閑話 蘇るリヴァイアサン…?

西暦2022年4月1日 日本国


 この日、ある本が発売された。

『別冊宝船 自衛隊・異世界対応計画!』

 由緒ある予言の書メーカーもといこの手のムック本を出版してきた出版社の最新作だ。

 この日を心待ちにしていたマニアは多かった。何といっても予言の書とまで言われるほどに荒唐無稽な予想を的中させてきたトンデモ出版社である。10年前のマニアにDDHにF-35Bが載るなどと言っても笑われるのがオチであろう。しかし彼らはそれを的中させた。他にもF-3戦闘機などこうした事例が結構あり、おふざけに見えて実はかなり真面目なものを出してくることがよくあるのだ。それだけにこの久方ぶりの新作は期待されていた。

 明らかに狙った日付は予防線なのかなんなのか。ともあれ、マニアの他にもこの日を待っていた人々がいる。諸外国の大使館職員、情報収集にあたっている者達だ。

 彼らはよく理解していた。自分達の常識で日本の技術は、その最先端たる兵器は計れない。ましてその未来設計図ともなればなおさらだ。ならば、分かる者にやらせればいい。頼り切りになるのは危険でも、一定以上の参考にはなる。兵器の目指す方向性を知れば、あとは実際に可能なことから推測することもできる。

 様々な思惑に取り囲まれながら、問題の書物は発売日を迎えた。



「ふむ、これが噂の予言の書か」

発売日に早速手に入れたオージアの大使は、早速関係職員と分析にかかった。

「数の不足が指摘されていますね」

「それを質で補うことも、ですね。概ねどの分野でも『ねっとわーく戦闘』が謳われていますし、これは今後の日本兵器の傾向ということなのでしょうね」

「まぁ数があってもこれは欲しくなるな。数を効率的に利用するための手段なのだから。特にこの『まるちすたてぃっく対潜戦闘能力』なるものはとんでもないな、これは。潜水艦に親でも殺されたのか」

「殺されたんでしょうね。統合防空システムもすごいですね。我が国の目指す弾道ミサイル飽和攻撃も無効化されそうです」

「そしてミサイルよりも廉価な先進高速兵器…」

光線砲レーザー電磁砲レールガンですか」

「光線砲はともかく、電磁砲も基本的には対空用というのが興味深いですね。こんな強力な砲があれば戦艦の復権だって夢じゃなさそうなのに」

「レールガンは対地にも使うつもりらしいぞ。ほれ」

そう言って大使はあるページを開く。

「えっ…なにこれ…」

「レーダー対策らしいが実に異形だ。これが未来の戦艦ということだろう」

 そのページには、転移に伴い重視されると予想される対地攻撃能力を強化したミサイル護衛艦のイメージとして、アメリカのズムウォルト級駆逐艦の写真が掲載されていた。



「排水量10000トン、主砲口径155ミリの駆逐艦ですか」

「今は遠き軍縮条約を推進した連中が聞いたら憤死しそうですね」

 一方こちらはシライト帝国大使館。こちらでも分析が始まっていた。

「『この対地攻撃能力強化型のミサイル護衛艦は、ヘリコプター搭載護衛艦の空母化によって不足する懸念のある艦隊のヘリコプター整備運用能力を補うために、空母型になる前の旧来のヘリコプター搭載護衛艦と同等のヘリコプター運用能力を持つかもしれない』…ですって」

「しかも航空駆逐艦とは。どこぞの変態共が失禁しながら喜びそうですね」

「今から考えても流石に航空戦艦はないよなぁ…」

「戦時テンションって怖いですよね」

 そうとは知らずにさりげなく今自分達がいる国をディスりながら、彼らは分析を続ける。

「しかし本当にこれができたら、例の空母は垂直離着陸するジェット戦闘攻撃機を飛ばしてくるようになるわけか」

「機数は多くても16機程度というのが辛うじて救いでしょうか」

「しかしそれがこの電磁砲の弾着観測を行う可能性を考えるとなかなか恐ろしい。レーダーで捉えられない観測機ですから」

「そしてそうした航空機への対応すら可能なこのアマテラス統合防空システム(名前は予想)ですか…艦載するとか書いてるんですが…」

「元々導入予定だった対弾道噴進弾弾道ミサイル用防空システムが艦隊防空艦の高性能高射装置イージス武器システムの流用だったらしいことを考えると分からなくはないですが…」

