182-未来を視る力
【同日 午後】
<プラテナ城 ゲストルーム>
「ちょっと見ない間に、ずいぶんと面白い状況になってたのね」
「面白いって……」
結局、再びプラテナ城の客間へと戻ってきたわけだが、よっぽどコロンの一撃が効いたのか、未だオーカは目を回したままベッドで眠ったままである。
俺達は、オーカの正体が魔王であること、魔王の祖先が未来を視る力があったこと、さらにはキャシーにもそれに近い力があるかもしれないといった、現時点での考えを伝えた。
が、その感想の一言目で「面白い」を頂戴してしまったのは何とも。
「ま、エレナさんの見解は間違ってないかもね」
シャロンはそう言うと、コロンにちらりと目を向けてから声を潜めて話し始めた。
「私、実のところ今回の論文発表は参加を見合わせようと思ってたの。今やってる研究って、魔力を極細の糸として射出して、それを遠隔地で着弾させて情報伝達に用いるようなシロモノだから……」
「???」
シャロンの話を聞いて、サツキをはじめ他の皆も首を傾げるばかり。
自分の説明が全く伝わっていないと察したのか、シャロンは困り顔で話を続ける。
「だからね。遠方に情報を届けるってのは、いわば神託の
「お姉ちゃん、そんなこと気にしてたの???」
「えーっと……」
コロンにまで突っ込まれて困っているシャロンの様子を見て、キャシーが苦笑しながら手をひらひらさせながら口を開いた。
「離れて暮らしている家族と、いつでも遠くからお話したい! って、シャロンちゃん先輩は考えてるんすよ」
「ぐぁ……」
キャシーの一撃を受けてシャロンがおかしな声を漏らした。
それを見て、今度はメランダがニヤニヤと笑う。
「それも妹ちゃんが寂しがってるから、いつでも相談相手になってあげたい~ってコトなんですよね~。ホント優しいお姉ちゃんですね~。シャ、ロ、ン、ちゃ……ぎゃあ!」
思いっきり尻を蹴飛ばされたメランダが顔からベットに顔面から突っ込んだ。
打ち所が悪かったのか、ピクピクと痙攣しているけど……大丈夫なのだろうか。
「まったく……ぶつぶつ」
……たぶん二人の言っていたことは事実で、シャロンは照れ隠しにわざと難しく説明してたのだろう。
後輩二人組の説明を聞いて姉の真意を悟ったコロンはキラキラと輝く眼差しでシャロンを見つめているし、姉は姉で顔を真っ赤にしながら気絶したままのメランダの尻に蹴りを入れていた。
「そ、そんな話はどうでもいいのよっ!! ……それで、私が迷ってたところにキャシーが飛び込んで来たんだけど、開口一番なんて言ったと思う?」
自分の名前を出されたにも関わらず首を傾げている当人を見て、シャロンは溜め息をひとつ。
「私が拍手喝采を受けている夢を見た。その夢で、イケメンなオジサマが資金援助も約束してくれた。私の近くに白いキラキラした私のそっくりさんが居た。場所はなんだか知らない赤絨毯の敷かれたお高そうなデカい部屋だった、よ」
「うっわ!」
あまりにも具体的すぎる内容に思わず声が出た。
「んで、私の研究発表を聞いた途端に殿下がすっ飛んできたかと思いきや、今は緊急事態だ~、一刻も早く実用化を~、協力は惜しまぬ~! ……とまあこんなわけ。ちなみに特別来賓席にコロンも居たわね」
「うっわぁ……」
二度目も同じ声が出た。
いや、これは夢がどうとか言うレベルじゃない。
キャシーは確実に【未来を視た】と言っても過言ではないだろう。
「前にコロンに送った手紙に、竜の森が燃える夢を見た知り合いがいるって書いたことがあるんだけど、これも……お察しのとおりよ」
「なるほどな……」
シャロンの言う【手紙】とは、中央教会のゴタゴタの際にコロンが俺達に助けを求めてきた時に、送られてきた手紙のことだろうし、今から数ヶ月前の時点で、キャシーの能力は本格化の兆しがあったと考えて良さそうだ。
すると、これまでのやり取りを見て、自分が褒められていると思ったのか、キャシーが目をらんらんと輝かせながらシャロンに抱きついた。
「なんすかっ! ひょっとして、あーし褒められてるんすか!? いいんすよっ、もっとあーしを褒め称えよおおおゲフッ!」
見事にキャシーの脳天にシャロンのチョップがクリティカルヒット!
そのままベッドに仰向けで倒れ、後輩二人組は仲良く目を回してしまった。
……なんつーか、後輩二人組の扱いに慣れてんなー。
「だけど、キャシーがこれだけ未来を知る力があるなら――」
『
「!」
唐突に声をかけられて慌てて振り返ると、いつの間に起きていたオーカが俺達の方を見て不適な笑みを浮かべていた。
小さな手には、彼女の祖先が魔女から譲り受けたという【魔力強化のネックレス】が握られている。
「体調は大丈夫か?」
『うむ。……と言いたいところではあるが、どうにも気分が優れぬし記憶が曖昧でな。我は街で食事をしていたはずじゃが……う~ん、全く思い出せぬ』
そう言いながら必死に思いだそうとするものの、ウーンウーンと唸るばかり。
どうやら、酔い潰れてわんわんと泣いたことは覚えていないらしい。
まあ、覚えていたら覚えていたで騒ぎになりそうだし、触れないでおこう。
……が、そんなシャロンを見て、サツキが目を輝かせながらオーカに迫る!
「オーカちゃん、めちゃくちゃ酔っ払って大変だったよ! まさか酒乱の気があるなんてビックリ~」
『なぬ!? わ、我がそんな粗相を……一体なにをしたのじゃ!?!?』
「それは言えないにゃあ~~」
『なんでじゃーっ!!』
「んふふふ……んげっ!」
調子に乗りだしたサツキをデコピン一発で黙らせつつ、俺は改めてオーカへ話しかけた。
「大体の状況は察したと思うけど……それ、貸してもらってもいいかな?」
『うむ。我には何の意味も無いモノじゃからの』
オーカは少しだけ寂しげに呟きながら、自らの手に握っていたネックレスをベッドに倒れたままのキャシーの頭にポイッと乗せた。
「……首にかけないのな」
『いや、なんか倒れたままピクピクしとるし。昏倒してるのを無理に動かしたら、そのままポックリ逝きそうな気がしてのぅ……』
「うーん……」
と、俺とオーカがそんなことを話していると――
【……Now loading】
「っ!?」
何の前触れもなく
『おのれっ、
オーカが苦虫を噛み潰したような顔でそれを睨みつけたものの、こちらの都合などお構いなしで、空中に言葉が描かれてゆく。
そして、眩い光が収まった後に俺達の目に飛び込んできたのは……
【過去の復元データを検出しました】
(日時 聖王歴129年 黒の月 1日 午前0時)
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