171-救いのないセカイ11後編
【聖王歴129年 白の月28日】
<暗黒の世界唯一の光 サイハテの街>
サイハテの街に滞在して三日目のこと。
シャロンが血相を変えて飛び込んできた。
「聖王都に帰りましょう!!」
何事かとカネミツが事情を聞いたところ、先の戦いでクラウディアに敗北したシャロンは自らを不甲斐なく思い、サイハテの街で魔法強化のためのヒントをずっと探していたらしい。
そんななか【自称・街一番の魔法使い】の老人から、こんな話を聞いたのだそうだ。
「ワシのひいひいばあさんはフランドルと言って、かつてプラテナ最強と言われた伝説の魔女でな。フランドルが数多く生み出した魔法の中に、唯一危険すぎて封印したモノがあると言い伝えられておる。その名は……禁断魔法ゴッドフレア」
「ッ!?」
ふつうに考えれば胡散臭すぎるホラ話としか思えないのだけども、実はフランドルは実在の人物であり、なんとシャロンがかつて通っていた魔法学校の創設者なのだそうだ。
シャロン曰く、母校であるエメラシティ魔法学校にはいくつかの伝承が残されており、その中に禁断魔法ゴッドフレアの名が出てくるらしい。
「あんなトコ、もう二度と戻りたくなかった。……けれど、きっと魔王に立ち向かうために必要になると思うの。今のままじゃ、きっと私は役立たずだから……」
「…………」
いつもツンケンしているシャロンが、珍しく弱々しい顔で肩を落としている。
それを見てカネミツはしばらく無言のまま迷った後、ふぅ……と小さく溜め息を吐いた。
「わかった。ライナス殿下もそろそろ帰還を考えているはずだし、僕達も一緒に同伴させてもらうようお願いしてみるよ」
「……ありがとう」
そんなわけで、真っ暗闇の世界から再びオサラバすることになったのであった。
明日からは再び野宿生活だ。
(中略)
【聖王歴129年 青の月2日】
<名も無き集落>
集落に戻った俺達は、多くの
死の洞窟の案内人達は常に死と隣り合わせではある。
だけど、それは大切な人を失って平気という意味なんかじゃない。
シエルの祖母が、孫娘の遺品を抱き締めながら泣き崩れる姿が目について離れない。
今日はもうこれ以上、日記を書きたくない。
・
・
ようやく気分が落ち着いたので、今日から久しぶりに日記を書こうと思う。
【聖王歴129年 青の月17日】
<魔法の都 エメラシティ>
聖王都に戻った俺達はライナス殿下と別れた後、すぐに馬車をチャーターしてエメラシティへと向かった。
目指すは魔法学校……だったのだが、既に除籍扱いとなっていたシャロンは
たとえ勇者の要望であっても、ゲストに対して機密文書の閲覧は認められないと突っぱねられてしまったのだ。
当然ながら、学生や教師達から煙たがられていたシャロンに協力してくれる者が現れるはずもなく……。
それにしても、こちとら世界平和のためにやってるのに「決まりですから」で蹴られるのは、なんだか釈然としねえなあ。
【同日深夜】
果たして、この話を日記に書いて良いものだろうか……。
どちらにせよ今日あった出来事は、今後ずっと隠し通さねばならないと思う。
真夜中にシャロンに叩き起こされた俺は、寝間着のまま連れ出され、向かった先は……魔法学校だった。
どうしてこんな夜更けに行くのかと理由を聞いても答えてくれず、黙って中央棟裏にある水路へと進んで行く。
しばらくして水路奥の行き止まりに到着すると、シャロンは何やら呪文を唱え始めた。
すると、二人の目の前に階段が現れたではないか!
「な、なんでこんなトコに隠し通路が……!?」
だけど、やっぱり質問には答えてもらえない。
ずんずんと奥へと進んでゆくと、異様に重厚かつ何重もの魔法結界に護られた扉の前へとやって来た。
扉に貼られたプレートに書かれている部屋の名は……宝物庫!!
