第16話 六甲山ワープ

俺が30歳の頃

場所は六甲山


5歳の息子と六甲山登山をした時である。


今回は幽霊の話ではなく「タイム・ワープ」の話になる。


六甲山と言うのは標高1000メートルの山で、そんなに高い山では無い。


とは言え、頂上まで上がるのにやはり5時間から6時間はかかる。


俺は病気が完治した息子と、前から「行きたい」とせがまれていた六甲山の頂上までの登山を昼の12時からスタートした。


夜の5時ごろには頂上について、山頂から市内にケーブルカーで帰ってくる予定だ。


しかしやはり息子は病み上がりなだけに、歩くスピードがそんなに早くなくて登山は難航した。


時々俺が背負ったり、肩車をしたりなどしてサポートはしたがやはり通常より倍の時間がかかった。


夕方5時位になってもまだ行程の半分ぐらいしか来ていなかった。


日は暮れかけている。


正直俺はこの時焦った。


行程の半分と言う事はあと5時間かかると言うことになる。


夜、真っ暗の中で歩くことに正直「遭難」という二文字も見え隠れしていた。


「誰か他の登山者がいないか?」と待つがあいにく誰ともすれ違わない。


万事休すか?


すると息子が急に元気になって「お父さんこっちこっち」と全く違う道に誘導していく。


そちらは下りのルートだったので「逆の道だからそっちは違うよ」と言って私は息子を追いかけた。


2分くらい追いかけたと思う。

先ほどまでと違い妙に元気だ。


しばらくすると、信じられないが白いガードレールが見えてきて急に車が通ってる道に出たのである。


辺りを見回すと頂上付近の電波塔が見える。今立っている道は頂上の自動車が通れる道である。


俺は「助かった」という気持ちよりも呆気にとられた。


歩いた距離にすればおそらくわずか2-3分だったと思うが、茂みをかき分けて歩いたらいきなり車道のガードレールが見えてきたのだ。


理由はともかく俺は安堵した。


そして通行する車に手を振ってヒッチハイクをしたら、たまたま若いカップルの車が止まってくれた。


こちらが子ども連れだったので安心したのであろう。


「どうしましたか?」

と聞く運転手。


「助かりました。子連れで夜道で困ってました。ケーブルカーの駅までお願いします」と言ったら彼らは快く引き受けてくれた。


この時が午後の6時だった。


俺と息子はあたかもワープして車道に出てきて、そのままケーブルカーに乗って家に帰ることができた。


一時は本当にやばかったが「狐につままれた」と今でも思っている。


しかし、一体何が起こったのかは今も疑問である。


時空のひずみか?

狐狸か?

妖怪か?

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