第9話 赤ちゃんと金縛り

大学3年の時の話。


俺は当時、良子と言う神戸女学院大学の女性と付き合っていた。


岡山県出身の彼女は、非常に明るくて俺は結婚まで考えた女性である。


しかし彼女と付き合っていると困ったことが1つだけあった。


それは何かと言うと、大阪城や遊園地とかいろいろな名所に行った時に、写真を撮ったら必ず彼女の隣に縦に黒いモヤのようなものが写るのであった。


例外なくである。


そして俺はそれを見て「おい、また水子が現れているぞ」と彼女を茶化したのである。


悪気はない。


すると彼女はその俺の冗談を聞くと、本当に辛そうな顔をして話を聞いていたことを覚えている。


半年が過ぎた。


ある日、彼女が思い詰めたような声で電話をしてきた。


「今日は大切な話があるので、ファミレスまで来てくれないか」と言うことで俺は西宮の海沿いのファミリーレストランで彼女と待ち合わせた。


すると先に来ていた彼女は「告白したいことがある。実は自分は前に付き合っていた彼氏とのあいだで子供ができて、堕ろしている」と伝えたのだ。


黒い影は本当に水子だったわけである。


それを聞いて俺は立ち上がって「なんで愛し合ってる人と間にできた子供なのに、そういうことをしたんだ!」と周りのお客さんがびっくりするような声で俺は彼女を罵った。


正義感と若気の至りである。


俺の激昂に対して「あなたなんかに何がわかるのよ!」っていうのが彼女の捨て台詞であった。


それ以来、自然に俺たちは別れることとなった。


問題はその日の夜のことである。


家に帰った俺は正直、放心状態で布団に丸まって寝ていた。


心が折れた。


するといきなり、俺が仰向けになってる体制の時に腹から胸のあたりがどんどん重くなってきた。


子泣きジジイ状態だ。


そしていきなり「金縛り」にかかり、体の自由がきかなくなってきた。


指一本動かない。


隣の部屋では、俺の家族が馬鹿げたテレビ番組を見てゲラゲラ笑ってるのが聞こえている。


こっちはそれどころでは無い、「金縛り」プラス「子泣き爺い」と戦っている最中だ。


するとその重さがどんどん増して耐えられなくなってきたときに、突然赤ちゃんの「オギャーオギャー」と言う声が聞こえてきたのである。


「金縛り」プラス「子泣き爺い」プラス「赤ちゃん」のトリプルになった。


俺はさっきあれだけ彼女を罵ったことで「お母さんをいじめるな!」と言う意味で赤ちゃんが俺に報復してきたのだと思った。


しかし「報復なら、俺ではなくて前の彼氏の所だろうが!おかど違いだ」と思ったらさらにどんどん重さが増してくる。


なんとか大きな声を出そうとするのであるが、声にならないので家族も俺が困っていることに気づかない。


まだ大笑いしている声が聞こえる。


おそらく時間的にはわずか2-3分の出来事だと思うのであるが非常に長い時間のように感じた。


俺は不本意ながら「すまん、俺が悪かった」と唱えた。


そしたらいきなり嘘のように体が軽くなり、自由が取り戻せて、赤ちゃんの鳴き声も聞こえなくなっていた。


金縛り体験は後にも先にもこの一回のみである。


オチなし

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