第一章 7.2

 アメイヤ暦2996年7月9日 オージア連合王国領西方植民地


(「このあたりなんだよな、オージアの兵隊さんと警邏のおっちゃんたちがいなくなったのって」)

(「そうよ、気を付けて進まないと」)

 ここはオージアで西方植民地と呼ばれる領域の北部の海岸沿い、ニマという都市の貧民街スラムである。

 ニマの町では、最近になって異国の奴隷商人が現れたという噂が立っていた。町の住人や旅人が幾人か姿を消しており、人攫いにあったのではないかとも言われている。

 そのため、自治政府はオージアの統治機構に掛け合い調査を行うことにした。

 調査の結果、人身売買組織のアジトはこの貧民街の中にあると判断され、昨日オージア陸軍の小隊と自治警備隊の小隊が捜査の為送り込まれ、全員が忽然と姿を消した。自治政府は直ちに警備隊を大規模に増派、加えて市井から「冒険者」をかき集め、アジトの調査と消えた部隊の捜索の為送り込んだ。

(「けど手がかり一つ見つかりませんね」)

(「まったくだ、奴隷商のアジトなんかねぇんじゃねぇか?」)

 ひそひそ声で話すこの少年少女たちも、そうした冒険者の一党パーティであった。犬系獣人の「剣士」の少年、梟系鳥人の「賢者」の少女、小人の「僧侶」の少女、狭義の人間の「魔法剣士」の少年の4人である。前衛2人後衛2人のバランスのとれた一党で、まだ若いながらもいくつかの大きな武勲を持っており、優秀とされているため今回の調査に加わることができた。


 ちなみに「賢者」や「僧侶」、「魔法剣士」というのは所謂ファンタジー的な意味での「職業ジョブ」である。それらは伊達や酔狂で名乗るものではなく、今の西方植民地一帯に影響力を持つ宗教勢力が、宗教的な儀式によって個々人の素質を見出し認定している。そのため地元では普通に職業として通用するが、オージア社会における公的な彼らの職業は冒険者、すなわち傭兵である。

 「冒険者」というのは武器を持って魔物や盗賊を倒す職業である。現在は対人、つまり盗賊など犯罪者の検挙は自治政府管轄の自治警備隊や、その上に存在するオージア本国から派遣された軍の警察機構「憲兵」が行うものとされているため、彼ら冒険者は専ら魔物を狩っている。ある意味「狩人」であるが、魔物は獣とは言い切れないものも多いため、元々の性質も鑑みてオージア行政における扱いは「傭兵」となる。

 植民地住民の武装を許しているという問題はあるが、植民地になる過程で叩き潰した元々の国の軍隊は銃砲を持っておらず容易く蹴散らせたため、また頻発する魔物禍への対処を住民に自発的に行わせる元々の社会システムのほうが、本腰を入れて統治するのでなければ安上がりであることから、オージア政府においては命を投げ捨てる武装蜂起を起こさせるほどの搾取をしなければ問題ないとされている。


 閑話休題。

 種族も職業ジョブも異なる冒険者の少年少女たちは、半ば以上敵地と言っていい貧民街の路地を慎重に進んでいた。

(「ほんと、貧民街にしちゃ立派な建物だな」)

 外観こそ周囲の景色に溶け込む程度にみすぼらしくなっているが、二階建ての立派な屋敷が近くに見える。廃屋敷、彼らの目的地の一つだった。

(「悪党のアジト候補の一つね」)

(「近づきすぎず、遠巻きに観察しよう」)

 十分以上の警戒だったと言っていいだろう。だからこそ、彼らは敵の不意打ちを未然に防いだ。

(「…結構な数の人間の臭いがする。警戒を」)

(「待ち伏せか」)

(「確かになんだか張り詰めた空気ね」)

 4人が得物を構えて戦闘態勢に入ると同時に、その全周囲を囲むように多数の男達が現れた。

『おっ、女がいるぞ』

『羽根付きは上玉じゃねぇか』

『チビのほうもそそるなァ』

 如何にもならず者といった風体の様々な種族の男達が、口々に下卑た声を上げた。しかし、冒険者の少年少女達はその様子を察することはできても、ならず者共の話す言葉の意味を理解できなかった。

「…異国の言葉?オージア人でもないな、なんだこいつらは」

「なんでもいいわ、想定していた通りの襲撃よ」

「そうだな、さっさと片付けよう」

 4人は慣れた動きで戦闘を始めようとした。獣人の「剣士」は敵を選び、人間の「魔法剣士」は強化魔法を、小人の「僧侶」は加護を、鳥人の「賢者」は氷の攻撃魔法を使おうとして…

