誕生パーティー1

 

「ふぅ、まったくあいつらも口うるさいものだ」

「まぁ、わたくしたちがほんの少し熱中してしまったのも事実ですもの」

「それもそうだが…」


 あれから私のことを褒め続けたあげく、撫でくりまわした結果、せっかく可愛く仕上げましたのに!と、メイドたちは悲鳴をあげ、説教されるととなった。

 もちろん私は含まれていない。


「そんなことより、ターシャの最終確認をしましょう?」

「そうだな」


 そして、メイドたちに髪飾りの位置やらを弄られて私の準備は終了した。


「さぁお嬢様、できましたよ」


 そう言ってメイドの1人が私の前に姿見を出す。

 すると、なんとまぁそこにはとてもとても愛らしい女の子がきょとんとした顔でこちらを見ていた。

 雪のような白い肌に大きく真ん丸としたルビーの瞳、花弁のように赤く色づいた唇がバランス良く置かれ、軽くウェーブした白銀色の髪は小さくふたつに結われている。

 身に纏っているのは薄い桃色の生地に袋状になったチュールスカート、そこに花びらを閉じ込めたドレス、私がさっき選んだものだった。


 つまり、この女の子は鏡に映った今生の私ということになる。

 父様や母様、兄様の容姿を見て私もそれなりの美形だろうとは思っていたが、これは…想像を遥かに超えていた。


 前世での私は自分で言うのもなんだが、割と綺麗な顔をしていた。だが、今の私は綺麗というより可愛いの部類に入るだろう。

 これは父様たちが褒めちぎるのも仕方がないと言える……恥ずかしいことに変わりはないのだが。


《だから言ったでしょう?ふふん》


 アノスが得意げに言ってくるがこれは無視していいだろう。

  なんだか日に日に人間くさくなっている気がする…


「あらあら、鏡をそんなに見つめてどうしたの?初めて見るからびっくりしちゃったのかしら?」


  呼びかけられ鏡に映る母様え向けると、その顔にはにんまりとした笑が浮かべられていた。その笑の意味がわからず、首をかしげているとそれは父様も同じだったようだ。


「どうしたんだ?なんだか楽しそうだな」

「あら、顔にでていまして?えぇ、楽しいですよ。だってターシャが珍しく子どもらしい反応をするんですもの、可愛くて」

「あぁ、確かに。いつもの少し背伸びしたような姿も愛らしいが、こうして子どもらしい姿も癒されていいな」

「でしょう?」


 私が鏡に驚いている──実際は微妙に違うのだが──姿が面白かったようだ。

 普段から子どもっぽく振る舞っているつもりだったのだが、どうやらあまりうまくできていなかったようだ。


 それからおよそ10分ほど雑談していると、メイド長のジゼルが招待客の入場が終わったと報告しに来た。

 いよいよ入場…パーティーのはじまりだ。いくら内々のものだと言っても相手は貴族、気を引き締めなければ。



 使用人たちによって開け放たれた扉。そこから見えるのはきらびやかな衣装を身に纏った紳士淑女の方々。

 そして、その者達は一様にこちらを見ている。私は父様に抱えられ階段を降りる。気づかれないようにそっと目だけで会場内を見渡すと、様々な人がいることがわかる。

  興味深そうに見る者や微笑ましげな視線を向ける者、品定めをするような視線を向ける者、何に対するものか分からない羨望の眼差し。


  階段を降りきると私は父様に下ろされる。すると、会場の所々からおぉ、という声が聞こえる。


「本日は我が娘、ナターシャの誕生会に来ていただき感謝する。長々と話してもつまらぬだろう、今宵はどうか楽しんでくだされ」


  父様が軽く礼をすると会場内は拍手に包まれる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その後は、客人たちが次々と列をなして私に対する祝いの言葉を父様に告げてくる。

 むろん、その相手をするのは父様と母様だ。私は何もしない。

  いくら通常の子どもより話すことができるといっても、ただの──少しチートはあるけどそれは関係ない──1歳児なのだから。

  ダンスや貴族の相手など出来るわけがない。だが、流石に暇だ…私の誕生会、されど私は何もすることはない。

 こんなことならアノスと魔法に関する勉強をしていたかった、とついむくれてしまう。


「まぁ、可愛い」


  聞き覚えのない声に顔を上げると、そこには1人の女性がいた。

  宝石のごとく輝いた金色の髪を編み込み、ややつり目がちな柘榴色の瞳をこちらに向けている女性。

 どこか母様に似ていると思うのは色彩が同じだからだろうか。


「ルビーの瞳はチェシー、白銀の髪は公爵殿かしら?本当にそっくり、可愛いわねえ」

「これは大公夫人、ようこそおいで下さいました」

「まぁ!いらしてくださったの?イザベラ姉様」

「当然ではなくて?大事な従姉妹の娘の誕生会なのだから」


 どうやらこの女性…イザベラは母様の従姉妹らしい。どおりで似ているわけだ。


「ふふ、初めまして。わたくしはイザベラ・ルツォ・スタリアス、貴女の母フランチェスカの従姉妹よ。よろしくね?」

「おはちゅにおめにかかりましゅ。えるゔぃん・ふぉん・てすたんとのむしゅめ、なたーしゃ・ふぉん・てすたんとでしゅ。おあいできてこうえいです」


 噛みまくった…イザベラも黙ったままだ。

  恥ずかしくて俯いてしまう私に対して、イザベラはふふ、と笑って頭を撫でてくれた。


「きちんとご挨拶ができて偉いわ。ほら、お顔を上げて?もっとわたくしにお顔を見せてくださる?」

「…あい」




 …いや、確かに顔を見せてくれとは言われたが、あまりにもジッと見つめてくるものだから思わずへにょんと眉が下がってしまう。


「イザベラ姉様、そんなに見つめてはターシャも困ってしまいますわ」

「あら、ごめんあそばせ、あまりにも可愛いものだから」

「わかりますわ」


 イザベラの言葉に助けに入ってくれた母様まで深く頷いてしまう。

 助けを求めてずっと黙っている父様に目を向けると、父様も私を見ながら目を細めていた。いつもの表情だ。

  どうしたものか、と視線をさまよわせていると、客人たちよ間から一直線にこちらへを向かってくる少年が見えた。


「──母上、何をしておられるのですか。あまりご迷惑をおかけしてはいけませんよ」

「あら、迷惑なんてかけていないわ、失礼ね。可愛げがなくってよ、ナターシャ嬢を見習ってはどうかしら?」

「その可愛いナターシャ嬢が困っておられるのですよ」


 少年にそう言われて、イザベラは私が困り顔になっていることに気がつき、きまり悪げにプイっと顔を背ける。可愛らしい人だ。


「母がご迷惑をお掛けしました」

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だから私は… @7USAusagi7

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