我が家の天使─エルヴィン視点─

 3ヶ月前我が家に娘が生まれた。息子であるナハティウムが生まれてくる時が難産だったため心配していたのだが、無事に生まれてきてくれてよかった。


 今日も仕事を早く終わらせ、帰ろうとしていたのだが…


「お、エルヴィンじゃないか、もう帰るのか?早いな!どうだ?これから手合わせでも」

「あぁ、グレン…やめておく。娘も生まれたばかりなのでな」


 面倒なやつと鉢合わせてしまった。思わず舌打ちしそうになる。悪いヤツではないのだが、こいつは脳筋で困るんだ…

 騎士団長であるこいつと手合わせなんてしていたら早く仕事を終わらせた意味がなくなるではないか。


「おぉ、そうだったか!娘か…可愛か?うちは息子ばかりだからなぁ、羨ましいぞ!そうだ、今度お前の屋敷に行くとしよう!娘を見せてくれ!」

「断る」


 娘を見せろだと?冗談じゃない。うちの子は可愛いのだ。もし気に入られて「ぜひうちの嫁に!」などと言われたらたまったものではない。こいつならばそれも有り得るのだから尚更会わせてなるものか。


「何故だ!?良いだろ?いちどだけでいいんだ!な?」

「断る」

「頼む!」

「断固拒否する」

「何故だ!?」

「お前が脳筋だからだ」

「なに?!」


 はぁ、このままでは埒が明かない…


「はぁ、わかった」

「本当か!」

「その代わり日時はこちらで決めさせちもらう」

「わかった!」

「ではな」

「あぁ、楽しみにしているぞ!」


 いつか、な。あいつが脳筋で助かった…これでやっと帰れる。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー




「おかえりなさいませ、旦那様」

「おかえりなさい、あなた」

「あぁ、ただいま。身体は大丈夫なのか?」


 帰宅すると妻であるフランチェスカが出迎えてくれた。チェシーはあまり身体が強くはない。だがそれでもこうして毎日笑顔で迎えてくれるのだ。すごく癒さる……


「えぇ、今日は魔力も安定しているし、熱もなくて調子がいいみたい」

「そうか。子供たちは?」

「ナターシャはさっき起きたばかりだから部屋にいるわ。ナハトは…あなたの出迎えをするために探していたのだけれど、見当たらなくて…この屋敷内にいることは確かなのだから、今手の空いているメイドたちに探させているわ」

「そうか…まぁまたどこかに隠れているのだろう」

「そうね」


 我が家の長男であるナハティウムは、ここ最近やたらと隠れるのに夢中らしい。なんとも可愛らしいことだ。


 そんなことを思いながら、愛しの娘がいるであろう部屋に向かう。



 部屋に着くと扉が少し開いていた。誰が開けたままにしたのかと少々怪訝に思ったが、犯人はすぐに分かった。


 部屋に入ってみると、そこには楽しそうに笑いあっている子供たちの姿があった。

  私たちが入ってきたことに気がつくと、ナハトがこちらへ駆けてくる。


「とうさま!かあさま!」

「まあ、ここにいたのね、ナハト。探したのよ」



 私の少し後ろにいたチェシーが隣に来てナハトに微笑みかける。なんとも癒されるその光景をナターシャがこちらを見ていることに気がつき、目を向ける。


 赤子だから当然なのだが、ナターシャが何かを言ってくることはなかった。ただこちらを、というよりもチェシーとナハトをじっと見ていた。


 何故そんなに見ているのか不思議に思って見ていると、ナターシャの表情が一瞬歪んだ気がした。


 だが、私は気のせいだったの思うことにした。赤子があんな表情をするとは思えなかった。だからその異様さから目を背けた。

 だが、職業病というか…ついつい自分の娘でも一瞬でも異様さを目にしてしまったら観察してしまう。




 するとどうだろう。うちの娘は本当に可愛い。そして面白い。急にため息のように息を吐いたかと思えば、こちらに目を向けて驚いたような顔をする。

その愛らしさに自身の頬が緩むのがわかる。


だが……


「泣かないな…」


そう、泣かないのだ。ナハトの時は1日に何度も泣いていた記憶がある。


「そうなのよ…さっき1度泣いたのだけれど、やっぱりナハトの時と比べると少ないわよねえ」


 心配だわ、とナハトと話していたチェシーが頬に手を当て、私の呟きに反応し答える。


「どこか悪いのかしら?」

「明日にでも医者を呼んでおこう」

「そうね、そうしましょう」


 2人でそんなことを話しているとナターシャに目を向けると、ナターシャは天使のように愛らしい寝顔ですやすやと眠っていた。そして、その隣にはいいこいいこ、とナターシャの頭を撫でているナハトがいる。


 あぁ、やはりうちの子供たちは…


「天使だ(ね)」


 チェシーと言葉が重なる。お互い目を合わせると小さく笑って子供たちのもとへと歩み寄る。そして、我が家にできた新しい家族の寝顔をあたたかく見守るのであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 余談だが、その日のテスタント家では、夕食の支度ができたと呼びに来たメイドを無視して赤子を見守り続け、側を離れようとしない夫婦をメイド長が半ば強引に引きずっている姿が目撃されたのだとか。

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