「「「魔法が使えない!?」」」

「なんだって!?」

 彼らは十分に警戒していた。故にこれは彼らの油断とは言い難い。しかし今や彼らは理解した。自分たちが想定を遙かに超える危険な状況に陥っていることを。

『今だ、やれ!』

「きゃっ!?」

『おらぁ!』

「ちぃっ、ぐあっ!」

『ははは、いいぞ!』

「このっ、くそっ!みんな!」

 しかしその理解を活かすより早く、ならず者共は動いた。即座に後衛魔法職の少女2人は取り押さえられ、前衛の少年2人も多勢に無勢、たちまちのうちに無力化された。

『む、犬野郎は死んだか』

「ラルフ…うそ…ラルフ…いやああああああ!!」

 乱戦の中で兜が外れてしまい、複数人から強かに頭を殴られた獣人の少年は、一目見てそうとわかるほど酷い外傷を負って事切れていた。

『ぐへへへへへ、思った以上に上玉だな』

「えっ…いや…いやぁぁぁあああ!!」

『へっへっへ、ちょうどいいや。商品はともかく立ちんぼにも正体がばれるってんで手ェだせなくて溜まってたんだ』

「やめろ!二人に触るな!」

 ならず者共が下卑た笑い声を上げながら、捕らえた少女たちを剥こうと群がる。人間の少年の抗議も空しく、少女2人の尊厳が踏みにじられようとしていた。

『何を遊んでいる。さっさと殺せ』

 そこへ、全身をフード付きのローブで覆い隠した人物が現れた。フードから僅かに覗くその顔は、黒い肌をしていた。その声は女の声だったが、無機質で、圧力を持っていた。

『なんだよいいじゃねぇか、俺たちだって溜まってるんだよ。あんたらもそこの小僧もらっていけばい』

 男が言い終わるより早く、ローブの女は持っていた小さなロッドを人間の少年に向けた。喚いていた少年は数瞬のうちに糸が切れたように動かなくなった。

『さっさと殺せ』

『まぁ待ちなって』

 ローブの女が再び圧力をかけると、そこへ別の女の声が割って入った。ローブの女が首を向けると、そこにはいかにも盗賊団の女頭領だとか、そんな身なりの人相の悪い女がいた。

『『『お頭!』』』

『うむ。よくやったね、お前たち』

 ならず者共からお頭と呼ばれた人相の悪い女は、ならず者共に答えるとローブの女へ向き直った。

『いいじゃないのさ、たまにはこいつらにもやる気ださせてやらないと』

『被発見のリスクを上げるだけだ。そうなればお前達も無駄に死ぬことになる』

『士気が下がる方がリスクは高くなるんじゃないかね?』

 しばらくの間、2人の女は睨み合っていたが、やがてローブの女が煩わしそうに溜息を吐いた。

『…もし逃げられるか、敵が迫っている状況で声を出されたら、お前たち全員を殺して我々は撤退する』

『だとよ』

『『イヤッホォウゥゥゥゥ!!』』

 殺気を込めた指示を出し、ローブの女は去っていった。ならず者共が野太い歓声を上げながら、捕らえた少女たちを引っ立てて後に続く。呆れ顔の女頭領が最後尾を行くこの奇妙な一団は、冒険者達の監視対象であった廃屋敷の中へと入ってゆく。

『おーい、お前ら来いよ!女を捕まえたぜ!!』

『なんだって!?よくやったぞお前ら!』

『さぁて祭りだ!早速いただくぜぇぇぇ!』

「い…いやああああぁぁぁぁ!」

『うへへへへへへ!』

「やだ…やめ…きゃあああああああ!」

 廃屋敷のホールに入るなり、ならず者共は屋敷の中にいた仲間も呼び寄せてお祭り騒ぎを始めた。

(ヒトモドキのクズ共が…なんだってこんな口ばかり達者なトーシロー共のお守りをせにゃならんのだ)

 男共の下卑た声と少女たちの悲鳴を聞き流しながら、ローブの女は屋敷の奥へと消えていった。





 3日後


 夜闇に包まれた貧民街を、黒装束の一団が進んでいる。動きの機敏なことに反して、足音、物音はほとんど聞こえない。その隠形は、魔法的・魔力的にも徹底していた。並の国の魔法界ではトップクラスの人材であっても見破れないだろう。闇に染み込み融けていくように、彼らは廃屋敷へと進んでいく。

