第8話 第七話 I am scatman 〜その②〜
ビルの奥、暗闇の中で一真は口と右の胸、右手足から血を吹き出し地面に倒れた。
それを見下ろす男はただ落ちていた刀を拾い上げると力強く一真に振り下ろす。
「ぐっ……!おぁぁ!!」
一真は力を振り絞り起き上がると振り下ろされる刀を身を引いて避ける。
獲物を見失った刀はそのまま地面に金属音を響かせる。
「手足と胸部を撃ち抜かれたのにまだ避けれるんだ!すごいなぁ君!傷の治りも物凄い『速い』ねぇ……。普通はこんな速く無いんだけどなぁ〜〜。あ、分かった!それも君の…えーとなんだっけ………そうそう!スーパーソニックだっけ?それの能力なのかな?」
一真の体に空いていた穴が少しづつ小さくなっていくのを見て男は目を丸くし、興味津々な様子で一真に聞く。
「はぁ…ガフッ……!ゲホッ!ゲホッ!屑に教える義理はねぇよ……!お前に教えるのは…お前がどれだけ罪深いことをしてきたかってことだけだぜ!」
一真はそう言うと男に向かって走り出そうと立ち上がろうとする。しかし————————————————————
ドス!
「がっ…!」
一真の腹部を弾丸が貫く。
(くそっ…!敵は複数いると思っていたが違う!これは…奴の能力だ…!『scatman(スキャットマン)』…弾丸を打ってくるのが奴の能力…!)
一真は血が溢れ出てくる腹部を抑え考えた。
「屑だなんて酷いこと言うね……。俺はちゃんと抑えられない趣味だから人を殺せざるを得ないって理由も説明してるって言うのに…。」
男が困った顔で一真を見てそう言うと一真は立ち上がり男に向かって構えた。
「お前にはそれが理由に思えるんだろうな……少なくとも俺にはそんなの理由にならねぇ…!」
「ふーん……まぁ考えは人それぞれだもんね。」
男も刀を構えると目を輝かせながら一真へと走り出す。
「『超音速(スーパーソニック)』!」
一真がそう叫ぶと一真の体は少しだけ筋肉質になり、男をはるかに上回る速さで男に近づいた。
「……!やっぱり君速いね!」
男は一真に刀を振り下ろすが、一真はそれを避け男の懐に回り込み蹴りを入れようとする。
「お前の攻撃は見切っている!食らいやがれ!」
しかし一真は男ではなく自身の周囲に注目した。
(奴の能力が弾丸を打ち込んでくる能力なら…!見極めるべきなのは奴からの攻撃じゃない!
そう一真が意を決したその時。——————————
ドス!
ドス!
一真の正面、
「なっ…に……!!」
一真は予想外な方向からの攻撃に驚愕し動きを止め体勢を崩す。
そこを男は見逃さず一真の方を向き直すと刀を一真の腹部に向かって流れるように振り上げた。
「ところで君さ!俺や君みたいな力を持ってる人ってどんな断面なんだと思う?普通の断面かな?それとも特別な断面?参考に見せてくれよ!」
「くっ……!」
ついに一真の横腹に刃が少しだけ入りこ込んだその時、一真は体勢が崩れた事を利用し、『超音速(スーパーソニック)』を発動してそのまま後方に片足で飛び避けると尻餅をつく。
男はすかさず上から下へ刀を振り下ろすが、一真は後転してこれも避け一旦距離を置いた。
「うーん……しっかし当てれないなぁ……。君の……スーパーソニックでタイミングずらさせられるからうまく当たんないや…。」
男は子供のように悔しがりながら刀についた一真の腹部を切り裂いて出た血を払おうと刀を振りまわす。すると——————————
「……あれ……?刀が……
刀は物凄い速さで赤色に変色し錆び崩れていく。
「『超音速(スーパーソニック)』…!!
