第7話 第六話 I am scatman 〜その①〜

——————千葉県 愛宕山——————



「それで師匠、この俺の『力』について説明してくれないか?」


一真は道場の真ん中で本郷と向かい合い座ると本郷に自身に発現した『力』について聞き出した。


「あぁそうだな…お前のその力や力が発言したことを『覚醒(かくせい)』と言う…。そしてお前のような『覚醒』の力を持つ者は『覚醒者(かくせいしゃ)』…地域によっては『能力者(のうりょくしゃ)』や『AROUSALER(アロウザラー)』と呼ばれている。」


道着に着替えていた本郷は答える。


「『覚醒者』……か…。でもなんで俺は覚醒できたんだ?」


一真は次に疑問に思っていたことを聞く。


「今のところ…なぜ人が覚醒して覚醒者になるのか…それは明確にはわかっていないが…俺は生まれつきという例外を除いて大体の場合は以上なほどに強い決意や覚悟、欲求を抱くことによって覚醒するのではないかと考えている。」


本郷はそう言うと続ける。


「それと……お前が覚醒した時…何か光のようなものが体を纏っていなかったか?」


「そういえば…俺はあの時、白い光みたいなものを纏ってた。」


一真はあの日のことを思い出し答えた。


「それは『エネルギー』という……この道場の教えでは本来我々人間の生命や体というものはエネルギーからできていると考えられている。覚醒した時エネルギーが爆発的に増加した事により、体の奥底から溢れ出してきたその光を…つまりエネルギーを覚醒者本人や機械類に纏わせる事で身体能力や性能を大幅に強化させたり、傷の回復を早めることができる。」


「そうか…だから俺はあんなに速く動けたり折れた腕こんなに早く治っていたのか……。」


「いや、それでも骨折程度を治すのに覚醒者は2〜3日を要するはず……そこで覚醒者の最大の特徴だ………それは……エネルギーとは別に覚醒者それぞれに固有の能力があるという事だ。」


「能力……そういえば……『超音速(スーパーソニック)』……そう頭の中に浮かんできたんだ……まさかあれが……。」


一真ははっとしたように言う。


「そうだ。覚醒した時、頭の中に能力名が浮かび上がるはずだ…そしてその『超音速(スーパーソニック)』というのが……一真、お前の能力なんだな……?」


「えーと…多分そうだと思う。確かあの時はどこかに力を物凄い勢いで入れるイメージをして…それでそこの部分が物凄く速くなったって感じだ。」


一真は詳しく自分が知る自身の能力について説明する。


「なるほど…つまりお前の能力は『何かを速くさせる能力』ということか…それで骨折した腕の治りも早い……。」


本郷は自分の推測を語る。


「そうか…ある程度理解したよ師匠。後…詮索するようで悪いんだけど師匠がこの旭町に来ていた理由ってなんなんだ?あの長門 清二郎と名乗る男は師匠が町いることは知っていたけど何処にいるかは分からなかったみたいだ。」


一真は次に疑問だったことを本郷に投げかける。


「ここ最近お前の町…旭町で何件もバラバラ殺人があったのを知っているか?」


本郷は一真に確認する。


「……!!あ、あぁ……。」


一真はあの日健二と話した身の毛もよだつようなニュースのことを、殺人鬼のことを思い出す。


「俺は今回それを追って来た…まだ犯人が普通の人間か覚醒者かは分からないが……同じ町で何件も事件を起こして未だに捕まっていないとなると…おそらく普通の人間ではない、覚醒者の可能性が高い。」


本郷は自分が旭町に来た理由を説明すると犯人の正体について考える。


「とういうことは……俺と同じような覚醒者がバラバラ殺人をして能力をうまく使って警察から姿をくらましてる……ってことか?」


一真は本郷に向かって自分の解釈を伝える。


「そして……昨日まで旭町で続いていた殺人がピタリととまり……代わりに矢作町で先日……バラバラの死体が別々の場所で発見された……。」


「……それってつまり……。」


一真は唾を飲み込む。


「犯人は旭町が破壊された事で殺人を起こした時に自分の正体がバレる可能性が高くなったのでそれを避ける為にこの町に見切りをつけ、別の町で再び新たな獲物を借り始めた。ということだな。」


