第4話 第三話 彼は超音速
街は炎に包まれ、もう人々の声は聞こえなくなり、建物が崩れる音だけが響く。
次々に崩れる建物の中、1つのビルの屋上で光が灯っていた。
「こいつ…まさか…『覚醒(かくせい)』したのか…?」
男は驚いた様子で一真を見つめる。
「胸から体全体に力が満ちている感じだ…今ならお前を…倒せる……みんなを………」
「守れる…!」
一真は地面にくぼみを開け物凄い速さで駆け抜ける。
「『エネルギー』で身体能力を強化したか…。だが…まだ弱い…。」
男は構えを取る。しかし————————————————————
「『超音速(スーパーソニック)』…!!」
一真がそう叫ぶと同時に一真は姿を消した。
(…!?消えた…!)
男がそう思いかけた時、一真が目の前に姿を現わす。
「はぁっ!」
一真はそのまま男に後ろ回し蹴りを空中で放つ。男はそれをなんとか受け止めた。
「ち、違う…!消えたんじゃない…!俺が捉えられなかったんだ!こいつ……!速い!」
「喰らえっ!」
一真は受け止めた男の腕を利用し逆回転するとまたしても回し蹴りを放ち男の腹部に命中させた。
「うぐっ…!フンッ…!」
男は痛みに耐えながらも一真に拳を放ち反撃に出る。しかし、一真はそれをギリギリで避ける。
(まただ…!また『速くなった…!』)
一真は避けた勢いで男から飛んで離れる。すると落ちるスピード上がり素早く着地する。
「お、『落ちるスピードが速い』だと…!?」
男は驚愕する。
一真は攻撃をやめず地面に手を突っ込むとそのまま地面を掘り返し土やセメントの塊を男に浴びせる。
「クソっ!下らない事をっ!」
男はセメントを避けようとする。しかし————————————————————
「何…!?セメントが…いや…土とセメントが速くなっている!」
男は避けきれず土を目に入れ、セメントを体にぶつけ血を吹き出す。
「うぐっ…!やつの『能力』が…わかりかけてきた…。」
男は急いで目をこすり入った土を払う。その時、土煙の中から一真が現れ男の顔面に拳を放ち、男の顔面から骨の折れる音を響き渡らせる。
「ガフッ…『物体のスピードを速くさせる能力…!』これがこいつの『能力』…!」
「うおおおおおおお!!」
一真はそのまま男を殴り飛ばそうとする。
「だが…。」
男は一真の腕を掴む。
「…!くそっ」
一真は片方の腕のようにおられる事を想像し、腕を離させようと男に蹴りを放つ。しかし————————————————————
「さっきは油断して見きれなかったが…お前のスピードは見切った…もう問題ではない。」
男は一真の足を掴みそう言うと先程背中から突き刺した胸部を蹴り飛ばす。
「グハッ…!」
一真はそのまま地面に転がり落ちる。
「もしかするといつかあのお方の邪魔になるかも知れん…。この長門 清二郎(ながと せいじろう)…もう油断はしない…。今すぐ殺しておかなければ…。」
長門は必死で起き上がろうとする一真に近づくと心臓部分に向かって拳を放つ。
(く…くそ…これでも奴には届かないのか…どんなことをしても俺はみんなを…守れないのか…。)
長門の拳がまさに当たろうとした時。すぐそばで鳴り響いた轟音によって長門は腕を止める。
「…ついに…来たか…!」
長門は一真に興味を無くしたようにその轟音を鳴らした者の方を向く。
現れた男は一真をちらっと見ると長門へと歩みを進める。
「いや…。今回は撤退させてもらおう。この傷ではお前とまともには渡り合えない…。」
男は歩みを止め長門が何処かへ行くのを待つ。
「だが覚えておけ…次は会うときは万全の状態でお前と戦う!その時が…お前の最後だ…。」
長門はそう言うと何処かへ消える。
それを確認すると男は一真へと近づいてくる。
一真は薄れゆく意識の中、男の顔を見た。髪が肩まで伸び髭少しだけ生やし、しかし威厳のある顔でこちらを見つめていた。
一真は何かを言いかけたが、そこで意識は途切れた。——————————————————————————————
「おーい!生きてるかーい?生きてたら返事してくれー!」
健二が相手をした男は健二を瓦礫を掛け分けながら探す。
「今ので死にはしても死体が残らないってはおかしいと思うんですけどね…。」
男は死体が残ってないのを不審に思い健二を探していた。
(あ、あっぶねぇええええ!!あの野郎が手をかざしたところが『爆発した!』もし危険を感じて避けてなかったらやらていたかもしれない!足も飛んできた岩に挟まれて動けねぇ。岩に埋もれたのは運が良かった。ここでやり過ごすしかねぇ!しかしあいつしつこいな…一体どれだけの時間探してんだよ…。)
健二は自分の足を見て考える。
「うーん…。」
男は少し悩むと健二の方を見る。
「うーん…ん?」男は何かに気づき健二の方へと近づいてくる。
(何いいいいいいい!?ば、ばれたのか!?)