一真は少しだけ裂けてしまった腹部を抑え激痛に顔を歪めながらも微笑する。
「あー…勿体無い……。いい刀だったのになぁ…。ま、いいけど。」
男は至極残念したかと思うとあっさりとボロボロになった刀を放り投げる。
一真はその様子を見ながら立ち上がり別の事を考えていた。
(遠くからなんらかの方法で弾丸を撃ってきていると思っていた俺の考えが甘かった……奴の方から弾丸が飛んできということは…弾丸は遠くから撃たれて飛んできたのではなく……
一真は男が弾丸をどうやって撃ち込んできているかを理解すると同時に別の疑問が頭を過ぎった。
(だとしたら…いや…だとしなくてもおかしい……一度に二発撃ってきたとなると奴は連続で弾丸を撃てる筈だ…なのに何故立て続けに撃ってない………。)
一真がそう考えいると男は一真に向かって走り出す。
「じゃ、そろそろ俺も肉弾戦しようかな。正々堂々戦わないのは人として恥ずべきことだからな!」
男はそういうと拳を振りかぶる。
(まさか……連続で撃たないのではなく、
一真は様子を見るために今度は避けず攻撃を防御しようとする。しかし——————————
「ぐっ……!?こ、これは…!?」
男は拳を放ったと思いきや拳を開き、
「うぐぁぁぁぁぁ!!さっき錆びてボロボロになった刀の屑を持っていたのか!!く、くそ…!」
一真は激痛に耐えながら入ってしまった錆をできるだけ優しく払おうとする。——————————
ドス!
ドス!
ドス!
ドス!
「グボァ…!?こ、今度は…何発も……!」
一真に今までにないほどの数の弾丸を受け口から大量に血を吐き出す。
一真は地面に倒れ込もうとするが男の拳が一真の顔面に直撃し、一真は空中へと飛んで行く。すると空中に飛ぶ一真にまたしても何発もの弾丸が撃ち込まれ、一真はそのまま地面に血を身体中から噴き出しながら落ちて行った。
「う…ぐ……。」
(か、考えるんだ……共通点を…!一体何が引き金なんだ……!)
一真は起き上がろうとするが、大量に血が流れてしまって地面に手をつくだけでもやっとである。
しかし、無慈悲にも弾丸は再び何発も一真の体に撃ち込まれ、一真はその場に倒れた。
「グハッ……!」
なんとか錆が目から全て落ち視界が晴れると一真は周りの地面が自分の血で染まっているのを見て気絶しそうになる。一真は次の弾丸が撃ち込まれると思って身構えるが攻撃は来ない。
(まただ…いきなり弾丸が撃ち込まれなくなった…。やはり何かが引き金になっている…しかし…わ、わからない……。)
そう考えてるうちに目の前の男は手から血を払うと一真に歩みを進めた。
(か…勝てない……お…俺に……勝機はあるのか……。)
男の攻撃によって意識が切れかけたことによりいつのまにか『超音速(スーパーソニック)』を解除していた一真の視界はだんだん暗くなっていく。
(く…くそ……意識が…遠のいでいく……視界もだんだん暗くなって……………………………………………………………。)
すると一真は、男との戦いの最中で起きていたあることを思い出した。
(………暗くなる…………?…暗闇……視界が真っ暗になる…目を閉じる……待てよ……いや……あった…一つだ………
「ガフッ……!…はぁ…はぁ……『超(スーパー)……音速(ソニック)』!!」
一真は瞳に光を取り戻すと、エネルギーを再び身に纏い傷の修復の速度を上昇させ、身体中の傷を少しずつ癒し、出血多量でフラフラになりながらも立ち上がった。
「……!!おお!やっぱりすごいな君は!まだ立ち上がれるのか!でもさぁ…そろそろ死んでくれないかな…諦めが悪いのって俺嫌いなんだよね……。」
男は一旦立ち止まり感心したかと思うと、一真に少しだけ苛立ちを覚えたように話した。そして姿勢を低くすると一真に向かって全速力で駆け抜け、またしても一真に向かって拳を振りかぶり先程と同様に手に握っていた錆びた鉄屑を手を開き一真の目に向かって投げつける。
