095-王子の思う「真の強さ」とは
【聖王歴128年 赤の月 7日】
<ジェダイト帝国 城下の都 宿屋>
俺がかつて見た見た世界であれば、この日は朝からライカ王子の部屋に訪問するや否や、いきなり影縫いをくらって逃げられてしまうはずだった。
そうなるはずだったのだが……
『先生、おはようございますっ!』
「あ、うん。おはようございます」
俺達が迎えに行くどころか、ライカ王子が自ら宿屋に来ちゃったよ!
それに、非常~~に気になることがもう一点。
「ところで、その……先生ってどういうことです?」
『わたしは貴方様のような"真の強者"になりたいのですっ。是非、先生と呼ばせて頂ければ幸いです!』
「はあ」
キラキラと目を輝かせながら宣言するライカ王子のシッポが、すっごいパタパタと動いている。
ああ、実家の近所の
「うーん、真の強者ってのがよく分からないんですが……とりあえず手合わせでもしてみます?」
『是非ともお願いします! ……あっ、それと、わたしは貴方様へ教えを請う立場ですので、敬語でなくても結構ですよっ!』
「だってよおにーちゃん! それじゃあたしもこれからはタメ語で話すから、よろしくねライカちゃん♪」
『あっ、はいっ!』
「いやいやいや、おめーはちゃんと敬語で話せよっ!!」
ていうか、王子様相手に「ライカちゃん」って、敬うとかいう以前の問題だよね!?
コイツいつか本当に不敬で捕まっちまうんじゃないかとハラハラするよ……。
【同日夕刻】
<ジェダイト帝国 修練所>
『ありがとう、ございました……はぅー』
「あ、うん。お疲れ様」
ライカ王子の実力を測るため、訓練用の木製ナイフで挑んできてもらったのだけど、さすが「力こそ正義」というモットーを掲げる国の王族だけあって、その実力はなかなかのものだった。
明らかに素人の動きではなかったし、きっとディノシス皇帝陛下がライカ王子に強くなってもらうため、様々な手を尽くしてきたんだろうなあというのが伝わってくる。
しかし所々気になる点はあり、それを客観的に判断してもらう目的でエレナにも一部始終を見てもらっていたわけだが……。
「エレナ、王子の能力に変化はある?」
『うーん……。圧倒的に格上であるカナタさんとの模擬戦のおかげか、かなりレベルは上昇していますね。ただ……』
「ただ?」
『本質的に戦闘があまり得意ではなさそうな感じがします。獣人族としての身体能力の補正はあるのですが、それを生かしきれていない様子です』
確かにライカ王子と模擬戦を数回やったものの、レパードのような雄々しさは全く感じられなかった。
俺に対して遠慮をしている様子は無かったものの、エレナの言っていることはなんとなく分かる気がする。
『やはり精霊様もそう思われるのですね。父上にも同様の事を言われたものの、自分ではよくわからなくて……』
その返事を聞いて、俺は日記にも記していた一つの疑問を問いかけてみた。
「あのさ。王族だったら神殿に寄付金を渡して転職すればウィザードや召喚士になれるし、それなら近接戦闘が苦手でも強くなれると思うのだけど、シーフに何かこだわりでもあるの?」
だが、俺の答えに対してライカ王子は少し寂しげに答えた。
『先生の言う通りだと思いますし、わたしも決してシーフという天職を好んでいるわけではありません。ですが、権力者が金の力にモノを言わせ、都合の良い天職を引き当てるようなやり方をしてまで力を誇示し、国を治める……そんなやり方で良いのか疑問なのです』
「ズルしたくないってことかな」
サツキの言葉に対しライカ王子は頷くと、何かを決心した様子で語り始めた。
『わたしも以前までは他の者達の言うように、力こそ全てと思っていました。ですが、数年前に我が国の牢獄を視察した際に不思議な話を聞き、それ以来ずっと真の強さとは何なのかが分からずに居るのです』
「不思議な話……?」
『その囚人曰く、かつて我が国には"最弱の獣人"が居たらしいのです。彼がそう呼ばれた理由は至って単純で、他者へ危害を加えられない病だったとか』
……どこかで聞いたことある話だな。
『ですが、その獣人が他国へ移住したのちプリーストとしてめきめきと頭角を現し、とても立派に大成したと彼は語っていました。たとえ最弱と呼ばれようとも、世の価値観や力の使い方によっては最強になり得る……わたしはその可能性に強く心を打たれました』
「最弱の獣人、他者へ危害を加えられない。他国へ移住、プリースト、大成……あっ!」
俺の頭に一人の聖職者の姿がよぎった。
聖王都中央教会において大司祭の座まで登り詰めた後、志半ばに倒れた恩師の恨みを晴らすべく世界を滅ぼそうとしたあの男を……。
「ツヴァイ……?」
思わず俺がその名を呟くと、ライカ王子は驚いた様子で目を見開いた。
『その方ですっ! なんと、先生はご存知だったのですね』
「ああ、ツヴァイは聖王都プラテナにある中央教会という組織の元・大司祭、つまり前任のトップだった人だよ」
『すごい!!』
ライカ王子は嬉しそうにしているものの、当のツヴァイ本人はジェダイト帝国に「不要」として捨てられた挙げ句、恩師であるアインツを殺された恨みで狂ってしまったわけで。
その事実を告げるのはなんだか気が引けてしまう……。
俺が次の言葉に困っていると、サツキがふと疑問を口にした。
「ところでライカ王子にそれを教えてくれた囚人さんって、なんでそれを知ってるの? ツヴァイって人、確か獣人であることを隠してたんじゃなかったっけ?」
「あっ、そういえば!」
俺達はグレーターデーモン召喚事件によって彼の素性を知ることになったけれど、ツヴァイは聖王都に来てからずっと自身が獣人である事を隠していたはず。
つまり、ライカ王子が話した囚人は「ツヴァイが獣人であること」と「聖王都中央教会でプリーストになった」という二つの事実を知る人物であるという事になる。
……ま、まさかっ!?
「その囚人の名前は覚えているか?」
俺の問いかけに対しライカ王子は頷くと、その名を口にした。
『アインツ……彼は自らをそう名乗っていました』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます