第6話 第五話 ただいま。いってきます。

「どうしたもんか……。」


一真は恵のことを考え少しだけ悩む。

石川 本郷と別れた一真は電車で旭町に戻っていた。


「なんて言い訳すればいいかなぁ…。」


一真は昨日町から姿を消したことの理由を考える。

しかし、ここで悩んでいても仕方ないので一真は歩き始める。


(とりあえず家に向かわないと…。)


一真は歩きながら壊れた街を眺める。

そこには住居を破壊され、十分な生活送れなくなっていた生き残りの町の人々が援助を受けていたり、町の復興作業で人が何度かも行き来していた。


「………………。」


一真は歩き続ける。しばらく歩くと、見覚えのある店が見えた。燃え焦げていて見分けがつかなかったがあれは一真や他の同級生がよく通っていたパン屋だった。そのすぐそばにはサラリーマンがよく乗っていた自転車があちこちを破損させて横たわっていた。あの日サラリーマンはこのパン屋にパンを買いに来ていたのだろう。パンを笑顔で渡すお姉さんの顔が浮かぶ。


一真は涙を流しそうになるが堪える。


(俺や今生きているこの町の人達は…あの日死んでしまった人達によって生きている…町の人達が生かした命は…町の人が生かした俺が守るんだ…意思を継いで俺が守るんだ…。)


一真はそう決意すると今度ははっきりと、確かな足取りで家に向かった。ーーーーーーーーーーーーー




「ねぇ看護師さん!」


健二は困った様子で呼びかける。


「はいはい、どうしましたか早乙女さん。後、私は加藤と呼んでいただいてかまいませんよ。」


20代から25代と見てとれるナースの加藤は健二の呼びかけに答える。


「あの…俺はいつになったら退院できるんですかね…。」


「えーと、確か先生は後1カ月ほどとーーー。」


「1カ月!?」


健二は上体を起こす。


「勘弁してくださいよ!まだ生きてるかもわからない友達がいるんですよ!?こんな所で寝転がってられないんです!」


「落ち着いてください。早乙女さん。あなたのその足は岩に挟まれたことで複雑骨折しています。それにそれ以外にも体の様々な箇所に打撲や切り傷もあります。あなたの体はあなたがしっかり管理しないといけないんです。それをできなかったから怪我をし入院した。違いますか?」


「そ、それは……。」


健二は言葉に詰まる。


「複雑骨折をして補強ありで動けるようにるのは1カ月…そして完治には6カ月から一年かかります。」


「そんな…!」


突きつけられた言葉に健二は絶望する。


「……ですが現代の医術は、飛躍的に発展しています。我々の仕事はあなた達怪我人を治療し完治させて退院させることです。私が言ったのは全治1カ月と言う意味ですよ。」


加藤はやれやれと言った感じで健二に伝える。


「ぜ、全治1カ月…。」


健二はその驚きの早さに目を丸くする。


「もし…そこまであなたが退院を望むなら…後2週間待ってください。そしたら少しは楽に動けるようになります。あ、もちろん運動など激しく体を動かすのはダメですよ。」


「はい!わかりました!ありがとうございます!」


健二は加藤の手を取りとても嬉しそうに礼を言う。


「い、いえ…!お礼なら先生や医術を進歩させてくれた方々に…。」


加藤は少し照れ臭そうにしながら健二に言った。するとーーーーーーー


「あ!恵さんから電話だ!」


健二は急いで電話を取る。


「恵さん!一真が見つかったんですか!?」


健二は電話越しの恵の答えに耳を傾けた。


「………そうですか…よかったぁぁ……。」


健二は安堵の表情を浮かべる。


「はい…わかりました…ちゃんと治してきます。はい、一真にもよろしく言っておいて下さい。それでは…。」


電話を切ると健二は胸に手を当て落ち着きを取り戻す。


「よかった…本当に…。」


加藤は健二が電話を切るのを確認すると。


「今のだと…友達の一真君は無事だったんですね……?」


「はい!やっぱり…しっかり治してから病院に出ようと思います。」


健二は申し訳なさそうにする。


「……。」


加藤は少しだけ考える。


「……いえ、やはり2週間後に退院してください。一真さんには友達が隣にいる方がいいでしょう。」


「…!わかりました!」


健二は加藤にそう答えると窓から町を眺めるのだった。ーーーーーーーーーーー



「ついにきたか……。」


一真は家の前に着くと本郷の言葉を思い出す。


ーー決心がついたら音信山に来てくれーー


(とりあえず母さんにはこのことはまだ秘密にしておこう……。)


そう考えると一真はドアの前まで来るとドアノブを握り少し間を空けてドアを開いた。

中に入り玄関に立つとすぐ横のキッチンから恵が顔を覗かせた。


「一真……あんた無事だったのね……。」


恵は玄関にいる一真の方へと早歩きで近づく。


「………。」


一真は何も答えない。


「……何よその包帯…腕に補強なんかして……!一体何があったの……本当にあんたって子は…」


恵は大きく両手を広げる。そしてーーーーーーー


一真を強く抱きしめた。


「本当に心配したんだから……!」


恵は一真抱きしめながら大粒の涙を流す。


「ごめん母さん……。」


「電話には出ないし……!壊れたあなたの携帯は見つかるし……!健二君に聞いたら変な男のところへ行って戻って来なくなったて言うからそいつに何かされたんじゃないかって……。」