「もう…その鉄屑の目くらましは…食らわねぇぞ!」
男の手の中から錆びた鉄屑が少しだけパラパラ落ちてきたのを
男はもう片方の腕に握っていた鉄屑を一真の目に再び投げつける。しかし、一真はそれを予測していたかのように頭を横にずらし避け、
「言ったはずだぜ……その鉄屑の目くらましは食らわないと……そしてもう……
男の顔面から気持ちの良いほどいい音で骨の折れる音が響き渡った。
「ガパッ…!?ま…まさか……!?」
男は驚愕し、輝くその瞳で一真を見上げ凝視する。
「おおおおおお!!」
一真は地面に足をつけるとそのまま体勢を崩した男の顔面に向かって拳を大きく振りかぶって放ち、鈍い音を響かせながら男を奥へと吹き飛ばした。
「始めに撃たれた時…俺は目の周りが汗で蒸れて瞬きしていた…戦っている最中も目を慣らすために瞬きをして攻撃していた…そしてお前から鉄屑を目にくらい目が見えなくなり攻撃された……しかし目を開いた途端に攻撃がいきなり止んだ…!これが…『scatman(スキャットマン)』………
一真はそう言うとすかさず男に向かって走り出す。
「お…俺の能力を…『理解』……したんだね……。初めてだよ…この能力を見破られるのは……。」
男はよろめきながら立ち上がり、一真の方を子供のような泣き顔で睨みながらも笑みを浮かべていた。
「だけど…瞬きという人間の当たり前の動きをいきなり変えることはできない………そして…わかったところで、俺は負けない……なぜなら………………。」
男はポケットに手を入れると何かを掴んだ。
「俺は『scatman(スキャットマン)』だ………。」
男は何かを持ちながらポケットから手を出すが、もちろん一真はその行動を見逃さない。
「もう目くらましは食らわないと言ったはずだ!お前の能力ももう見破った!食らえ…!」
一真は横に素早く回り込むと男の胸部めがけて蹴りを放とうとする。
しかし、
「……!!」
一真がそれを捉えた瞬間、視界は眩い光に包まれた。それと同時に一真の体を音無き弾丸が何度も貫いていく。
「ガハッ…!」
一真が激痛と共に吐血すると光の何処かから男の声が聞こえてきた。
「今ので分かったと思うけど一応訂正させて貰うね……。俺の能力は
男は光で目の焦点が合っていない一真に向かって言い放った。それと同時に一真に弾丸が次々と打ち込まれ、一真は倒れようとする。しかし————————————————————
「ぐっ……!!趣味だとか言って人を殺すようなお前は………ゆるさねぇ……!!」
視界が安定し、男をしっかりと捉えた一真は再び男に拳を振りかぶる。
「……さっきから君はさぁ…………何度も説明してるのに…何度も撃ち込んだのに………君はいつになったら死んでくれるんだい……?」
男はそういうと眉を痙攣させ怒りの表情をあらわにする。
「イラつくなぁ……!俺は『scatman(スキャットマン)』だ………!今まで誰にだって負けたことはないんだ……!お前みたいな石ころに負けるわけないんだよ…!理解力の足りな奴だ!死んでしまえぇぇぇぇぇ!!!!」
男は再び閃光弾を取り出しピンを抜くと一真の目の前に投げつけた。
一真はとっさに目を閉じ光の衝撃を遮る。
「話を聞いていなかったのかい!?どっち道お前は撃ち抜かれるんだよ……!食らえ!『scatman(スキャットマン)』!!」
「うぐっ……!お前を………許さねぇ…………!!」
一真はまたしても暗闇の中で無音の弾丸に貫かれるが、今度は撃ち抜かれても動きを止めず、そのまま男の顔面に拳を叩き込んだ。
「カペッ……!こ、こいつ……!撃ち抜かれること覚悟で……!」
男がよろめくと一真はそれを逃さず体を投げ出し男を地面に倒し馬乗りになると男に拳を放つ。
「グバッ……!」
男は鼻や額から大量に血を流す。しかし一真は攻撃の手を止めない。
「お前は絶対に………!!許さねぇ………!!」
一真が何度目かの攻撃を放とうとした時。ーーーーーーーーーーーーー
ザスッ!
