佗卑丘で会いましょう

私の家から少し離れたところに、


緑の豊かな丘があって、


その天辺の付近には、


色生いろむした小屋が一つあって、


そこではある飲み物が売られていて、


それは透明感のある、くろっぽくて小さくて、


丸ったくて、無邪気で儚い弾力があって、


少し甘くて、でも味が無い、


そんなものが、スリガラスようのカップの底に沈んでいて、


それを一粒ずつ、竹串のようなもので、


突いては口に放り込み、


突いては口に放り込む、


そんな飲み物だと聞いていて、


でも近頃では歓迎を受けすぎていて、


丘の麓からその小屋まで、


行列という行列が何本も立ち並んでいて、


それはひっきりなしに売れていて、


それでも売り切れることがなくて、


不思議な不思議な飲み物なんだなぁ、と


聞いているそばから思っていて、


また飲み物は好きなものを選べるそうで、


茶色く透明の少し渋みのある冷たいやつとか、


茶色く白濁して、乳臭いコクのある、


あんまり冷たくない、優しい甘さのやつとか、


世界中の光を吸収したとか言う謂れのある、


真っ黒のやつとか、いろいろらしいのだけれど、


まだその時はまだ決めあぐねていて、


どうせ何日も列に並ぶのなら、


並びながら考えればいいと思っていて、


ついにさあ並ぶぞという日が来たところで、


少しおめかしでもしようかと思っていたのだけれども、


夏が始まってもう幾らか経った時分だったから、


そこへ向かう途中で汗などをかくわけにもいくまいと、


ちょっとおしゃれなんだけど、


濡れてビタビタになっても構わないような、


そんなお外着を身にことにして、


帽子はあとで邪魔になりそうだったので、


タオルをほっかむることにして、


汗ばまない程度の早足で、


家を出たのであった。


「侘びしくて卑しい、そんな丘で会いましょう。」


ポストに投函されたダイレクトメールは、いつまでもそのままでした。

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