神に2度目はない

読ミ人オラズ

第1話 神様の思いつき

「それで、お前は儂にどうしろというのかね?」


「あんたの手違いで俺は死んだんだ! だから、チートをよこして転生させろよ!」


 白い靄のかかったガランとした空間で、2人の男性が椅子に座って向かい合って話していた。

 1人は立派な白髭を生やした優しそうなおじいさん―― 樫の木でできた杖を持って頭は禿ている。

 もう1人は若い男―― ぶくぶく太っており不摂生な生活習慣が見て取れる。


 おじいさんは『神様』だ。若い男はついさっきトラックに轢かれて死んだばかりで、この空間で神様の面談を受けているところだ。


「安川治朗22歳。大学受験に失敗して18歳からニート生活を開始し、毎日ゲームとネット三昧。今日コンビニで買い物した帰りにトラックに轢かれて死亡―― これで間違いないかのお?」


「ああそうだ! 世間が悪いから俺はニートになって抗議したんだ。そしてあんたの手違いでトラックに轢かれたんだ」


 神様はあきれ顔で安川を見ながら


「トラックに轢かれたのは、お前が信号無視したからじゃろ? 下界の出来事に、一々神は介入したりせぬぞ」


「でもトラックに轢かれて死ぬのは転生のテンプレだろ!」


 最近こういう輩が増えている。普通ならこういう質の悪い魂はキッチリとクリーニングして、まっさらな状態に戻してから新しい生命に宿らせるのだが、もし前世の記憶を残したまま新しい生命に宿らせたらどうなるのだろうか?


 きっと前世を反省して次の世に生かすに違いない。


 神様のその『思いつき』で、安川治朗の魂は記憶を残したまま転生することに決まった。


「じゃあ、チートもくれよ!」


「わかったわかった……」


 神様は嘆息しながらも、安川に特別な能力を与えてやることにした。


「それでは、下界に送るからの…… 今度は真面目に生きるんじゃぞ」


 そう言って、安川の魂を下界に送った。


 前世の記憶があるというだけでも、他の人よりも大きなアドバンテージがある。それに加えて、安川にはあらゆる分野で平均の2倍の伸び代があるというチートを与えたのだった。


 これできっと現世で精進して、立派に磨かれた魂となって帰ってくるだろう。


 神様はそう信じて、安川の魂が再びここへ帰ってくるのを楽しみに待つことにしたのだった。

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