138-エルフ達の決心
『わっ、わっ?』
砕けた矢が床に落ちてくるのを慌てて避けつつ頭上を見上げると、ハルルが地上を見下ろしながらニヤリと笑みを浮かべていた。
……いや、ホントどこから見ても完全に悪役だよそれ。
『姉さん……!』
フルルが無表情ながらも動揺で声を少し震わせながら問いかけるものの、ハルルは妹に一瞬だけ目を向けて微笑むと、再び正面に向き直った。
『聞いてた話とずいぶん違って、なかなか好戦的じゃないっすか?』
ハルルがうっかり素で喋っちゃってるけれど、村長は気にすることなく対話を続けた。
『我らは、強大な力は争いの火種になると信じ、あえて弱者であり続けた……だが、その果てにあったのは平穏ではなく、村を襲う災厄を前に逃げ惑う皆の姿だったのだ』
『ほう?』
オイラは村が燃えている時のことを全然覚えていないのだけれど、カナタにーちゃんから聞いた話では、かなり酷かったそうで。
当初はイフリートの攻撃に対しエルフ達は無抵抗を徹底していたはずが、恐怖に耐えかねた者達がパニックになった挙げ句、いきなり魔法を乱射したり泣き出したりと散々な状況だったらしい。
『――争いを生むのは力ではなく、その力を欲望のままに暴走させてしまう弱い心だ。我らは強い力と強い心……その両方をもってして平穏を守る道を選んだ。未来を担う子供を犠牲にするような過ちを、もう二度と繰り返さぬために!!』
『!!』
村長の言葉にオイラとマールは顔を見合わせて驚く
けれど、ようやく皆の雰囲気が前までと違っていた理由がわかった。
イフリートの激しい炎を前に皆が逃げ惑う中、勇敢に立ち向かったカナタにーちゃん達の姿は、この村の皆に『本当に大切なコト』を伝えられたのだろう。
そして皆は一致団結し、再び災厄が降りかかっても戦う道を選んだ……。
『たとえこの村が極寒の地獄になろうとも、決して我らは屈せぬ! 必ずマールを――取り戻すッ!!』
それから『ウォオオオーーッ!!』と建物の周りから雄叫びのような歓声が上がり、顔を見合わせていたオイラとマールは、嬉しく思いつつもなんだか気恥ずかしくて笑ってしまった。
『なんだかスゴいね』
『大人達が色々やってるなーって思ってたけど、私もビックリだよ』
と、ふたりでそんな会話をしている最中、ついに今までずっと黙ってたサツキちゃんが動いた。
だけど何故か表情は不満げで、やれやれと首を横に振っている。
「全然ダメだね。ぜんぜんちっともサッパリ足りないよ」
『『へ?』』
いきなり何を言い出すのかと唖然としているオイラ達を尻目に、サツキちゃんはツカツカと歩き出して、入り口のドアをバンッと思いきり開いた。
歓声を上げていた大人達も、人間の女の子が怒り心頭で出てきたのだからビックリ。
サツキちゃんはそのまま村長に近づき~……胸ぐらを掴んだっ!?
『なっ、何をする小娘っ!?』
「ユピテルに謝るのが先じゃろがいっ!!!!!!!!」
『っっっ!!』
「さっきから聞いてりゃ強い力だの強い心だの言ってたけど、それを有言実行するってんなら、先にやることやるってのがスジってもんでしょうがッ!!!」
『もっ、申し訳な……』
「あたしに謝ってどうすんのさっ!!! こっち来て謝らんかいっ!!!」
『ひっ、ひいいっ!』
そして村長をはじめ、村のお偉いさんやらがオイラの前にやって来てひたすら謝罪の言葉を述べる……けど、そこに向かってサツキちゃんが「声が小さい!!」「心がこもってないっ!!」などとクレームを連発。
な、なにこれえ???
『す、すごいっ……!』
オイラがドン引きしている横で、何故かマールは尊敬の眼差しでサツキちゃんを見つめてるし、ホント意味わかんない。
『なんか思ってたのと違うトコに着地したっすね~』
『だが……それがいい』
頭の上の方で妖精姉妹はのんきに飛んでるけど、そもそも事の発端は君らじゃん!
なんて思っていたそのとき――
「我らプラテナ騎士団! いざエルフの民を助けに参ったッ!!!」
『!?!?!?』
サツキちゃんの叱咤に戦々恐々としている中、唐突に現れた人間達の姿に村の皆は騒然。
プラテナ騎士団ということは、聖王都から来たっぽいけども……。
「
「加勢しますぞっ!!!」
「救護班も居ますよーっ!!」
人間達が何を言っているのかよく分からないけれど、どうやらエルフ達を助けに来たような口ぶりだ。
突然すぎる状況に皆が唖然としている中、人間達の中で一際豪華な鎧を身につけていた男性がこちらに駆け寄り、話しかけてきた。
「お前達も居たのだな!」
「あっ、プリシアちゃんのおにーさんっ」
『いや、ちゃんとライナス様って名前で呼ぼうよ……』
そう、オイラ達の目の前に現れたのはプラテナ国のライナス殿下その人。
魔力がびんびん感じる金ピカの剣とか、メチャクチャ魔法耐性の強そうな鎧を着ていたりと、その格好は完全に戦いに赴く騎士のそれだった。
「だけどどうしてエルフ村に? ていうか、エルフ村に入って大丈夫なの???」
「確かに、本来ならばエルフの民に干渉すべきではない。……だが、強大な魔力を持つ化け物に襲われた村を、種族が違うなどと言う些細な理由で放っておけるものか。種族の垣根を越え、我らは力を合わせ魔を討つ!!」
「強大な魔力を持つ化け物って……何が?」
キョトンと首を傾げるサツキちゃんを見て、ライナス殿下も不思議そうにしている。
「いや、森全体を包むほどの凄まじい豪雪が見えたのだが、これは攻撃魔法だろう……?」
「それ撃ったのは、あそこにいる子だよ? しかも威嚇射撃だし」
殿下がサツキちゃんの指差す先へ目を向けると、眠そうな顔でフルルがふわふわと飛んでいた。
『やあ……僕は強大な魔力を持つ化け物だー……なんちゃって』
「…………」
フルルののんきなセリフを聞いて、ライナス殿下はその場に膝から崩れ落ちた。
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