男は素早く服の内ポケットから二本の針を取り出し一真の両目に投げた。
二本の針は脳にまでは達していなかったものの一真の両目へと突き刺さり、またしても一真の体に弾丸が撃ち込まれる。
「ハ……ハハ…。……ハハハハハ!もしもの時のために持っておいて良かったよ!これでお前の視界は完全に遮られた!お前の能力でもその傷を治すのは相当時間がかかるはずだ!その間に『scatman(スキャットマン)』で体は撃ち抜かれる!」
男は自身の勝利に歓喜し、笑い声を響かせる。そして一真の周りからはいくつもの弾丸が撃ち込まれていった。
「勝った!俺の勝ちだ!ハハハハハ!!」
「今…この攻撃を食らったことによって……『覚悟』はできたぜ…そして…お前の能力の発動で…
一真は自分の真下にいるであろう男の男の肩を掴むと、そう叫んだ。
「…?なんだって……?」
男は一真の言ったことが信じられず聞き返す。
そしてついに、いくつもの弾丸が一真の体に触れる。
「『超音速(スーパーソニック)』!!」
その瞬間、一真の体に触れた弾丸は速度を増し、先程とは比べ物にならない速さで一真の体を貫く。速度が上昇した弾丸は
「ガフッ…!ここからは……賭けだぜ…。」
「なっ……なにぃぃぃぃぃ!?」
男は一真の目的に気がつき驚愕する。
(こいつ…!俺の『scatman(スキャットマン)』の弾丸を自分の体を通して俺自身に当てるつもりだ!し…正気じゃない!こいつはこのまま自滅覚悟で俺を押し切るつもりだ!!や、やられる!この俺が…やられる!)
男は必死で抵抗するが、一真はこれほどの出血で何処から力が出ているのかと思えるほどの力で男を押さえつけた。
「言った筈だ………!お前は……許さねぇ…!」
「うおおおお!!『scatman(スキャットマン)』!解………」
解除。——————————男はそう言いかけたが、一真の『超音速(スーパーソニック)』によって速度を上昇させられた弾丸のスピードは凄まじく、間に合わずに男の体には弾丸が何十発も撃ち込まれる。
「ガベラベラババババババ!!」
一真の周りから次々と撃ち込まれる弾丸は一真の体に触れる度に速度を増して一真と男の体を貫く。
そしてついに、一真の後方から右胸に弾丸が撃ち込まれ、そのまま男の心臓が貫かれた。
「ガバッ!…ウッ…グ………ゲ……………。」
男は何処か虚を向くとそのまま静かに瞼を閉じ、ピクリとも動かなくなった。
いつのまにか弾丸は撃ち込まれなくなり、男は死亡したとわかった。
「ハァ……ハァ……か、勝った……。」
一真は男から離れ、自分の両目から針を抜き取りビルの壁に倒れ込み座ると四肢をバラバラにされ内臓がなくなった死体を見る。
(仇は……取りました……これで安らかに眠ってください………。)
一真は男に殺された人たちのことを考えながらそう思う。
「そして…こっからが本当の賭けだ……俺の『超音速(スーパーソニック)』による傷の回復の速さと……俺が死ぬまで……どちらが先か……後はもう…それに…賭ける………ぜ………………。」
一真はそのまま、今度は安心して、瞼を閉じ暗闇の中で気を失った。ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
——————おい——————
暗闇の中から誰かの声が聞こえる。
——————おい起きろ一真——————
この声は聞いたことがある。この声は——————————
「おい!起きろ一真!」
目の前に師匠、石川 本郷が映る。
周りは橙色に染まり、一真は自身が夕方まで眠っていたことに気づいた。
「師…匠……俺……やりました……敵を倒すことができました…仇を取れました…。」
一真はまだ意識がはっきりしないまま本郷にそう伝える。
「あぁ…どうやらそのようだな……お前に捜査は終わったかどうか聞こうと思って電話したが繋がらなかったからのもしやと思って町の南部を探し回ったが……戦いは既に始まり…そして既に終わったようだな……。」
本郷は足元と向こうの死体と壊れた携帯を見てそう言った。
「一真…まずはここから立ち去るぞ……ここにいては、人に見つかった時に誤解されかねないしな。」
男はそう言って一真の服についた血を出来るだけ目立たなくなるように拭き取る。
「あ、あぁ…そうだな、師匠……。」
本郷は肩を貸すか?というが一真は遠慮して断るとヨロヨロとしながら立ち上がるともう一度バラバラの死体見つめ、夕暮れのの光が差し込むビルの隙間の外へと振り返り、恵の待つ家に、旭町へと帰るために本郷とともに駅へと歩き出した。————————————————————————————————————
『scatman(スキャットマン)』
本体名——————彩処 好波(あやどころ このは)——————
自分の半径15m以内の対象者の『視界』が95%以上遮られた時、その対象者の周りの『死角』からから弾丸が撃ち込まれる。
視界が遮られれば発動するため、光で前が殆ど見えなくなっても発動する。
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