181-あーしのこと呼んだっすか?

 エレナが指差した先に書かれていたのは、魔法学園のあるエメラシティでの滞在最終日の出来事。

 自分の居場所を失いつつあったシャロンの悩みを、落ちこぼれの後輩二人組「メランダとキャシー」の協力によって解決したときのことだった。

 たしか最終日は、俺達が行くよりも早くメランダとキャシーが……あっ!


「もしかして、キャシーの能力はオーカの祖先と同じなのかッ!?」


『はい、きっとキャシーさんが――』



「あーしのこと呼んだっすか~?」



「!?!?!?」


 名前を口にした途端、目の前にいきなり当人が現れたもんだからビックリ仰天!

 エレナも驚きに目を見開いている。


「え、えええ、なんでっ!?」


「いや、実はシャロンちゃん先輩の論文発表で聖王都に来ることになったんすけど、あーしらも手伝い役として付き添いが認められたんすよ~。あ、ちなみに発表はアサイチに終わったんすけど、大成功っす! ……それにしても、都会は観光に来るには最高っすね! 人がゴミゴミしてて住むのは嫌っすけど」


 すっごいマシンガントークをかましたかと思いきや、さらりと聖王都をディスるキャシーはさておき、彼女が居るということは……


『あの、シャロンさんとメランダさんは……?』


「シャロンちゃん先輩は実家に行ってますよ。親子水入らずですね~」


「!」


 エレナの問いに答えながら現れたのは、後輩二人組の片割れのメランダ。

 ぱっと見は真面目そうなのに落ちこぼれとは、人は見た目によらないものである。


『メランダさん、お久しぶりです』


「一年ぶりくらい? あ、サツキちゃんは半年ぶりくらいですよね~」


「うんうん、おねーさんヤッホー♪」


 そういえば、前にサツキ達だけで単独で実家に帰ろうとした時に、彼女達と再会してたんだっけな。


「で、あーしの名前が出てましたけど、なんかあったんすか?」


「えーっと……」


 これについては、なんとも説明しがたい。

 まず、エレナが日記を指差してキャシーの名を挙げた理由は、魔法学園での一連の出来事の際に「キャシーが夢を通じて未来を視た」ということにある。

 シャロンを勇者とともに行くか、それとも学園に残るか……?

 その重要な決断を下す直前に、シャロンが学園から居なくなる未来を視てしまったキャシーは、朝っぱらからシャロンの部屋に突撃したわけだ。

 もしもキャシーが夢を見ることなく、勇者カネミツが先にシャロンの部屋に訪問していたならば、もしかすると未来が変わっていたかもしれない。


『あの、えーっと……前に初めて会ったときにですね。シャロンさんが学園を出て行く夢をみた~って言ってましたよね?』


「あー、そうっすねー。今のまんまシャロンちゃん先輩に出て行かれたら、あーしら落第決定っすから!」


「落第はイヤあああぁぁ……」


 落ちこぼれ二人組が頭を抱える姿に、エレナまで頭を抱える始末。

 エレナの狙いは、初代魔王が魔女から譲り受けたネックレスをキャシーに装備してもらい、さらに先の未来を視ることだろう。

 だが、どうやってそこまで話を持って行くのかが問題なわけで……。


『えーっと、その……こちらのオーカさんのネックレスを……』


「へ、ネックレス? ……って、この子の顔まっかっかじゃないっすか!? 誰っすか、こんなちっちゃい子にお酒なんて飲ませたのは!!」


「アイスを一口食べただけなんだけどねえ」


「それは弱すぎっすね……」


「キャシーも人のこと言えないけどね。だって、新人歓迎会のとき――」


「それは言わないでほしいっす!」


 話が脇道にどんどん逸れてゆくぅぅ。

 ところが、後輩二人組のノリについて行けずエレナがアワアワと目を回す中、状況を打破するキーパーソンが現れた。


「あら、久しぶりね」


「!」


 俺達が視線を向けた先に居たのは、魔法学園が誇る天才魔法使いシャロンと、今や聖王都中央教会の最高権力者となった双子の妹コロンだった。


「あのっ、皆様お久しぶりですっ」


「うん、二人とも元気そうで何よりだよ」


 礼儀正しくぺこりと頭を下げるコロンを見て和んだのも束の間、シャロンは後輩二人組にジト目を向ける。


「……で、うちのバカコンビが何かやらかしたわけ?」


「違うっす! この子が真っ赤っかで! 酔って大変なんすよ!!」


 あまりにもあんまりすぎるキャシーの説明に、シャロンは疲れた様子でガクリと肩を落とす。


「はぁ。よくわかんないけど、その子がダウンしちゃってるみたいだし、コロンお願い」


「うん。……セイクリッド・アンチドート!」


 察しの良い二人は、酔い潰れたオーカをさっさと回復させることにしたようだ。

 コロンの両手から放たれた聖なる輝きが、オーカの頭上に降り注ぎ――


『ぎゃんっ!?』


 オーカが悲鳴を上げながら椅子から転がり落ちた。


「えええ、なんで!? なんでーーっ!? なーんでえええーーー!?」


『なるほど。オーカさんにとって神聖術はダメージ判定になっちゃうんですね』


「ひーん、大丈夫ですかああ~~っ!!」


 コロンは涙目になりながら半狂乱状態で、床に倒れたオーカに駆け寄る。

 それから必死に介抱するコロンを見て怪訝な顔をしていたシャロンが何かに気づいたのか、ハッと俺に顔を向けた。


「ちょっと! 神聖術がダメージって、この子が神と敵対してるってことじゃないの! どういうこと!?」


「あー……」

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