 似たような光景は、貧民街の四方で見られた。闇の中で、廃屋敷は包囲されつつあった。


 狂乱の宴は人の入れ替わりを経ながらも三日三晩続いていた。ようやく得た欲望のはけ口に、ならず者共は夢中になって群がった。それまで溜まりに溜まっていたならず者共の獣欲を、2人の少女はその成熟しきっていない身体で休む間もなく受け止めさせられ続けていた。

 魔力探知機の様子を見に行こうと廃屋敷の中を歩いていたローブの女は、宴の行われている部屋の側まで来ていた。初日は悲鳴なのか嬌声なのかわからないような少女たちの声が聞こえた。だが次の日には辛うじてうめき声のような声が聞こえるばかりだった。昨日からはもう少女たちの声は聞こえなくなっていた。聞こえてくるのは野郎共の下卑た声ばかりだ。どうやら2人とも壊れたらしい。ならば情報漏洩のリスクも下がるであろうし口封じの優先度を下げるかと、部屋の前を通りながらローブの女は考えた。

 ローブの女は、ハラーマ帝国から奴隷の獲得と魔石鉱山の調査のためにやってきた工作員だった。彼女の他に3人の直属の部下がこの屋敷におり、現在は交代で魔力探知による見張りを行っている。本来ならばもっと早くに脱出するべきだったが、ならず者共に足を引っ張られてその期を逃し、ニマは都市の外周がオージア軍憲兵隊に張られていた。見張りはその隙を探すためでもある。

 ならず者共はハラーマ帝国の犯罪組織、簡単に言えばマフィアのようなものだ。彼らはハラーマ社会の下部構造に組み込まれた奴隷階級からドロップアウトした者達で、生きるためにあらゆることをしてきた。その一つが人身売買だった。奴隷制と人身売買は不可分、ハラーマ社会からはじき出された彼らもまた、生きるためにハラーマ帝国の社会を構成する一部となっている。

 ローブの女と直属の部下たちは奴隷階級の上の国民であり、魔術士である。彼女達はならず者共を酷く見下していた。それはならず者共に足を引っ張られてニマの町からの脱出の期を逃したことによって補強されてはいたが、ハラーマ帝国社会にて「国民」として生まれた者が自然と身につけるものでしかなかった。

 ローブの女は魔力探知機を置いてある部屋へとやってきた。そこには同じようなローブを着た2人の魔術士の女がいた。

「外の様子はどうか?」

「はっ、いささか奇妙なことがありまして、ちょうどお呼びしようとしていたところです」

 ローブの女、指揮官の魔術士の問いに、部下はそう答えた。

「奇妙なこと、とは?」

「…こちらを」

 部下は説明する代わりに、指揮官の魔術士に魔力探知機を見せた。それはものぐさではなく、合理的な判断である。上司である彼女のほうが魔術士としても格上であり、魔術装備の扱いにも長けていた。

「…これは!」


「中隊長、敵のこの動きは…」

「…ああ、これはバレてるな」

 目標の廃屋敷の中の敵の動きが妙に活発になった様子を見て、黒猫ブラックキャット分隊の分隊長と本作戦の指揮官である海兵空挺第3中隊の中隊長が言葉を交わした。

 オージア連合王国王立海軍海兵隊、空挺連隊第3中隊。通称はデッドリー・オリジン、これはとある地域の故事に由来し、200年も昔の海兵憲兵隊第1中隊から王立海軍海兵隊の最精鋭部隊に連綿と受け継がれてきた名前でもある。表向きにはオージア海兵隊空挺連隊の中隊の最精鋭にして、海兵隊と、海軍陸戦隊の歩兵向けの新装備や戦術の運用試験を行う部隊とされる。しかし実際には、高難度の非正規戦、非合法作戦に実戦投入されてきた。祖国のために闇に身を投げ、ともすれば戦闘力は高いが専門任務に特化している第1、第2中隊以上に、最も手を汚してきたオージアの最上位特殊部隊の一つである。

 《全隊に告ぐ。封止解除。敵がこちらに対応しようとしている。擬装を抜かれた可能性が高い。業腹だが敵の魔法技術は我が方より上と見るべきだ、よってハラーマ帝国の手の者と見て間違いはなかろう。いささか予想外の事態ではあるが、ここでそれだけの実力を持つ隠密性の高い敵を取り逃がした場合のリスクを考慮しこのまま押し切る。第2中隊ドラゴンスレイヤーズの真似事をするような形になるかもしれんが、我らが決して第2中隊に劣ることはないということを証明してやろうぞ》