「ちくしょう……なんだよそれ…それじゃあまるで……町の人たちが…犯人の欲求を満たす為だけの玩具みたいじゃねぇかよ……。」


一真は恐怖と怒りの混じった声を震わせ膝の上で拳を強く握りしめた。


「あぁ…だかもう奴にそんな事はさせない。」


そう言って本郷は立ち上がった。


「一真!矢作町に行くぞ!一刻も早く犯人を追い詰めるんだ!」


わかったぜ!師匠!と一真も続いて立ち上がる。

二人はそのまま矢作町行きの駅へ向かうために道場を出た。——————————————————————————



——————千葉県千葉市中央区矢作町——————


「スィキィ〜バッバップバッダップバップ……。」


男は頭上の快晴の空と同じくらい晴れやかな気分で鼻歌を歌いながら矢作町を歩いていた。


「いや〜昨日は良い事があったから気分最高〜。」


男は笑顔を周囲に振り撒く。

それを見ていたティッシュ配りをしている女は手を止め男の方を見る。


「何だろうあの人…そんなに良い事があったのかな……。」


男が人混みの中に入って見えなくった頃に女がそう呟いていると——————————


「うん!とっても良い事がね!」


男はいつの間にか女に近づき返事をした。


「え、は、はぁ…というとどんな良い事が……。」


女は驚きつつも変に絡まれたくないので冷静に質問する。


「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん…………………そんなに知りたい?」


男は唸ると勿体ぶった。


「い、いえそういう訳ではないのですが………」


「でも教えな〜〜い。」


「…………。」


男の無茶苦茶な回答に女は面倒臭くなり黙る。


「俺はね、良い事は、自分の中だけにしまっておいたほうがいいと思うんだ!そうすれば、特別として永遠に自分の中で思い出として残り続けるからね!」


男は子供かと思えるほどの無邪気な笑顔でそう言った。


「……そうですか……。」


男の考えに一理あると思った女はそう相槌を打つ。


「ところで君さ!これから暇?俺とお茶しに行こうよ!すぐ近くに美味しいブランチのあるカフェがあるんだよね〜!仕事まだ続くんだったら早く終わるように俺も手伝うよ!」


「え……え〜と、それは…。」


女は男の突然の誘いに戸惑う。


(積極的な人だな…良い人っぽいし…それにこの人のことちょっと好きかも……。)


「はい、分かりました…それじゃああともう少ししたら……」


「本当!?やった〜〜!そうと決まれば早く終わらせようよ!」


男はそう言って女の持つ籠からポケットティッシュを大量に取り出すと町を行き交う人々に元気良く配り出した。


「はい!どうぞ〜ポケットティッシュです!お!そこのお嬢さん!あなたの綺麗な肌に合うのはこのポケットティッシュだけだよ!そこのサラリーマン!そう!あなただ!あなた努力の結晶、このポケットティッシュで拭いていかない?」


男は口八丁にどんどんポケットティッシュを配っていく。


(凄いなあの人…誰にでもあんな積極的に接して……。)


その後たった数分で全てのポケットティッシュを配り終わると男は女の手を引き走り出す。


「さ、それじゃあ早く行こうよ!」


「は、はい…!」


女はそれだけ返すと、男の楽しそうな背中をただ見つめた。女もそれを見て幸せそうに笑う。

町で二人の男女はお互いに笑い合い、通行人にぶつかりそうになりながらもカフェを目指した。

二人をギリギリで避けた青年は二人が走り去っていくのを見つめる。


(あんなに楽しそうに笑っている人達がいる今でもこの町で殺人が行われているかもしれない……。だがそんな事はもうさせない……俺がこの町の人達も守るんだ……。)


青年はそう決意するとポケットから携帯を取り出し電話を繋いだ。


「師匠…かれこれ2時間くらいで南部の3割まで探したが……以前、犯人らしい奴は見当たらないぜ…。」


『そうか…なら一真、引き続き残りの場所を探して行ってくれ。俺も北部の方をできるだけくまなく探す…。』


「もちろんそうするけど師匠、今わかっている犯人の特徴って男って事くらいだろ?どうやって犯人かどうかなんて見分ければ良いんだ?」


『犯人かどうか……ではなく、…だ、一真。犯人がどういった奴かわからなくても犯人がいるような場所…つまりバレずに殺人を行いやすそうな場所を探せば自ずと犯人は見つかる……。』


