第1章
公爵令嬢は大変だ
「それではお嬢様、こちらとこちらのドレスどちらのドレスがよろしいですか?」
「こーち」
私は目の前に差し出された2着のドレスを見比べて指をさす。こっちと言ったつもりなのだが、まだ舌がうまく回らず子供のような喋り方になってしまう。いや、子供ではあるのだが…
そんな私にデレっとした顔をしているのはフィオナだ。フィオナは元気の有り余った、ドジで少し頭の残念な私付きのメイドだ。
何故こんな状況になっているのかというと───
━約30分前━
「ターシャちゃーん?今日はそんなことしている場合ではないでしょー?」
「う?」
いつものようにフィオナに手を引かれながら歩く練習をしていると、母様が入ってきた。
「う?じゃなくて、今日はターシャちゃんの誕生パーティーでしょう?」
「あい」
「じゃあ、なんで今あんよの練習してるのかしら?」
「う?」
今日は私の誕生パーティーだ。それは知っている。
なんだか母様と話が噛み合っていない気がする。私がすることなどなにかあっただろうか?
「もー準備よ、準備。お着替えしたり髪を整えたり、いろいろあるでしょう?」
「いまからでしゅか?」
母様の言葉を聞いてびっくりする。まだパーティーまでは3時間ほどもあるのに、母様の言い方だと今から準備をしなければならないということになる。
聞き間違ったのかもしれない。そう思って母様に恐る恐る聞いてみた。かんでしまうのは仕方が無い。
「えぇ、そうよ。女の子は準備に時間かかる生き物なのよ。わかったなら早く行きましょう?メイドたちが待っているわ」
「あ、あい」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして冒頭に戻るのだが…
想像していたよりも大分面倒くさい。ドレスを選ぶだけなのに30分以上かかって、やっと今決まったところだ。
この後は装飾品を選び、靴を選び、そして着替えるそうだ。
「ではお嬢様、この中の装飾品のどれがよろしゅうございますか?」
「んー…こえ」
「ターシャちゃん、こっちのほうがいいのではないかしら?」
「やーでしゅ、こえにしましゅ。」
時間がかかるのは母様のせいでもあるかもしれない。
今も私が選んだものとは別のものを勧めてくる。ドレスを選ぶときもそうだった。
私がやや落ち着いた感じのものを選ぶのに対して、母様はザ・お姫様という感じのものを勧めてくるのだ。
決して嫌なわけではないのだが、この系統の服は前世での私には似合わず、着ていなかったのでつい気が引けてしまうのだ。
そして、約1時間かけて身につけるもの全てを選び終えた。ようやく着替えだ。
あと少しで終わる、そう思っていたのだか…
「さぁ、始めてちょうだい」
「「「かしこまりました、奥様」」」
母様の声に応えたのは3人のベテランっぽいメイドたちだった。
何故、何故着替えに3人も必要なんだ…?
「「「それではお嬢様、ご覚悟なさいませ」」」
「…ふぇ?」
気がついたら私は、笑みを浮かべたメイドたちに囲まれていた。
思わず顔が引きつってしまった私は悪くないと思う。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あうー」
「終わりました、奥様」
「まぁ!まぁまぁ、なんて可愛いのかしら!いつも可愛いけれど、今日は可愛さに磨きがかかっているわ」
そんなに変わっているはずはないのだが…なにせ私は1歳児だ。化粧などしないし、肩より少し短い髪は平均よりも伸びるのは早いかもしれないがそれでも結い上げられるほどの長さでもない。
髪型や服装が違うだけでそんなに劇的変化はしない…はずだ。
ここが異世界であるということと、まだ転生してから鏡を見ていないということが私の自信を損なわせる。
《とても可愛いらしいですよ、ナティ》
──…見えるのか?アノス
《見えますよ。私も日々成長しているのです。ナティに名を与えられ、それを世界が認めてくださったので、私はナティの異能兼個人となりましたから。
ナティを見ることが出来るのは、感覚を転移させているからですね。》
──感覚を転移…そんなことが出来るのか?
《できますよ。神にナティのステータスを複製して頂いたので、私にもステータスが出来ましたから》
──どうせまたエデンだろう?なんというか…いいのか?こんなに贔屓して
《良いのです!ナティは神々の愛し子なのですから、この程度のチートなら全然問題ありません!》
──そ、そうか?
というか、チートなんて言葉どこで覚えてきたんだ…
《地球の神です》
──…そうか。じゃあ、私のステータスを複製したということは私にも感覚を転移させることが出来るのか?
《もちろんです。これは、空間魔法のレベルを上げればできるようになりますよ》
──そうなのか?というか、レベルとはどうやって上げるんだ?
《そうですねぇ…まず魔力操作の練習、そしてレベルを上げたい属性の魔法をひたすら使うことでだいたいは上げることができますよ。
ナティも1歳になりましたし、今後は魔法に関することも練習していきましょうか》
──あぁ、頼む。ん?アノスは一体いつ練習したんだ?
《私は、その、ナティのことをサポートするならばこのくらい出来て当然だと神々に少し…》
──…大変だったのだな
アノスの声が震えて聞こえたのは気のせいではないだろう。
ふと、話し過ぎていたかと思い母様たちの方に目を向けると、まだ私のことを褒め続けていた。
時間は大丈夫なのだろうか?思わずため息を吐いてしまう。
すると、コンコンというノックの音がした。「入るぞ」そう言って入ってきたのは父様だった。
「チェシーどうしたんだ?あまりに遅いから心配したぞ」
「ごめんなさい、あなた。ターシャがあまりに可愛いものだから、つい…」
「ふむ、それならば仕方あるまい」
父様が私を見て目を細める。一見睨んでいるように見えるこの表情も、この1年で随分と読み取れるようになった。
この家に馴染めているということを実感する。胸が熱い。私はこの気持ちを一生忘れることはないだろう。
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