094-追跡!追跡!先回り!

【聖王歴128年 赤の月 6日】


 そんなこんなで、皇帝陛下から直々の命を受けて「ライカ王子を鍛えよう大作戦 (※作戦名の発案者は例に漏れずサツキだよ!)」が始まった。

 かつて俺の見た世界では初日から王子は街に逃亡しており、今回も同様に部屋はもぬけの殻だったのだが――


「あっ! 王子様みーつけたっ!」


『わあっ!?』


 見事に雑貨店でターゲットを発見!

 ……ていうか、王子様が普通に雑貨店をぶらついてるとか、どうなってんだこの国。


『ど、どうしてわたしの居場所がわかったのですかっ!?』


「フッ、あたしの推理力から君の行く場所なんてお見通しさ!」


 推理力もなにも、サツキは単に俺の日記を読んだだけである。

 だが、ライカ王子としては「自分を泣かしたヤバイ奴が追いかけてくる」という状況に気が気でないらしく、手に持っていた可愛らしい小物を棚に戻すと、慌てて店から逃げていった。


「おーっと、逃がさないぜっ! 待てぇ~~っ!!」


『えーーんっ、たすけてぇーーっ!』


 サツキは目を輝かせながら、ハルルとフルルを引き連れて王子を追いかけていってしまった。

 あの様子だと、たとえ王子がどれだけ遠くに逃げたとしても的確に自動追尾ホーミングし続けるであろう。

 

『カナタにーちゃん。これ大丈夫なの?』


「もうどうにでもなーれー」



 その後――



<衣服店>


「やっほ~っ」


『うわあっ!?』



<花屋>


「ここ、品揃え良くてイイネ!」


『な、なんでここにっ!?』



<弁当店>


「うむ、なかなかヘルシーかつ美味だね」


『わーんっ! 先回りされてるぅぅぅーーっ!』



◇◇



『シクシクシクシク……』


 再び雑貨店でライカ王子を発見して今に至る。

 ……というか、王子の行動範囲がワンパターン過ぎる気がするなぁ。

 やっぱり獣人だけあって、マーキングした範囲を好んで行動する傾向があるのであろうか。

 いや、なにか他の獣と比べたってわけではないのだけども。


「別に取って食おうってわけじゃないんだから、逃げなくてもいいじゃんねー? うっへっへー」


『ひぃぃーっ!』


 手をワキワキさせながら近づくサツキを見て、王子は尻尾を丸めて震えている。


「つーか、行く先々で突撃されたら、そりゃ怖いに決まってるだろがっ!」


「あいたっ」


「すみません王子。あとでちゃんと叱っておきますんで……」


 俺がサツキにチョップしつつ平謝りしながらライカ王子に声をかけると、何故か王子はハッとした顔で見つめてきた。

 その表情になんだか既視感があるなぁ……と思ったけど、それが何なのかはすぐに分かった。

 実家の近所にいた、やたら俺ばっか懐いてたわんこと同じだ。


『あ、あなたはこの子を従えているのですかっ!?』


 どうやら今のチョップ一発によって、王子の中で『サツキ<俺』という順位付けになったらしい。


「いや、コイツは俺の妹なんです。本当、怖がらせてしまってすみません……」


『な、なるほど、貴方がお兄様だったのですね。それにその姿……もしや貴方様はシーフ職なのですか?』


 ライカ王子の問いかけに対し俺が答えようとすると――


「へっへーんっ。なんたって、おにーちゃんは君んとこのレパードさんっていう、スタイリッシュな感じのオジサマを倒したんだぜっ!」


『!!?』


 なぜかサツキが割り込んできて代弁してしまった。

 レパードを「スタイリッシュな感じのオジサマ」と表現しているのがいささか気になるものの、ライカ王子はサツキの「兄貴自慢」を聞いて驚愕の表情を浮かべた。

 さらにエレナの姿を見るや、またまたハッとした顔になった。


『しかも、貴方様のお隣に居られる美しい女性からは、人族とは違う雰囲気がします……まっ、まさかあなたはっ……!!』


 いきなり振られてエレナがアワアワしていると、再びサツキが代弁!


「このお方をどなたと心得る! 魔王に送り込まれた刺客すら一撃で葬り去る程の魔法を操る水の精霊エレナ様なるぞ! ちなみに、おにーちゃんのモノだよっ!」


『殺してませんから誤解されるようなこと言わないでくださいっ!! ……でもまあ、私がカナタさんのモノってのはホントですけどね~』


 エレナが余計な一言を付け足した結果「サツキ<エレナ<俺」という順序が確立し、さらにイメージがややこしい感じになってしまった!


『な、なんと! 貴方様は精霊を使役しているのですかっ……!?』


「ま、まあ一応そういうことになりますかね……」


 すると、ライカ王子が目を輝かせながら俺に飛びついてきたっ!


『貴方様こそ、わたしの理想ですーっ!!』


「はいぃーー!?」


 だが俺は、キラキラと目を輝かせるライカ王子の表情に既視感があった。

 これはあれだ、実家の近所のわんこさんと同じ以下略。


『わたしと同じシーフでありながら剣豪レパードを倒したうえ、水の精霊を使役。それにも関わらず力を誇示しない謙虚さ。全て素晴らしいです!』


『そのとーーりっ!!』


 エレナが突撃してきたーーっ!?


『カナタさんっ! この王子様すごく見る目ありますよっ! そうです、素晴らしいですよねっ!! ねっ! ねっ!!』


 エレナまで王子に同調し、鼻息荒く熱弁を始めてしまった。

 あのー、俺の知っている流れと全然違うんですけど???


『うひひ、これは面白そうなコトになってきたっすね。こういう展開、嫌いじゃないっす』


『従順なわんわんお……。宗教……つくっちゃう?』


「ホント勘弁して……」

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