「そういうもんか…?まあ、分かった。じゃあそういった場所を探してみるぜ……。」


矢作町についた後、町の北部を本郷、南部を一真で分けて捜査していた一真はそう言って電話を切ると町を再び歩き始めた。


(犯人が殺人を起こしそうな場所かぁ……つってもなぁ……そんな事考えたこともねぇしなぁ……一体どこを探せば良いのか……)


一真はそう考えているうちにカフェの前まで辿り着く。店からは仄かにコーヒーの匂いが漂っていた。


「スンスン……やっぱりコーヒーって

いい匂いだな…あ、美味しそうなブランチ食べてるな…今度こっちきた時このカフェ行ってみようかな…。」


一真は目的を忘れカフェを眺めながら歩く。


「……ってこんな事言ってる場合じゃないな。早く犯人を見つけないと……。」


そう言って一真は前を向き直した。しかし————————————————————


「……!!」


向き直す最中、視界にビルとカフェの隙間に『誰かの足』を捉え、もう一度隙間を見る。しかし先ほどの足は見つからない。


「な、なんだ…?見間違いか……?『人の足』だった……!もしかして…いるのか……そこに……その隙間の奥に……!バラバラ殺人の犯人が……!」


一真はビルの隙間の奥に向かって走り出すと足が見つかった地点ですぐ右の向かいのビルとの隙間を向く。

するとそこには、バラバラにされた四肢と胴体が転がっていた。胴体は胸部から腹部にかけて大きく裂けていて中に内臓は一つもなかった。かろうじてわかるのは胸部に膨らみがあることから女性であるということだけだった。


「うっ…!おぇぇぇぇぇ……!!」


一真は目の前の光景に耐えきれず嘔吐した。


「ハァ…ハァ……これは…犯人がやったのか…!?ひ、酷過ぎる…!」


一真は再び吐きそうになるの口を塞ぎ抑える。すると一真は何かがおかしいことに気づく。


「な、……『頭が無い!』頭はどこだ!?どこにも無い…!それに犯人はどこだ……!?さっきと足の位置が違うという事は『足の位置を移動させたものがいる』という事だ……!!近くになぜ犯人がいない!!」


一真は辺りを見渡すと本郷のことを思い出した。


「そ、そうだ…!師匠に伝えなければ……!!『犯人が近くにいる!』知らせなくては!!」


一真はポケットから携帯を手に取り電話アプリを開く。得体の知れない何かへの恐怖で身体中から汗を掻き、一真は目の付近が汗で蒸れ何度も瞬きをする。電話の画面を開き本郷に繋ごうとしたその時————————————————————


、銃弾はそのまま携帯を貫き破壊した。


「うっ…!うぐあぁぁぁぁぁ!!」


一真は手を抑え、痛みに声を上げる。


「撃たれた……!横からだ…!」


一真は人が通る道路のある横を向くがそこには誰もいなかった。


「なぜ誰もいない…!そういえば撃たれる時音もしなかった…!一体敵はどうやって攻撃してきているんだ!」


一真が次の攻撃に備え辺りを再び見回す。しかしやはり誰もいない。


「まずい…殺られる……!」


一真はすぐさま道路へと走り出す。

すると走る一真の頭上から人影が落ち、手に持つ鼠色の長い光を一真に向かって振りかぶる。


「……!!」


一真は頭上から赤い液が滴ったのに気づくと頭上の攻撃をスレスレで後方に避ける。


「あれ?反射神経いいね君。避けられちゃったよ。片手だったのがいけなかったかなぁ。」


落ちてきた男はそういうと右手に握る刀を振り回して血を払った。

一真はもう片方の手、左手を見ると絶句した。

そこには今バラバラにされた女性のものと思われる頭が髪を掴んでぶら下げられていた。


「うおえええええええええええ!!!」


一真はあまりの惨さについに再び嘔吐する。


「おいおい…いきなりどうしたんだ君……。気分が悪いのかい……?体には気を付けないと駄目だぞ。」


男は冷静な口調で一真を気遣い、心配そうに一真に歩み寄ろうとした。


「はぁ…はぁ……!黙れ!お前が…旭町でバラバラ殺人をしていた犯人か…!そしてこの町でも…その人のように人を殺していたのか……!許さねぇ……!お前に無残に殺された人たちの仇は俺が打つ!そしてお前に殺された人たちの命は……お前の死で償ってもらうぞ!」