「開けなさい」
「えっ、いやっ、えーっと……これ犯罪では?」
「……開けなさい」
「はい」
ウチにも凶暴な妹が居るけれど、シャロンのこれは全く別ベクトルな感じだ。
逆らえば容赦なく地獄の業火に焼かれそうな、そんな怖さがある。
俺はシャロンの脅迫に屈し、死の洞窟で覚えたばかりの新スキルを唱えた。
「アンロック・ゼンシュ」
扉に描かれた魔法陣へ上書きするように新たな術式が組まれ、内部に仕組まれているであろう回路が凄い勢いでカシャカシャと音を立てて動いてゆく。
それからカシャンと軽い音を立てて、扉がひとりでに開いた。
……どういう仕組みになっているかは分からないけれど、このスキルはあらゆるカギを破れるらしい。
シーフのこういう能力って、なんか悪党っぽくて嫌だなあ。
「……」
シャロンは開放された扉の向こうへと歩み出すと、宝石の付いた杖やら金銀財宝には一切目もくれず、乱雑に積まれた薄汚い書物を手に取って読み始めた。
見張りが来るんじゃないかと、俺は気が気じゃ無かったのだけども、間もなく「……っ!」とシャロンが息を呑んだ。
そして、一冊の書物を抱えて宝物庫の外へと駆け出した!
「ちょっ……!?」
なんで置いていくんだよッ!
とメチャクチャ叫びたい気持ちをぐっと抑えながら、暗闇に薄ら見える小さな背中をひたすら追いかける。
隠し通路を越えて魔法学校の敷地の外に出たシャロンは、魔法使いとは思えぬほどの速さで街の外へと駆け出していった。
「ちょ……待てっ……よ!」
ぜえぜえと息を切らしながら走り、ようやくシャロンに追いつけたのは街からずいぶんと離れた平原だった。
シャロンは真っ暗な空を両手で仰ぎながら、ブツブツと何かを呟いているけれど、それが魔法の詠唱であることは一目瞭然。
無論、なにを唱えようとしているのかなんて、言うまでもないだろう。
「……って、ここで撃つ気かッ! ウソだろ!?!?」
伝説の魔女が【危険すぎて封印した伝説の魔法】を、いきなりぶっつけ本番で試し撃ちって、いくらなんでもムチャ過ぎる!!
慌てて止めようとしたものの――
「ぐっはッ!」
手を伸ばした途端に、天地がひっくり返った。
地面に倒れた俺の目の前には天啓が浮かんでいる。
【危機感知】
強い魔力反応。さわるな危険。
詠唱中の周囲の魔力にすら攻撃判定があるとか、デタラメ過ぎる。
もう、何をやっても止めようが無いと察した俺は、地面に倒れたまま空を見上げた。
「ゴッドフレアーーーッ!!!」
シャロンがその名を叫んだ直後、そこに現れたのは天を貫く火柱……いや、そんなチンケなものでは無かった。
その衝撃は大地を砕き、空へと打ち上がった神の炎は遥か空の向こうで巨大な爆発となって、地上の全てを照らしたのだった……。
【聖王歴129年 青の月18日】
そりゃ、こんだけ派手にやれば騒ぎになるに決まってるよな。
街では「魔王軍がエメラシティを焼き払おうとした」だの「神の祝福で奇跡的に跳ね返した」だのと噂が飛び交っているけれど、その正体は言うまでも無くシャロンの撃ったゴッドフレアだ。
カネミツに問い詰められた俺は全てを白状し……それはそれは、もうこっぴどく叱られた。
俺はシャロンに脅迫されただけなのに……しくしく。
ところが、今回の一件は事情が事情なだけに、勇者特権をどんなに乱用しまくっても無罪放免は絶対ムリらしく、これが明るみに出れば魔王退治どころでは無くなってしまうのだそうで。
結局、カネミツの出した結論は……
「魔王を倒して世界に平和を取り戻してから、自首しよう」
と、胃の痛くなりそうな話で終いとなった。
……っていうかコレ、全責任を俺に押しつけたりしないよな!?
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