087-妖精都市フェアリーアリア

<妖精都市 フェアリーアリア>


「すごーいっ!」


 森を抜けると、そこにあったのはハルルとフルルが暮らしていた神殿にそっくりな建物がたくさん並ぶ都だった。

 しかも街を行く人達の背中にはデッカイ羽があるときたっ!

 つまり、この都に暮らしている人が全て妖精であるという意味であり、あたし的にはまるで絵本の世界にやってきたみたいでテンションMAX!!

 ……と言いたいところなのだけど、あたし達を眺めている人々の表情は何故だかとても不安そうだ。


「なんかメッチャ見られてるね」


『それは当然だ。我が国の厳重な警備を一日に二度も突破されたのだからな』


 おねーさんの言葉に、フルルははてと首を傾げる。


『この国は……警備を厳重にしなければならない程に……危機ということ?』


『縁起でも無いことを言うなっ! 我が国は遙か昔に魔王軍の侵略により壊滅的な被害を受けたものの、魔王が倒され世界が平和になった後に世界最大の防衛国家にまで成長したのだ。二度と侵略などされてなるものか!』


「魔王が倒された!!?」


 まさか、おにーちゃんが二年前に戻ったみたいに、あたし達も何年も先の世界に来てしまったのだろうか!


「お、おねーさんっ! 魔王が倒されたのは聖王歴何年くらいの話っ!!!」


『な、何をいきなり訳の分からん事を……! というか、そのセイオウレキというのは何だ? お前達の種族が独自に使っている暦で言われても知らんぞ』


「えー……」


 妖精の国では違う暦を使っているのかなあ?

 でも、おにーちゃんは「聖王歴は世界中で共通」って言ってたんだけどなー。


『やっぱり……間違いない』


 あたしの横で、同じように手を縛られながら歩いていたフルルが、右手をじっと見つめていた。


「何してるの?」


『マナを捕捉出来ない……僕達の世界とは……仕組みが違う。彼女の言う魔王は……たぶん僕らが思ってるのとは……別モノ』


「???」


 マナ? 仕組み? よく分からないや。


『詳しくは……後で言う』


 フルルはそう言うと、無表情のまま少し緊張した様子でまっすぐに前を見つめていた。



<フェアリーアリア 茨の牢獄>



『ヴォアアアアアアーーーッ!!! フルルぅ!!! フルルぅぅぅーーー!!!』


『ええい! 他の囚人共の迷惑になるだろうがっ! 騒ぐのをやめんかっ!!』


『森の中で独り泣いてるかもしれねえんすぅぅぅー!!! 捜してぇー!!! 捜してくれぇーーーっ!!!』


「……」


『……』


 いや、もう見なくても状況がわかっちゃうよねコレ……。

 あたし達を連行しているおねーさんも、奥から聞こえてくる叫びにドン引きしている様子だ。


『と、とりあえず行こうか……』


 どうにか気を取り直し、おねーさんと共に奥の牢屋の前に来ると――


『……っ!!!』


 ハルルがこちらを見てクワッと目を見開いた。

 ずっと泣き続けていたせいか、まるでウサギのように真っ赤に目を充血させており、それを見たフルルはぼそりと『怖っ……』と呟いた。

 そしてハルルの後ろには、ユピテルが両手で長い耳を押さえたままグッタリと横たわっており、最前線で騒音ハルルの叫びと戦い続けていたことを物語っている。


『姉さん……無事で良かった』


『あ、ああああああ……ああああああああああああーーーッ!!!』


 フルルの姿を見て安心したのか、ハルルは床に伏せておいおいと泣き出した。

 そんなハルルの姿を見ながら、ユピテルがよれよれとコチラを見上げる。


『サツキちゃん……来てくれて良かった』


 ユピテルが言っているのはたぶん、会えて良かったという意味ではなく『ハルルを黙らせてくれて良かった』という意味であろう……。


「ああ、うん、お疲れさま……」


 あたしの心の中は再会の喜びよりも、ユピテルを労ってあげたい気持ちでいっぱいだった。





 それから四人は一緒の牢へと入れられ、今に至る……というわけである。


「で、さっきフルルがマナがどうとか、世界の仕組みが違うとか言ってたけど、どういう意味なの?」


『単刀直入に言うと……ここは僕達の知る世界とは違う……全くの別世界』


「別世界って何???」


 あたしがそう問いかけると、フルルは牢の中にあったハルルとユピテルの食事皿を二つ並べた。


『この左の皿が……僕達の元居た場所。そして僕達が今いるのは……この右の皿。似ているけれど……繋がりは無い』


「ってことは……」


『フルルの空間転移を使っても帰られないっす。というより、空間転移に必要な魔力をこっちまで引っ張ってこれないんすよ』


 どうやら何か魔法を使おうとしているみたいだけど、さっきのフルルと同じように、ハルルが右手を振り上げて力を入れても、うんともすんとも言わない。


「ってことは……?」


『詰んだね……ゲームオーバー。不法入国の罪が重ければ……もう出られないかも』


 なんてこったい。

 これまで多くの危機を乗り越えてきたあたし達が、まさかこんな……!


「ええいっ! そんかバカな話あるもんかっ!! ここで都合よく空間転移の研究をしてる天才魔法使いとかが登場するのがお決まりでしょーが!!」


『サツキちゃんったら、また何を訳の分からない事を――』




『それはワタシの事かねっ!!』




『……』


 いきなり向かいの牢で寝っ転がっていたオジサン妖精がバッと起き上がり、格子越しに声をかけてきた。


「マジで……?」


『いかにも! ワタシこそが空間転移研究のパイオニアであーーる!!』


 だけどこのオジサン。

 妖精とは名ばかりの「背中の羽が無ければどこをどう見ても単なる不審者」だ。

 いや、羽があっても不審者にしか見えない。

 特に『であーーる!!』って言い方とか。


「ざんねん! わたしのぼうけんは ここでおわってしまった!」


『何故だ亜人の少女よっ!? ええい、せめて話だけでもさせてくれえ!!』

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