ルナ教
第8話 ティコ行き
今日は朝から、ブリジットとティモカを相手に庭でボール遊びだ。ブリジットを立たせてゴールリングに見立て、ティモカ相手にバスケットボールのワンオンワンを行なっている。
もっとも、攻めるのは俺だけで、ティモカに攻撃の順番が回る事は無い。ティモカに攻撃させると、身長差からまるで勝負にならないからである。
時々勢い余ってゴールリングに抱き付きながら、適度に汗を流す。
「ツキヒロ様そろそろ休憩しましょう。ティモカの息が上がっています」
「分かったよ。ティモカお姉ちゃん体力無さすぎだよ」
「はひー。ツキヒロ様が元気過ぎるんですよ」
「冷たい飲み物を用意しましたから、こちらをどうぞ」
俺はブリジットからコップを受け取ると中身を一気に飲み干した。
「うーん。冷えた麦茶が身体に染み渡るね。美味い。もう一杯」
「はい、はい。ですが飲み過ぎないで下さいね」
「うん。今度は少しずつ飲むよ」
ブリジットからお代わりを貰った俺は、今度はチビチビとコップの中身を啜った。
休憩しながら庭を見渡すと、見慣れない三人組が植木の手入れをしていた。いや、一度だけ見たことがあるな。先日俺の部屋を襲撃して来たルナ教の信者だ。何故庭木の剪定などしているのだろう。地下牢に閉じ込められていたのではないのだろうか。
「ねえ、ブリジットお姉ちゃん、あそこにいるのって、この間襲って来た人達だよね」
「ええ、そうですね。改心してカグヤ様の下で働く事になった様ですよ」
「そうなんだ。また襲ってきたりしない」
「大丈夫ですよ。カグヤ様に完全に調教・・・ではなくて、説得されていますから」
カグヤのやつ、地下牢で調教なんかしていたのか。俺も参加したかったな。
「気になる様でしたら少しお話しをしてみますか」
「構わないの」
「構いませんよ。では、行ってみましょう」
俺はブリジット達と共に三人組の側までやって来た。俺に気付いた三人が揃って頭を下げた。
「先日は知らない事とはいえ、大変失礼致しました」
「知らない事?」
「はい、男とは本当に素晴らしいものなのですね。ツキヒロ様も早く男になって、私達にもそのご寵愛をお分け与え下さい」
何故か三人に視線は、俺の股間に釘付けである。カグヤは一体この三人にどんな調教をしたのだろう。
「もうルナ教を信じてないの」
「ルナ教ですか。あんなのは邪教です」
「そうです。今では何であんな世迷言を信じていたのか、自分でも理解できません」
「そうです、そうです。賢者ルナが生き返るなんて、あり得ないです」
三人共もうルナ教を信じていないようだ。それにしても、ルナ教では賢者ルナが生き返ると教えているのか。
「賢者ルナが生き返るの、なら会ってみたいな」
「あら、じゃあ会いに行ってみる」
俺の独り言に、後ろから声を掛けられた。
「お母様、何時いらっしゃったのですか。声を掛けられるまで、全く気付きませんでした」
「ツキヒロがこの子達と話しているのが見えたから、気になって今転移して来たところよ」
「屋敷内では転移は出来ない筈ではないのですか」
「そうね。今は、この間の研究所で手に入れた転移魔法の解析を進めているところなの。解析して対策を立てないと今みたいに転移し放題になっちゃうから」
「この前のおばちゃんの転移魔法を使ったんですか。確かに今までの対策では不十分な様ですね」
「そうなのよ。そんな話より、ツキヒロは賢者ルナに会ってみたいの」
「そうですね。もし生き返るのなら会ってみたいですね」
「なら、一緒にルナ教の総本山に行ってみましょうか。賢者ルナは、次に、地球に月の影が落ちる時に復活するそうだから」
「それって一週間後ですか」
「そうよ」
「でも、僕が行って危険はないですかね」
「バレなければ平気よ」
「バレなければって。僕に女装させる気ですか」
「たまにはいいじゃない。ツキヒロなら何でも似合うわよ」
こうして、俺のルナ教総本山行きが決まった。
五日後、俺たちは、何度も転移を繰り返し、ルナ教総本山があるティコに来ていた。
ティコは月の南半球にあり、屋敷のあるアルキメデスからは赤道を挟んで反対側になる。山岳地帯の高原で気候は何時も冷涼だ。針葉樹の森の中にコテージの様な家が建ち並ぶ避暑地の様な街だ。そんな中、険しい山の中腹に見える大きな寺院がルナ教総本山の様だ。黒い山をシルエットに煌々と明かりで照らされている。今の時期、ティコは夜の真っただ中だ後十日近く夜が続く。
「取り敢えず宿を取りましょう」
カグヤの命令でティモカが宿を探しに行く。
一応、身分を隠しての隠密道中だ、宿は予め予約していなかったようだ。
ティモカが探してきたのは、最高級の名の知れた宿ではないが、一般人が普段泊まるには明らかに贅沢過ぎる高級な宿だった。
そこに俺たち六人は腰を落ち着けることにした。
今回、ティコに来ているのは、俺、カグヤ、パトラ、ブリジット、ティモカ、ワンユの六人である。
ワンユはパトラの部下で護衛騎士である。騎士であるのだが、武士の様な格好をしている。腰に差しているのも剣ではなく刀だ。一人称は拙者。
