170-救いのないセカイ11前編
【聖王歴129年 白の月25日】
<暗闇の中に見つけた街>
シエルの死から数日後のこと。
闇の世界をマッピングしながら探索を続けていた俺達の目に飛び込んできたのは、まるで城塞のように巨大な石壁だった。
俺達は早速、門前に立っていた兵士に話しかけた……までは良かったのだが。
何やらお偉いさんがやって来て、ライナス殿下とあれこれ話していたかと思いきや、言われた言葉はなんと……
「今すぐ我らの街から出て行けッ!!」
結局、一歩も街に立ち入ることを許されぬまま、再び暗闇の平原に引き返すことに。
しばらくして、ライナス殿下は暗い表情で語り始めた。
「あの街で暮らしている人々は、死の洞窟を抜けた生存者達の子孫らしい」
「それがどうして、私達を追い出すことになるのですか?」
勇者カネミツの言葉を受けて、殿下の顔に影が落ちる。
「その元凶が、我らプラテナ王家にあるからだ。今でこそ平等となった我が国だが、かつては肌の色の違いだけで弾圧され、共に暮らせない時代もあったと聞く。不名誉な話だ」
「平等ですって? それを
「……そうだな」
あまりにも無礼が過ぎるシャロンの言葉にカネミツはギョッとした顔になるものの、ライナス殿下はそれを指摘することなく、表情を曇らせたまま頷いた。
もっとも、当のレネット本人はあまり気にしていないようだが。
「しかし、これからどうしたものか」
「もう一度、死の洞窟を越えて帰還するしかないのでは?」
「数日の内に
そんなわけで真っ暗闇のなか、大きな街の外で野宿……という虚しすぎる状況に、この日記を書いている今この時もお先真っ暗であった。
【聖王歴129年 白の月26日】
今日はなんと、宿屋で寝っ転がりながら日記を書いております!
ベッドというものがこれほど素晴らしいモノだとは!!
睡眠万歳! 寝具万歳!!
この世界の家具職人を称えたいッ!!!
閑話休題。
何があったのかを振り返ってみよう。
街の名を聞く間もなく追い出された俺達は、近くの平原に簡易的なベースキャンプをつくり周辺調査に勤しんでいたのだが、その最中に街の上空に巨大な魔法陣が出現した。
シャロンはその術式に見覚えがあったようで、それを見てハッとした顔で叫んだ。
「あれは
直後、視界の全てが眩い光で埋め尽くされた。
光の正体は雷光……街の中央に巨大な雷が落とされたのだ。
僅かな無音の後、時間差で大地を揺らすほどの轟音が響くと、さらに上空から高らかに女の声が聞こえてきた。
『ふははは! 我が名はクラウディア――魔王四天王、神雷のクラウディア様だッ!!』
セツナといいクラウディアといい、なんで魔王四天王は上空で高笑いするんだ???
脳裏に一瞬そんな言葉が過りつつも、第二、第三の落雷が街を蹂躙する様子を見て、すぐに気を取り直した俺達は急いで街へと向かった。
『ハッハッハ! さあ、我が力の前にひれ伏すが良い!!』
「そこまでだ!!!」
カネミツが大声で叫ぶや否や、クラウディアがセツナの吹雪よりもずっと冷たい眼差しでこちらを見下してきた。
『人間が三匹に……エルフだと? お前達、この街の者ではないな』
「俺は勇者カネミツ。正義の名の下に、命に代えてでも、民を……世界を護る!」
カネミツの言葉に、クラウディアは眉間にしわを寄せながら右手に魔力を籠めた。
『世界を護る……フン、若造が知ったような口を』
クラウディアはスタリと静かに音を立てながら地上へと降り立ち、こちらに真っ直ぐに手を向けて構えた。
『それでは我を倒し、その正義とやらを証明してみせよッ!!』
街の建物を瓦礫にしてしまう程の威力を持つ雷撃が放たれ、カネミツを襲う!
万事休すかと思ったその時、ライナス殿下の家臣の一人が目の前に防壁を展開し、雷撃は宙へと四散した。
戦いに割り込まれたクラウディアは、怒りの形相で彼らを睨みつける。
『邪魔をするなッ!!』
「我らも勇者様と志を同じくする者として、悪を断罪する!」
『我が悪か……ハハハッ!!』
【危機感知】
死亡リスク大 強い魔力反応
「皆、気をつけろ! コイツ何かやるつもりだ!!」
俺は皆に警戒するよう呼び掛ける。
すると、クラウディアの目線がこちらへと向いた。
『こちらの行動を先読みする能力か。先に貴様から始末してやろう』
「え……?」
思わず間抜けな声を漏らす俺。
だが、クラウディアの放った雷撃が身体を貫く直前、俺は火の玉に吹っ飛ばされて地面に転がった。
「うおああアチチチチ!?!?」
「なに呆けてんのよバカッ!!」
どうやら咄嗟にシャロンが俺にファイアボールを撃ってきたらしい。
助けてもらえたのはありがたいけど、服が焼け焦げるほど手加減ナシで撃たなくても良かったのでは……。
『なんと騒がしい虫ケラ共だ』
ますますクラウディアの怒りが増大してゆき、魔力を籠めた手がシャロンへと向きを変える。
『気が変わった。そこの小娘から殺してやる』
「フン、返り討ちにしてあげるわ」
強大な魔力のうねりに命の危険を感じたのか、戦いを見守っていた街の住民達は慌てて建物の中へと避難してゆく。
『ギガ・ボルテックス!!』
「フレアストーム!!」
二人の凄まじい魔法が真っ正面からぶつかり、互いの魔力の衝突によって巨大な爆発が発生。
視界を覆うほどの砂煙……その景色の向こうでシャロンが倒れていた。
「くっ……」
『人間の小娘にしてはなかなかやるではないか』
クラウディアは地面に倒れたシャロンの頭を踏みつけながら、右手を振り上げた。
『さらばだ、愚かな人間よ』
「やめろッ!!!」
カネミツの叫び声が響き、目の前で小さな命が尽きようとした――その時!
『デスブリンガーーーーッ!!!』
それは何かの呪文だろうか?
と、頭が理解するよりも前に、答えが目に飛び込んできた。
『な、なんだこれはッ!?』
クラウディアの左肩から、黒い
しかも
その矢を放ったのは……エルフのレネットだった。
『本当は魔王に使うつもりの切り札だったのだけどね。シャロンちゃんの命には代えられないもの』
『くっ! こんなモノで我を倒すことなど――』
だが、右手でそれを引き抜こうとしてもびくともしない。
それどころか、クラウディアの顔色がまるで死人のように青ざめてゆく。
『無駄よ。その矢は、我が故郷に伝わる一撃必殺の暗殺武器だから』
『なっ、必殺だと!? きっ、貴様ァ! 我が死ねば、この世界は――』
そこで言葉が途切れ、雷神のクラウディアはドサリと音を立てて地面に倒れた。
あまりにもあっさり過ぎる幕引きに、辺りは沈黙に包まれ……街中に歓声が上がった!
◇◇
その後、街の首長が俺達に礼の言葉を述べ、一方でライナス殿下はプラテナ王家の代表として過去の出来事を謝罪し、双方が和解することとなった。
しかも、魔王軍に立ち向かうという共通の目的を果たすべく、今後は聖王都から傭兵や騎士を派遣する約束もしたらしい。
人類の悲願である魔王討伐も、近いうちに果たせるかもしれない。
あ、ちなみに今更だけども、この街の名前は【サイハテの街】なのだそうだ。
「……」
そして戦いを終えて皆が身を休める中、シャロンはひとりで街へと向かってゆくのであった。
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