恵は上手く声が出せなくなりながらも自分がどれだけ心配していたかを伝える。


「……あぁ、本当に心配をかけさせたよ。でもこうやって生きることができた。町の人たちのおかげだ……。」


「母さん……。」


一真は恵の肩を掴むと少しだけ自分から離し顔を見つめる。


「ただいま。」


「グスッ……お帰り。」


恵は涙を拭い笑顔で答えた。


「まずは家に入って!昨日から何も食べてないだろうからお腹空いてるでしょ。朝ごはん作っておいたわよ。」


恵は一真を家に入るよう勧める。


「うん、そうするよ。」


一真は玄関を上がりキッチンに入ると椅子に座りテーブルに並べられた朝ごはんを食べ始めた。ーーーーーーーーーーー




ーー千葉県千葉市中央区矢作町ーー



「じゃあね〜ばいば〜い!」


女子高生の集団は一人の同級生の女の子に向かって手を振り別れの挨拶をする。


「うん!ばいばーい!」


女の子も手を振り挨拶を返すと気分良く自身の家に向かうための駅に向かって夜の街を歩き出した。


「家に帰ったら何しようかな〜。」


「……ん?」


女の子は横を見るとビルの隙間に一万円札が落ちているのを見つけた。


(ビルの隙間の向こうにお金が落ちてる……。)


女の子は当たりをキョロキョロ見渡す。


(まだ…誰も見つけてないっぽいし……。)


「よし…。」


女の子は意を決するとビルの隙間の奥へと歩き出した。


(貰っちゃえ♪)


女の子は一万円札の前でしゃがみ拾おうとする。

すると向かいのビルとの隙間から人の影が映る。しかし女の子は気づかない。

人影は横からとても長く鼠色に輝く光を振り下ろす。光は女の子の首と腕を無の音を響かせ透き通った。

すると女の子の首と腕が血の輪ができたかと思うと女の子の体から地面へと落ちていった。女の子の体は自分が死んだことにも気づいていないかのようにしゃがんだままピクリとも動かない。


「よし!今日もいい感じの手応え!すごいなぁこの刀!すごく良く切れるじゃあないか!」


男は影から出てくると刀の切れ味に驚いた。


「さてと……早く見とかないとね。」


男は死体に近づくと首と腕の切断面をまじまじと眺める。


「おおおお!!いい感じだ!この刀も扱い慣れてきたしもっといい断面が見れそうだ!」


男は興奮し次の目標に胸を弾ませる。


「あ!そうだそうだ!記念に……。」


男は死体を仰向けにするとポケットからナイフを皮のホルダーから抜き出しメスのように死体の腹部をゆっくり切り裂いた。

腹部からは小腸や大腸などの内臓が出てくる。


「うーむ、小腸はあんまりだなぁ大腸もほんのちょっぴり汚れてるかな。えーとじゃあ次は……。」


男は今度は死体の胸部を切り裂き肋骨を慎重に折り外すと中の内臓を丁寧に掻き分け内臓を物色する。


「おお!心臓や肺がなかなか綺麗じゃないか!!これにしよう!!」


男はとても嬉しそうに心臓と肺を手際よく取り出した。


「記念品にホルマリン漬けにして保存しようかな…。」


男はそう言うと心臓と肺をゴム製の小袋に入れると、再びナイフを手に取り死体の両足を切り取り用意していた別のゴム製の大きな袋にバラバラになった死体を詰め込む。


「よし!っと……。あとはここを綺麗にしたら終わりだな。やっぱりみんなが使う公共の場は綺麗にするのが人としての嗜みだよな!」


男はそう言って地面を染める血を布で綺麗に拭き取ると。気分よく鼻歌を歌いながら光り輝く街並みへと歩き出した。ーーーーーーーーーーーー




ーー千葉県千葉市中央区旭町ーー



「よっと…。」


夜は明け、町に朝日が昇る頃、一真は身支度を済ませて玄関で靴を履き、家を出ようとしていた。いつの間にか骨折した腕は癒え、補強は外されていた。


「こんな朝早くからどこかに行くの?」


恵は玄関にいる一真に問いかける。


「うん。しばらく学校も休校だし、どこか違う場所に出かけようかなって。」


一真振り向きそう答えるとドアノブに手をかける。


「そう……わかったわ。それじゃ…」


「いってらっしゃい。」


恵は一呼吸すると笑顔でそう言った。


「……いってきます。」


一真も笑顔で返事をすると正面を向き直し、ドアを開け家を出た。

一真はドアを閉めると再び家の方へと振り返る。


(母さん…危険な道になるかもしれないけど俺は町の人々の命を真に無駄じゃなかったと証明する為に生きたいんだ…みんなが生かしてくれたこの命で……。)


(だから母さん……それを証明できる日まで俺を支えてくれ……。)


一真は心の中でそう思うと。音信山に向かう為に駅へと走っていった。ーーーーーーーーー

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