086-見知らぬ森のトリッパー
『……きて……起きて……』
「ん~に~、もう食べられないよぅ、むにゃむにゃ」
『スゴイ……寝言でそれ言う人……初めて見た』
「ん~???」
あたしは寝ぼけまなこを擦りながら目を開けて――
「……」
『……?』
「えーっと……どちら様?」
起き上がったあたしの目の前に居たのは、少し眠そうな目をした大人の女性。
肌はまるで雪のように白く、エレナさんとはまた違った感じにエキゾチックな雰囲気の美人さんである。
ただし服装は妙にヒラヒラだし、背中にキラキラ光る羽まで付いていて、どこをどう見ても人間ではなさそうだ。
『なるほどね……それじゃあ問題です……僕は誰でしょう?』
「……あー」
見た目は全然違うけど、口調と声色で一発でわかった。
「フルル、なんででっかくなってんの?」
『うーん……どちらかというと……これが元の姿かな』
いつものちっちゃい感じの面影はあるものの、あたしよりも背が高いのはやっぱり不思議な感じだ。
いやそれよりも、身体が大きくなった以上に凄いインパクトを放つ「特定部位」の印象が強すぎる。
ジーー……。
『なんで胸元を凝視……してるの?』
「いや、なんというか。こう、規格外だな~~って」
『規格外……?』
当人に自覚は無さそうではあるが、フルルの真の姿はなかなかの秘密兵器を装備していた。
もう、ドーンとかバーンとしか表現しようのない"ソレ"は、あたしの成長期がここから奇跡の伸び率を記録したとしても、到達できるとは思えぬ未知の領域である。
「もしユピテルがフルルを見て鼻の下伸ばしたら、思いっきりバカにしてやろっと♪」
『???』
まあ、エルフの村にいた女性は細身ばっかりだったし、もしかすると人間とは違う価値観かもしれないんだけどね。
「で、ハルルとユピテルは?」
『わからない……気づいたら二人きり』
「そっかー」
改めて周囲を見ると、光に包まれる前と同じような森の中だ。
だけど、何というか「匂い」が違う感じがする。
言葉にするのは難しいのだけど、ここがハジメ村近くの森ではない事は直感的に分かる。
『とりあえず……探索してみよう』
「賛成~っ」
てなわけで、あたしはフルルを先頭に歩き始めた。
太陽が真上にあるので今の時間はお昼だとは思うのだけど、木々が生い茂る森の中は薄暗く、どことなく不気味な雰囲気である。
「フルルはどっちに向かってるか分かってて歩いてるの?」
『とりあえず……微弱な魔力があっちにある……集落があるかも』
うーん、妖精さんってのはホント便利だな~。
『だけど……僕が消えた後に……姉さん達も追いかけてきてくれたんだね』
「そりゃ行くに決まってるって。ハルルったら、全く迷うそぶりすら見せずに真っ直ぐ突っ込もうとしたもん」
『……そっかあ……ふふ』
あたしの位置からはフルルの顔は見えないけれど、きっと無表情であろう。
だけど、その内心はきっと嬉しさでいっぱいなのは間違いない。
……と、そんな事を思いながら歩いていると突然フルルが立ち止まり、背中の羽にゴチンと鼻をぶつけた。
透けて見えるから柔らかいのかと思ってたれど、思ったよりもずっと硬かったよぅ。
「いたたた……、いきなりどしたの?」
『……囲まれてる』
「えっ――?」
『動くな侵入者ッ!!!』
あたし達に向けた威嚇の声が辺りに響く!
そちらに目線を向けると、そこに居たのは黒髪ポニーテールのおねーさんだった。
しかも右手にはレイピアが握られ、その刃先はまっすぐにあたし達へ向けられている。
「これは歓迎ムード……じゃないよねえ、どう見ても」
『一触即発……バリバリ警戒心だね』
さらに、おねーさんの後ろにも剣を持った男が三人いるのだけど、明らかにおねーさんだけが綺麗な装飾付きの服装なので、身分の高いおねーさんと三人の従者といった関係だろうか。
それよりも気になったのは……
『む、その羽……! お前も同族か?』
なんと、目の前の四人全員の背中にも大きな羽があった。
と言っても、フルルの氷のような澄んだ透明とは違い、おねーさん達の背中にあるそれはチョウチョっぽい白濁色だ。
見た目は結構違うものの、種族的にはこの人達も妖精なのだろうか?
『僕は氷の妖精フルル……そしてこの子は人族のサツキ。君達に危害を加えるつもりはない……森から出るまで……案内してもらえないだろうか?』
フルルが無表情ながら必死に懇願するものの、おねーさんや後ろの家来達は困惑した顔で首を傾げた。
『何を言っている。ここは我が国の国境を越え、さらに都を越えた先にある森だ。この先に行っても岩山しか無いのだから、森を出るとはつまり都に戻ると言うことだぞ?』
「つまり……?」
『不法入国の罪で、お前達を連行する』
「え~~……あたし達、気づいたらココに居たんだけどなぁ」
あたしの呟きに対し、おねーさんはやれやれといった様子でため息を吐いた。
『ここまで侵入しておいて、知らぬ存ぜぬが通じるわけ無いだろう』
そんなことを言われても、実際ここに飛んで来ちゃったのだから仕方ない。
まあ、この様子では「光に包まれて、気づいたらここにいたんだよっ!」なんて正直に言っても信じてくれなさそうだけど。
『……それにしても、さっき捕らえた二人組も似たような事をほざいていたし、今日は一体なんなんだ?』
『「っ!」』
もしかして!!
「おねーさんっ! それ、フルルをもっと元気そうにした感じにした女の人と、妙にビクビクしてる人畜無害そうな男の子だった!?」
『その人畜無害そうとかいうのは意味不明だが、確かにこの女に似たヤツと少年の二人組ではあったな。ということは、やっぱりお前達も関係者だったのか!』
やった!
つまり、このおねーさんについて行けば二人と合流できるってことだ!
「うんうん知り合い知り合いっ。ちゃっちゃ連れってくださいましまし! マシマシでっ!」
『一体なんなんだお前は……!?』
困り顔であたしとフルルの両手を拘束したおねーさんは、疲れた様子で都に向かって森を出発したのであった。
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