決意
色々なことがありすぎて疲れていたのだろうか?目が覚めたら朝日が昇っていた。
「あら、起きたの?…やっぱり泣かないのねえ。ナハトの時は朝昼晩問わず泣いていたから心配だわあ…それとも、女の子だからかしら?」
私の横にいた母がジッと私を観察しながら、眉を下げて心配する。
心配させるのも忍びない…尚且つお腹が空いていたので、泣いてみることにした。
「おぎゃーおぎゃー」
「あらあら、まあまあ、急に泣いてどうしたの?お腹がすいちゃったのかしら?ちょっと待っててね」
少々わざとらしがっただろうか?
棒読み気味になってしまったが、母はまったく気づいていないようなので良かった。
母はメイドにミルクの入った哺乳瓶を持ってこさせると、ベッドで横になっていた私を抱き上げて飲ませてくれた。
恥ずかしいが仕方がない。
私が飲み終えると、母はメイドを呼び、私を着替えさせるように言った。
「かしこまりました、奥様。
本日よりお嬢様付きになりました、フィオナと申します!どうぞ宜しくお願い致します!」
着替えさせてくれるのは、昨日見たメイドとは違う、随分と若い栗色の髪と瞳をした元気な子だった。
前世の私よりも年下に見えるので、15歳前後だろう。
フィオナに抱かれて行ったのは、可愛らしいドレスやワンピースなどがたくさん並べられた衣装部屋だった。
「それではお嬢様、お着替えいたしましょう」
そう言ってフィオナが選んできたのは、淡いピンクを基調としフリルがやや多めにあしらわれた可愛いワンピースだった。
前世ではあまり着たことがない系統の服だったので、少々戸惑いもしたが、公爵令嬢ともなるとしょうがないだろうという気持ちになった。
私が気持ちの整理をしてると、フィオナが突然、ほぅ…とため息のような息を吐いた。
「流石です、お嬢様!大変よくお似合いです!!まるで天使です!…はっ、もしかしてお嬢様は天使なのですか!?」
「あーうー」
あまりにキラキラとした目で言ってくるものだから引いてしまいそうになるが、一応褒めてくれているようなので、笑ってみる。
すると、フィオナは両手で胸を押さえて、はぅと変な声をあげた。
もしかしたらフィオナは頭の残念な娘なのかもしれないと思ったのは、秘密である。
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フィオナが落ち着いてから部屋に戻ると、父とナハトが母と一瞬に朝食をとっていた。
私が戻ってきたことに気がついた母がこちらへ来ようとしたがそれよりも早く父がこちらに来て私をフィオナから受け取り抱き上げ、ジッと見てくる。
「ナハトの時は私の顔を見ると泣いたのだがな…」
「ふふ、そうだったわねえ。あなたの鋭いの目つきは慣れてないと、睨んでいるように見えるもの。でも、ナハトが泣いていたのも最初の方だけだったわよ?」
「それでも、私の顔を見ると子どもが怖がることは確かだろう。だが、この子は全く怖がらない。」
「きっとあなたが実は、子供たちに泣かれる度にへこんでる可愛くて、子ども好きの優しい人だって分かっているのよ、この子は」
「む…」
ねぇー?と私に向かって言う母に対して、父は秘密をバラされて不満…というよりも照れているようだ。
そんなことを父と母が話していると、食事を終えたナハトがとてとてとこちらに駆けてきた。
「とうさまずるいです!ボクもナターシャをだっこします!」
「できるのか?」
「できます!」
「そうか」
「何を根拠にそんなことを言っているの…あなたも、ナハトができると言ったからと言って抱っこさせようとしないでください!危ないでしょう?」
あまりに簡単に私を渡そうとするので、母が呆れ顔で注意する。
「そうですよ、旦那様。それに、いくらご子息方が可愛いからといっていつまでものんびりされては困ります。執務が溜まっておりますよ」
静かに入ってきていた男性が父に言った。仕事しろと言っているところを見るに部下のようなものだろうか?
「む、今日くらいいいだろう。一応休日なのだから」
「ダメです。ここ最近お帰りになられたらすぐにお嬢様方の元へ向かわれるので、執務が溜まっているのですよ」
「あなた、あまり我が儘を言ってはイーサンが可哀想よ。それに、お仕事しているあなたはとっても素敵よ。ねぇ、ナハト?」
「はい!とうさまかっこいいです!!」
ムッとした父は母とナハトの2人が褒めることで機嫌を戻したようだ。
父は家族相手には思いの外ちょろいのかもしれないと思ってしまった。
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それからの日々は特に何もなく、泣いて、寝て、食べて、この世界や国の仕組みをアノスに聞いて学ぶという暮らしをしていた。
転生して早1年…明日で私は1歳になる。誕生パーティーも催すそうだ。
この約1年で、アノスには様々なことを教わった。
アノスによると、この世界では5歳になると協会へ行き、洗礼式を行うらしい。そこで神々からの祝福を賜り、属性が与えられるそうだ。
ナハトのステータスに加護や属性がなかったのはまだ5歳になっていないからだったのだ。
つまり、生まれたばかりで加護や属性を持っていた私は異例中の異例ということだ…。
他にもこの世界の最低限の常識は教えてもらった。
そして、暮らしていて気がついたこともある。…もしかしたら、私が愛されているかもしれないということだ。
それは、家族だけでなく屋敷のメイドや執事、護衛の者達も同じで、私がハイハイができるようになると、総出で喜び、ちょっとした言葉を発すると、天才だともてはやす。
前世では与えられなかった無償の愛というものに触れると、どうしようもなく胸が締め付けれて苦しい。だが、その苦しささえも最近では心地よいと感じる。
愛情を示される度にここにいていいのだと言われているようで、たまらなく嬉しくなる。
私がこの屋敷の人たちを大切だと思うのにそう時間はかからなかった。
だから私は決意した。この人たちを守れるように強くなるのだと…そのためならば、私はどんな事でもする。
その結果、ここにいられなくなっても、この人たちを守ることができるのなら私は潔くここから去ろうと───────
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