「何より恐ろしいのがレーダーを分散するとか書いてあることだ。処理能力どうなってるんだ?オージアとハラーマの連中が言ってたあかしっくれこーどとかいうのでも使うのか?」



と、そんなことが各国大使館で行われていたその頃…





同日 東京都目黒区 防衛装備庁艦艇装備研究所


「…戦艦ンンンンン?」

 ここは防衛装備庁の、海上自衛隊の装備についての研究開発を行う艦艇装備研究所である。そこへ、とんでもない要請が出ていた。

「はぁ、そういや今日は…」

「いや、そういう話じゃない。上から来た真面目な話だ」

「…それこそエイプリルフールの冗談でしょう。例の新パワープラントと新兵装の試験艦だってあるのに、何が悲しくって昭和が歴史になったこの令和の御代に戦艦なんぞ造らにゃならんのです」

「まぁ聞け。戦艦というのはあくまで外交的な方便だ。本質は全く異なる」

 そうして上司は徐に語り始める。

「次世代のミサイル護衛艦にはAWSイージス武器システムに代わる艦隊防空システムが必要だ。むらさめ型とたかなみ型の後継となる次期汎用護衛艦にも載せるためにも目下鋭意開発中なわけだが、こいつは当然にして単なる艦隊防空システムじゃない。統合的な武器管制システムであるAWSをさらに発展させた、BMD弾道ミサイル防衛も含むIAMD統合防空ミサイル防衛、マルチスタティック対潜戦や対地対艦の巡航ミサイルを使用した陸海空統合作戦の総合的な管制にも対応するものだ。つまり、空のヤタノカガミと共に非公式にクサナギと呼ばれ始めているこいつの旗艦仕様は統合作戦指揮能力も持つ」

「そりゃわかってますよ」

「よく考えてみろ、現代の肥大化した統合作戦の指揮が可能なほど強力な指揮機能を持つ艦が一体どれくらいの大きさになると思う?」

 問いかけられた部下はふむ、と数秒考えて口を開いた。

「ひゅうが型の船体を流用したくなるくらいには大きくなるでしょうな」

「そういうことだ。そこで流用する船体をいずも型に拡大してこいつを載せられないかという話が持ち上がった」

 そう言うと上司は素早くスマホを起動し、ある写真を見せた。それは世間一般には出回っていないものだった。

「これは…戦略長距離砲SLRCですか?」

米陸軍が開発中の戦略長距離砲は、1000マイル、つまり1600キロメートルというとてつもない射程を誇る大砲だった。

「そうだ。こいつで極超音速誘導砲弾をぶっ飛ばすわけだが…これを本邦も造るつもりらしい」

「本気ですか?これいつものメリケンの『砲のほうが安いじゃん』症候群じゃないんですか?」

 訝し気な部下に対して、上司はさらにとんでもないことを言い出した。

「あるだろう、ちょうど噂になってるやつが。元々弾道飛翔したり極超音速で飛んだりするものに載せる予定のやつが。こいつに載せたくなるような単発超火力で火力あたりのコスパがいい弾頭が」

「それは…」

 つまり、核弾頭である。

「本気で戦略兵器として使うと?」

「全てを今から新しく始める戦略原潜よりは安かろうからな。技術的にはノウハウがないもの同士どっこいだが、保険はあったほうがいいってのも道理ではある。しかも通常砲弾やロケット推進誘導砲弾を使えば本物の戦艦より長い射程、かつ並のミサイルより高速に、並じゃないミサイルより安価に対地支援攻撃もできるからな。通常弾頭型トライデントが頓挫したように政治的に面倒な弾道ミサイルと違って、こいつはスクラムジェット推進極超音速長射程誘導砲弾さえ装填しなけりゃただの砲だから平時にも潰しが利く。やろうと思えばBMDにも使えるだろうって話だ」

「ちょうど敵地への攻撃能力は要求されてますからね…揚陸支援としてはもちろん、それだけの射程があれば地上部隊の支援もできるでしょうし、トマホークよりも迎撃は難しいでしょうから単体での対地攻撃にも使いやすいですね」

「そうなる。勿論金がかかるだけで飾りにもならん装甲なんかない。本来の戦艦とは全く異質な戦艦のような何かが、本来の戦艦が失った戦略兵器としての価値を持つってのは皮肉が効いてて嫌いじゃない」

