第10話 チャブの下宿

大学4年生の話。


俺の友人で「チャブ」と言う奴がいた。


なぜ「チャブ」と呼ばれてるかと言うと体型と顔が昔の悪役プロレスラーの「アブドラザ・ブッチャー」に似ていたからである。


ブッチャーをひっくり返して「チャブ」


まあ要するにハンサムではないということ。


彼は子供のころは大阪に住んでいたが、高校卒業後は横浜市の歯科技工士の専門学校に通っていた。


俺と大阪の麻雀友達の4人は車を飛ばして横浜まで「チャブ」の下宿を訪ねて行った時の事である。


そもそもこの「チャブ」は大阪にいる頃から心霊現象には事欠かない男であった。


例えば自室の天井の木材の木目模様が、どんどん般若の形に変わっていったり、ひとりでに扉が開いたりしまったりするのは日常茶飯事である。


彼ももう慣れきってしまっていて、「あぁ、またか」みたいなものであった。


「横浜の新しい下宿に行っても同じような心霊現象があるのか?」と聞くと、チャブは「結局ああいうものは場所でなく、人間に憑くらしい」などと平然として言った。


つまり横浜の下宿でもいろんなことが起こるのであろう。


俺たち4人は「チャブ」の下宿に行って麻雀をしようと言うことで、早速こたつを出して用意していたときのことである。


下宿には歯科技工士の勉強に必要な頭蓋骨の模型が置いてあった。


これだけでも既に不気味である。


すると、いきなり開いていたドアが風も無いのに「バタン」と思いっきり閉まったのだ。


言っておくが中途半端な閉まり方では無い。


かなり怒った人間が、蹴飛ばして思いっきり閉めるようなレベルであった。


4人があっけにとられてぽかんとしている「チャブ」が一言。


「あー、お前ら歓迎されてるで。良かったな」


ちょっとうすら寒いものは感じたが、「そ、そうか・・・」と、まぁ心を取り直して麻雀を始めた。


半荘を何回かやったときに、親がサイコロを振ろうとした。

するといきなり「パーン」という拍手のような乾燥した大きな音が目の前でした。


音源は4人の顔の真ん前である。

つまりこたつの真上。


「なんや、今の拍手みたいな音は?」と皆がいぶかったが寝転がってポテチを食いながらテレビを見ていた「チャブ」は興味なさそうに「あー、やっぱり歓迎されてるなぁ。良かったな」と振り向きもしないで答えた。


「お前、こんなとこによく1人で住んでいられるな!」と言ったが、やはり彼は全然慣れっこらしく「別に悪いことせえへんからええんや」と言った。


豪傑である。


落ちなし

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