一真は犯人を目の前にし恐怖だけだった心に怒りの感情が込み上げ犯人に叫ぶ。

すると男は立ち止まり、とても心外そうな顔をした。

「なんで自分は怒られているんだろう?」そう思っていそうな顔だった。


「え〜!?それは誤解だよ!俺は趣味でこれをやっているんだ!どうしても人の切断面が見たくて仕方ないんだ!抑えきれないんだよ!だから殺せざるを得ないんだ!あ、そうそう、さっきすごくうれしいことがあってね、ほら、この娘の内臓全部さ、すっっっっっっっごく奇麗だったんだ!きっとしっかりとした健康的な生活を送っていたんだろうな~~~~~今じゃなかなか見れないよ!」


「頭がおかしいのかクズ野郎が……!そんなくだらないことが殺していい理由になると思ってんのか……!」


一真は怒りと恐怖の感情の狭間でどす黒い気持ちになっていた。


「ちょっと待ってくれ、今の言い方はないだろ!俺は仕方ないって言った筈じゃないか!殺して切断面を見たいから殺すしかないんだよ!ほら君もなんか言ってやれ!」


そう言うと男は左手に掴んでいた女性の頭部を持ち上げ右手の刀を地面に落とし、その右手に顎を乗せると上下に揺らし、しゃべっているように見せた。


「そうよ!彼はとてもいい人なの!それに人の趣味は尊重してあげるべきよ!人として大事なことよ!」


男は腹話術でそう言わせた。


「……………プフッ……ハハハハハ!」


男は耐えきれず吹き出し大声で笑う。


「ハハハハハ…ってあれ?あんまりウケてないな…。えーとじゃあこんなのはどう?」


そう言うと男は女性の頭部から下に続く首の断面に手を突っ込むとそこから指を通し口を何度も開閉させた。


「ほらこれでもっと喋ってるっぽいだろ?名付けてパペリーヌ!なんちゃってーー!」


男は再びハハハハハと笑い出した。

一真は気が狂いそうな目の前の異常な光景に頭痛を起こし息を荒げる。一真にはもう自分が恐怖しているのか怒っているのかすら分からなかった。全く当てはまらない別の何かが身体中を駆け巡り一真はいつの間にか男に向かって全速力で走っていた。


「あら?これも面白くないのかい?うーん……ギャグセンス磨かないとなぁ…。」


男はそう言って女性の頭部を放り投げ地面の刀を取ろうとする。


「『超音速(スーパーソニック)』!!お前は必ず殺す!」


一真は体に眩いほどに光るエネルギーを纏い、更に『超音速(スーパーソニック)』で目にも留まらぬ速さで男に飛びかかると同時に蹴りを放つ。その時————————————————————


一真の脚を弾丸が貫いた。


「うぐっ……!!」


一真は空中でバランスを崩しそのまま男の足元に大きな音を立てて落ちる。


(ま、まただ……!また何処からか音もなく撃たれた!他に仲間がいるのか!?敵は……二人いるのか……!!)


「へぇ…驚いたな。君……俺と同じような『力』を持っているんだね…あいつらと同じだ……。」


脚の痛みに耐えながらも立ち上がろうとする足元の一真を男は驚いた様子で見下ろした。


「君の能力……スーパーソニック………って言うの?実は俺にもね、能力があるんだよ…君みたいに……」


「……!!」


一真は頭上の男にの方に顔を上げると拳を放つ。しかし————————————————————


ドス!

ドス!


「ガバッ……!!」


一真の右腕と胸部を二発の弾丸が貫いた。


「俺は『scatman(スキャットマン)』だ………。」

————————————————————————————————————————






『超音速(スーパーソニック)』

本体名——————吉村 一真(よしむら かずま)——————


何かの『速度』を大幅に上昇させることができる。『速度』の上昇は本体が解除できる。また、本体以外の物体の『速度』を上昇するには一度本体がその物体に触れている必要がある。『速度』の上昇の上限は本体のエネルギー量と対象に依存する。(無生物>生物)

例:自身の血液の流れの速度を上昇させ、身体能力を大幅に強化させたり、傷の回復を早める。投げた小石の速度を上昇させてタイミングをずらして当てる等。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る