そんなワンユと俺は宿に入ると将棋を始めていた。将棋はカグヤが地球から持ち込んで広めたゲームである。
しかし、俺とワンユがやっているのは唯の将棋ではない。賭け将棋。しかも、負けた方が着ている物を一枚脱ぐという、脱衣将棋である。
既に五回の勝負を終え。俺の五戦全勝、六回目の勝負ももう直ぐつきそうだ。
「待った」
「待ったは無しだよ。ワンユお姉ちゃん、騎士らしくないよ」
「うッ。まいりました」
「それじゃあ、僕の勝利だね」
「くッ。殺せ」
「いや、殺さないよ。人聞きが悪い。さあ脱いで」
「相変わらずツキヒロ様は容赦ないですね」
脇で見ていたティモカが茶々を入れる。
「そんなことないよ。だけど勝負は真剣にやらないとね。ねえ、ワンユお姉ちゃん」
「と、当然だ。えい」
ワンユは最後に残った下着を取る。下着というか褌だね。上も晒を巻いていたし。ほんと武士って感じだ。もっとも今は晒に隠された大きな胸が露わになり。下にも何も着けておらず、唯の露出狂の女の子だ。
「ツキヒロ様、次の勝負だ」
「次の勝負って。ワンユお姉ちゃん、もう脱ぐもの無いじゃん」
「もう一戦、もう一戦だけだ」
「さっきも、そう言ったじゃん。第一、もう脱ぐもの無いのに何を賭けるの」
「この髪を賭ける」
ワンユは、後ろに束ねてあった長髪を肩越しに前に垂らす。
「女の子がそんな事しちゃ駄目だよ。そうだな、それじゃあ下の毛でいいよ」
俺は、ワンユの下の毛を指さす。
「そ、それは」
「そこの毛なら普段見せる訳でもないし、髪の毛の様に困らないでしょ」
「そ、そうなのだが」
「別に僕は無理に勝負したい訳じゃないんだよ」
「わ、分かった。それで勝負をお願いする」
「本当にいいの」
「うむ。騎士に二言はない」
「それじゃ始めるよ」
勝負は序盤俺が少し手を抜いてやったため、いい勝負となっている。少しはハンディをやらないと、何度も一方的に勝っていても面白くない。駒落ちでやろうというのにワンユはそれをよしとしないのだ。本当に面倒くさい。
勝負が白熱しているため、ワンユは真剣だ。いつの間にか椅子の上で胡坐をかいている。自分の今の格好を忘れているようだ。自然、俺の視線はそこに釘付けになり、段々と形勢が不利になってきている。
「フフフ。ツキヒロ様、今回は拙者が勝てそうだぞ。これでどうだ」
ワンユは持ち駒の歩を俺の角の頭に打ち込んだ。
「ワンユお姉ちゃん。その手はなしだよ」
「ツキヒロ様、待ったは無しだぞ。これで勝負がついただろう」
「そうだね。勝負がついたね」
「遂に、遂に、ツキヒロ様に勝ったぞ。雪辱を果たしたのだ」
「ワンユお姉ちゃん、喜んでいるところ申し訳ないんだけれど」
「何だ」
「二歩でワンユお姉ちゃんの負けだよ」
「二歩?」
「そう二歩」
俺はワンユが指した歩を指さす。
「何でこんなところに歩が」
「ワンユお姉ちゃんが指したからね」
「ここにも歩があるが」
同じ筋に歩がもう一枚ある。
「元からあったからね」
ワンユは二枚の歩に何度も視線を行き来させる。
「そんな馬鹿なああああ」
「残念だったね。ワンユお姉ちゃん。さあ、お風呂場に行こうか」
「な、な、何でお風呂場に」
「騎士に二言は」
「・・・ない」
「ほんと、ツキヒロ様は容赦ないですね」
脇で見ていたティモカが再び茶々を入れる。
俺は項垂れるワンユを風呂場に連れていくと、M字開脚で座らせて、下の毛にお湯を馴染ませてから石鹸を付けてよく泡立てた。その後、剃刀で奇麗さっぱり剃っていく。
ジョリジョリ。ジョリジョリ。
最後に残った石鹸をお湯で流して、完成である。
「はい、ワンユお姉ちゃん、つるつるになったよ」
「う、う、う。もうここまで来たら失うものは何もない。ツキヒロ様、もう一勝負だ。今度は私の卵を賭ける」
ワンユは自分のお腹に手を当てている。
「卵って、その卵の事。僕は男だから卵を貰っても困るよ」
「なら、拙者が子種を貰って生もう」
「えー。そんなの賭けにならないよ」
「ここまでされたんだ。責任を取って貰わねば」
「自業自得じゃないか。僕の責任じゃないよ」
俺は風呂場から逃げ出す。
「こら、待て」
「待てないよ」
二人で部屋の中を追いかけっこである。但し追い駆けて来るのは全裸の痴女。
「二人ともいい加減にしなさい」
カグヤに怒られてしまった。
「ワンユは今後賭け事禁止です」
「そ、そんな」
「ツキヒロも、おふざけが過ぎますよ」
「はい、すみません」
「いいですか、二人共よく聞きなさい。ツキヒロの子種は全て私の物なんです。だから、勝手にかけてはいけません。いいですね。勿論、飲むのも駄目ですよ」
「はい、すみませんでしたカグヤ様」
何か“かける”の意味が違わないか。それに飲むって何だ。
「ツキヒロは分かりましたか」
「はい、分かりました」
納得いかないがそう答えておいた。
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