに居たのは飛竜の大群であった。
しかも、飛竜の背には鎧をまとった屈強な騎士達の姿があり、彼らの旗には敵国であるジェダイト帝国の紋様が刻まれていた。
突然の敵軍の襲来に勇者達が唖然としていると、先頭で一際大きなドラゴンに乗った男が、皆を見下ろして叫んだ。
『俺の名はレパード! この戦い、加勢するぜッ!!』
「!!」
カネミツもその名を耳にしたことがあった。
レパードといえば、ジェダイト帝国の次期皇帝として期待されているライカ皇子の右腕と言われる側近であり、プラテナとの和平交渉に幾度となく訪れている人物だ。
『そこのお嬢ちゃんがケガしねえように護れば良いんだよな?』
「あ、ああ! ありがとう……!」
カネミツが御礼の言葉を伝えると、レパードは豪快に笑いながら竜騎兵を二手に分け、半数をグレーターデーモンAへ、残りの兵を聖王都の南部へと向けて誘導した。
ここからは見えないが、南でももう一つの戦いが続いてるはずだ。
「でも、どうしてジェダイト軍が……?」
「それは、彼らのおかげですよ」
「プリシア様!」
まさかプリシア姫がこのような危険な場所に来ているとは思いもしなかったカネミツは、驚きに声を上げる。
しかも姫の隣には、先にも挙げたライカ皇子まで居るではないか!
そして、彼らの後ろには聖王都中央教会のものとは少しデザインの異なるローブを着た聖職者の姿があった。
「この方は……?」
「申し遅れました。私は帝国教会で司祭をしているアインツと申します」
「なんと!」
アインツといえば、かつて聖王都中央教会の大司祭を務めていた人物であり、昨年新たに新設された帝国教会のトップである。
対面するのは初めてではあるものの、聖王都中央教会から直々に勇者へ任命された彼がそれを知らない理由はない。
「単刀直入に言いますと、神の声を聞いたのです。軍を率いて聖王都に向かい、人々を救いなさい、と」
「なんと……」
感嘆の声を漏らすカネミツの姿に、ライカ皇子はクスリと笑う。
『しかも、レパードが貴国へ訪問する予定とピタリと一致していましたからね。これはただごとではないと思い、竜騎兵を連れてきて正解でした』
「……そう、ですか」
天啓が我らに死ねと言い、一方で神の声は人々を救えと言った……。
この事実を前に、カネミツは一つの結論を導き出した。
「あの天啓は神の意志に反する悪魔の仕業に違いない! 僕達は
「うむっ!」
勇者達は心新たにグレーターデーモンAへと立ち向かってゆく。
地上と上空、両方から猛攻撃が仕掛けられた。
そしてついに――
「……ふぅ」
シャロンがゆっくりと立ち上がり、目を開いた。
地面に触れていた左手には地獄の深淵にも等しい黒い魔力が、空を仰いでいた右手には神の光に匹敵する白い魔力がうねる。
「……っ!」
小さな身体がゆらりと揺れ、両手の力が抜けそうになる。
あまりにも力が強大すぎるゆえ、幼い少女には扱いきれないシロモノだった。
……が、それを同じく小さな身体が必死に支えた。
「お姉ちゃん!! 頑張って!!!」
「……」
最愛の妹に励まされた姉は無言で微笑むと、両手を真っ直ぐにグレーターデーモンAへと向けた。
直後、それまで空を飛んでいた竜騎兵の乗るドラゴン達は急に失速し、滑空し始めた。
ただし、これはシャロンの魔法を回避するためではない。
彼女の魔法があまりにも強大すぎるゆえに、システムリソース……この世界においてマナと呼ばれる力の源を大量消費し、ドラゴンの飛翔能力に用いる魔力すら枯渇させてしまったことが原因である。
無論、それまで攻撃魔法で応戦していたシズハも同様であった。
「あの子、一体なにをするつもりなの……」
シズハは知る由も無い。
サツキ達とともに魔法学園に戻ったシャロンが、伝説の禁呪【ゴッドフレアの魔導書】を入手したことを。
しかも、いま目の前で撃ち出されようとしている魔法はゴッドフレアではなく、シャロンがそれを基に創り上げた最強魔法であるということを。
「アルティマ…………フレア……ッ!!!」
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