「で…まじで詳細詰めるんですか、コレ…」

「…上からの指示だからな。検討するぞ、マジで」


かくして、こんごう型ミサイル護衛艦やあたご型ミサイル護衛艦の後継となる、かもしれない略長距離砲搭載護衛…略しての簡易な案が作成された。



BCGH(X)


全長約240メートル

全幅約30メートル

基準排水量約23000トン

満載排水量約30000トン

国産ガスタービン主発電機(30MW) 4基

M7A-05ガスタービン発電機 4基

統合電気推進(IEP)

速力30ノット以上

クサナギ統合武器システム

新型高性能多機能レーダーシステム(仮称OPY-3)

OQQ-21発展型統合大型ソナーシステム(仮称OQQ-27)

マルチスタティック戦術用衛星通信アンテナetc

統合作戦指揮機能

SH-60K/Lヘリコプター4機搭載


武装

戦略長距離砲(仮) 三連装2基6門

Mk45 Mod4 5インチ砲、または155ミリ級の新型砲 2門

Mk41 VLS 128セル程度

 SM-3BlockⅡA、または国産迎撃ミサイル(8~16発)

 A-SAM新艦対空誘導弾(64~80発)

 07SUM(07式垂直発射魚雷投射ロケット)、またはLRSUM長射程アスロック(32~48発)

 12式地対艦誘導弾(改)/能力向上型、またはSSM-4島嶼防衛用新対艦誘導弾の其々艦載型(8~16発)

40mmCTA対空機関砲システム艦載型、または57mm以下の小口径CIWSレールガン、ないしはその両方 4~6基程度

戦術レーザーシステム(対空対舟艇両用) 4基程度

324mm三連装短魚雷発射管 2基



「完成ッ!戦(略長距離砲およびヘリコプター搭載ミサイル護衛)艦ッ!!」

「おい誰だ巡洋戦艦BCにしやがった奴は。戦((略)護衛)艦だって言ってるだろいい加減にしろ」

「魚雷が足りなくないすか?この規模の戦闘艦ですよ?絶対ヤツら(※潜水艦)が群狼してきますよ?」

「落ち着け、4機の哨戒ヘリとひゅうが型譲りのクソデカソナーとついでに僚艦とそのヘリでマルチスタティック対潜戦ができるんだ。絶賛開発中のATT対魚雷魚雷が完成するまでこれ以上魚雷発射管を生やすのは自重しろ」

「じゃあ搭載余地入れときますね」

「それでいい、あとはお上が判断後日搭載するするとは言ってないだろう」

「しかしまぁ…よくもこんなふざけた始点からここまで痒い所に手が届くというか、必要とされているものが揃うフネができましたね」

「戦略長距離砲搭載のための船体の大きさに飽かせて詰め込んだとも言うな」

「余裕があるってのは強いですね、やっぱり」

「まぁカネを無尽蔵に使えりゃ大抵の問題は解決するからな。政治案件はそういうところがいい」

「それにしてもですよ。F-35Bを運用するいずも改型に不足する懸念のある艦隊の哨戒ヘリの整備運用能力を(しらね型以前のDDH程度には)補完できて、さらにそのいずも改型を守る護衛艦からなる打撃群の旗艦足りえる戦闘能力と指揮能力があって、なおかつ求められている対地攻撃能力と戦略打撃能力をも備える…どうしてなかなか、悪くないじゃないですか」

「いずも改型に載せたF-35Bでターゲティングできりゃ戦略長距離砲や陸が開発中のSSMの長射程だって活かせるしな。見た目は戦艦(戦艦には最低6門の主砲が必要とされる)だから外交的な意味も発生する」

「なんだか傑作に見えてきやがりましたよ。おお怖い」

「ま、珍兵器には違いないが、それでも今の俺達が必要としているものではあるんだろうさ。兵器ってのはそういうものだ。必要に、需要に適ってりゃどんな奇怪なモンでも半端なモンでもいい加減なモンでもいいんだ。間に合えばな」

「間に合うんですかね、コレ…」

「まぁ怪しいが…戦略長距離砲と電子機器以外は一応既存のものだけでも建造できなくはない」

「そういえば護衛隊群増える話もありましたっけ?」

「ホントに増やせんのかねぇ…」

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