第2話 王子の一生

 俺の前世は『安川治朗』―― 神様の手違いでトラックに轢かれて死んだが、転生して再び命を得ることができた。


 今世の俺の名前は『村田王子』―― 王子と書いて『カイザー』と読むらしい。

 カイザーなら皇帝だろ! せめて読みは『プリンス』にしろよ!

 否、どっちにしろ頭を抱えたくなるキラキラネームだ。折角チートをもらったというのに、この名前のせいでマイナスにならないか心配だ。


 子供にこんな名前をつけたDQNな親だから、碌な家庭じゃないだろうと思ったが、案外家は裕福だった。


 神の奴、名前以外はなかなか良い仕事をしたようだ。


……


 2度目の人生はイージーモードだ。

 何せ俺には前世の知識がある。回りの幼児共とは、人生経験が違うのだ!

 お前らが今期の『プリ●ュア』のキャラ名を上げる間に、俺は前作・前々作のキャラ名も余裕で上げられる。

 当然俺は『神童』と持て囃され人気者だ。

 前世も含めて、生まれて初めて母親以外からバレンタインチョコを貰った。それも3つもだ!


……


 小学校に上がってからも、俺の天下は続いた。

 テストはほぼ満点ばかり。ゲームをしても、俺の右に出るやつなんて誰もいない。当然周りからは『天才』扱いされて人気者だった。

 処が、高学年に上がった頃から状況が変わってきた。

 ゲームやアニメの知識溢れる俺に女子共が『キモイ』と言い出すようになった。

 更にスポーツのできる男子からは『オタク』扱いされるようになり、人気は凋落しだした。


……


 中学は私立の中高一貫の学校に入学した。

 中学の授業は、前世で高校を卒業している俺にとっては簡単なものだった。

 小学校までは周りが低レベルすぎて、本気で友達を作る気はなかったが、中学になるとそこそこ出来る奴もいるし、そろそろ友達でも作ろうかと思ったが、なかなか上手く行かない。

 名前のせいでバカにされたりして、気付いたら俺は周りからハブられていて、家と学校を往復するだけ―― 時々ゲーセンに寄って遊ぶくらいの退屈な毎日を過ごすようになった。


……


 高校にはそのままエスカレーター式で入学した。

 流石に高校でも『ぼっち』では辛いと感じた俺は、如何にも…… という感じの『漫画研究部』という実質同好会のようなクラブに入部した。


 そこは俺にとってパラダイスだった!


 他の部員も世間の風当たりの冷たさに辟易して、現実から目を背け、『夢』という名の妄想を語り合うという、全く生産性のないヘイトを溜める毎日を送っていた。

 それでも俺は楽しかった。俺と同じような『努力なんてくそ食らえ』という考えの連中がいることが嬉しかった。


 でも、俺はコイツらとは違う!


 俺にはチートがあるから、いつでもこの状況から抜け出せるんだ!


……


 俺は大学受験に失敗した。

 受験票を握りしめながら、トボトボと歩道を歩いていた。


 そんな俺の目の前を黒猫が横切って車道に飛び出した。タイミング悪く、トラックが猛スピードで走ってくる。


 俺はそれをチャンスと信じて、黒猫を追いかけるように車道に向かって走った!

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