男はついに5mの距離まで近づく。
(やばい!見つかる!)
健二は恐怖で目を瞑る。しかし————————————————————
「おい河原(かわはら)、撤退だ。」
「あ、長門君。石川本郷は殺せた?その傷だと苦戦したの?」
川端はやってきた長門に質問する。
(誰の声だ…!?まさかあのクソ野郎か!だとすると一真はどうしたんだ…!?)
「いや、奴は倒せなかったと言うかこの傷のせいで戦わなかった。」
「へぇ…だとするとその傷…そういえば君のところになんか男が来なかったかい?17歳くらいの。そいつにまさかやられたって言うのかな?」
「チッ…あぁそうだ…やつは『覚醒』して『覚醒者』になったってところだ。」
(『覚醒』…?『覚醒者』…?なんの話だ?一真は一体どうなったんだ…?)
「そうなんだね…それでそいつは殺せたの?」
「あともう少しというところで石川本郷が現れたから手が出せなかった。」
「えー?君って意外にドジなんだね…。ガッカリだよ…。」
「黙れ…。」
「ま、石川本郷の存在を認知できただけでもいい収穫だ。早く戻ろうよ。」
「…あぁ。」
長門は移動しようとする。
(ふぅ…もう行くみてぇだな…助かった。)
「あ、その前に。」
河原は何かを思い出す。
「生き残りは殺しとかないとね…。」
(お、おいおいまじかよ…!?)
河原が手をかざすと爆発音が鳴り響き岩は粉々に吹き飛ぶ。しかしそこに、人の姿はなかった。
「…。」
「お前もドジじゃねぇか。他に生き残り作ってしまってるかもな。もう行くぞ。」
長門はまた何処かと消え去る。
「…そうだね。」
河原も何処かへ続いて姿を消した。
(た、助かったぁぁぁ…。)
健二は安堵すると岩を1つずつ丁寧にどかし最後に足を挟んでいた岩をどかして片足で立ち上がる。
「おーい君!大丈夫かー!!ここは危ない避難しなさーい!」
後ろからサイレンとともに声が響く。
健二が振り返ると消防士や警察官、特殊部隊などが駆けつけていた。
「…!!君足が…!大丈夫かい?早く病院に…」
一人の警察官が健二に話しかける。
「向こうのビルに…友達がいるんです…。」
健二は声を絞り出す。
「…え?」
「俺よりも先に向こうのビルにいる友達を助けてください!もしかしたらもう手遅れかもしれない!お願いだ一真を助けてくれ!」
健二は泣きながら警察官にしがみついた。
「お、落ち着いて!わかった。その一真君は私達が助けよう。だけど君はまず、救急車に乗って病院に向かうんだ。いいね?」
警察官がそう聞くと健二は黙って頷き救急車へと他の警察官に肩を貸してもらいながら移動する。
(一真…無事でいてくれ…!)
健二が救急車へと入ると救急車はすぐに出発し見えなくなっていった。————————————————————
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