第14話 玉造マンション

俺が証券マン時代(24 歳)の話


その夜、俺は証券会社のチラシとパンフレットを持って大阪のマンションの玄関の郵便受けに入れていく作業をやっていた。


くだらない仕事だ。


まぁこれは営業マンのたしなみで別に特別な行為では無い。

しかしくだらない。


かなり遅くなった時間であった。


俺を含めた新入社員3人は大阪市玉造の20階建て位のマンションでパンフレットを配っていた。


そして3人はそれぞれの持ち場の階を決めて郵便受けにパンフレット入れていった。


本当にくだらない、


3人は全て配布し終わったら屋上で待ち合わせて夜景見物でもしようと言うことにした。


俺が1番最初にパンフレットを配り終えたので屋上へ続く階段を上っていたときのことである。


時間はおそらく12時を回っていた。


本当にくだらない仕事だ。


下を向いて屋上へ続く階段を歩いていたら、いきなり目の前に女性の赤い靴が見えてきた。


「え?」


ゆっくり顔を上げると、そこには白い服を着た若い女の人が立っていた。


表情は異様に暗い。

何も読み取れない。


彼女とは、もう目と鼻の先の至近距離である。


で、出たのか?


しかし反射的にとっさに俺は言った、「こ、こんばんは」


すると相手も無表情でゆっくりと「こんばんは」と言ってきた。


幽霊ならきちんと挨拶ができる礼儀正しい幽霊だ。


しかし足はさっきから見えているから「幽霊ではないな」と思っていたがこんな時間に何をしているのか、しかも女性1人で・・・


それともう一つ不思議な事は、男性がすぐ近くまで上がってきていたのに驚かないというか怖がらないということであった。


そうこうしていると俺の同僚たちもパンフレットを配り終えたのだろう、下から上がってきた。


正直俺はほっとした。


彼らも、階段を挟んで俺と若い女性が向かい合っているのを見て正直ぎょっとしている感じであった。


「おい、何してるんだこんなところで」

「誰や、それ?」

と普通の質問をした。


すると彼女は「毎日眠れないんです」とぼそっとつぶやいた。


こっちもノルマで毎日眠れない身分だ。


「眠れないからといって、なんでこんなところに来てるのか?」と言う質問は飲み込んだ。


これは三択だ。


1 礼儀正しい幽霊

2 屋上からの飛び降り自殺願望者

3 ちょっと頭がアレな人


俺たち3人はとっさに頭の中で三択を意識した。


しかし、どの選択肢をとっても付き合って、ろくなことがないので「それじゃあ僕たちは帰ります」とわざと大きな声を出して別れを告げた。


最後にチラッと彼女に振り向いたがまだ俯いたまま立っていた。


オチなし

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