 《了解!》

 日本製の部品を使い改良小型化された分隊用無線機で情報を共有し、第3中隊の2個小隊は廃屋敷へと静かに襲いかかった。


 激しい銃声が鳴り響いている。廃屋敷の外では戦闘が始まっていた。廃屋敷の中を、4人のならず者共が歩いている。

『ったく、敵襲だとぉ?せっかく人が楽しんでたってのによぉ』

『まったくだぜ、あーあの羽根付きの身体よかったなぁ、大分汚くなってたけど』

『どっちも穴はもうガバガバになってたしな』

『チビのほうはもうダメかもな、すっかり壊れちまった』

『そういう意味じゃ頃合いか、あーまた女が来ねえかなぁ』

 ならず者共が下種な話題に花を咲かせていた時、彼らの願いは叶えられようとしていた。実際、そこへは女も来ていた。そしてその女が、まさに彼らの背後から音もなく忍び寄っていた。2人の黒装束が、ならず者共4人のうち後ろにいた2人に襲いかかる。口を塞ぎ、目にもとまらぬ速さでやや細長い短剣を心臓へ突き刺し、抜いた。大きな音を立てずに死体になりつつあるものを素早く横たえながら黒装束2人は消音拳銃を抜き放ち、かすかな物音に反応して振り向きつつあった残る2人のならず者の頭部を撃ち抜いた。崩れ落ちるならず者へ素早く寄り、大きな音を立てないように崩れ落ちる身体を支えながら心臓を短剣で一突きし、確実に息の根を止める。流れるような殺戮は5秒とかからずに終わった。

「歩哨4、排除」

 黒装束2人の後ろから、さらに2人の黒装束が現れる。彼ら4人は頷き合うと、先へと進んでいった。


 外の状況は、ローブの女にとって酷いものだった。数を補うならず者共は、敵の火力を前にたちまちのうちにその数をすり減らしていた。あの女頭領も討ち取られたらしい。今やならず者共は逃げ腰になっている。

(チッ、あのクズ共、こうも役に立たないか!…いや、敵がそれだけ手練れということか。今までの連中とは明らかに練度が違う。さてどうする…)

 ならず者共を囮にして密かに抜けだそうとしていた魔術士達だったが、想定を上回る敵の勢いとならず者共の瓦解の早さに苛立ちを募らせつつも、大急ぎで撤収の準備を進めていた。それとわかる可能性のある魔術装備は徹底的に破壊して証拠隠滅し、すべきことをすべて終えた4人の魔術士が窓から廃屋敷の外へと出たその時だった。

「!」

『!』

 魔石を含む鉱石などが入った大量の物資箱が置かれた屋敷の壁と敷地の壁の間、その反対側に、4人の黒装束がいた。2人が魔術士達のほうへ銃を構え、残る2人は物資箱の中身を見ているようだった。銃口から光が迸り、銃弾の雨が魔術士達の防御結界を叩く。魔術士達は素早く物資箱の陰に身を隠し、反撃を始めた。汎用の杖から光弾が放たれるより早く、黒装束達も身を隠した。

(まさか敵がここまで侵入しているとは!表の派手な戦闘は敵にとっても陽動だったということか!)

 連続した銃声が、断続的に鳴り響く。4日前に交戦した部隊とは明らかに段違いの火力だった。そして魔術装備を破棄、隠滅した今の自分達に、それをひっくり返す有効な手段は少ない。指揮官の魔術士は覚悟を決めた。

「私が止める、援護を」

「「「了解」」」


 第3中隊の中隊長は、敵の1人が遮蔽物から飛び出し自分たちのほうへと突進してくるのを見た。

(突っ込んでくる?)

 分隊の仲間が撃ったMG5の7.62mm弾が突っ込んで来た敵を貫く…ことはなく、硬質なものが割れるような音とともに弾かれる。

(上位結界!だが魔力の乱れ、割れた)

 腰のホルスターへ手を回す。彼女が、その小さな手には大きい0.75インス口径テンセ自動拳銃を素早く抜くのと同時に、敵が遮蔽物を超え踏み込んでくる。

 直後、彼女の意識がぐらりと揺れた。

 飛び込んで来た敵の仕業だろう。その敵が短剣とともに飛びかかってくる。闇に沈みゆく意識の中で、訓練された身体と不屈の闘志が引き金を引いた。敵の身体が銃口に覆いかぶさる至近距離、放たれた高速FMJ弾が敵を穿つ。刹那、意識の沈降が止まる。迫りくる短剣を左腕で逸らしながら、その隙を逃さず間髪入れずに5連射。この至近距離だ、一発目は中ったのだから感覚で同じ位置の周辺に撃ちこめば一発は中るだろうという割り切りで中ったかの確認すらしない。

 沈降の止まった意識を無理やり引き上げる。今度こそ敵の像を確実に捕え、すぐさま心臓に2発、頭に1発、1秒とかけずに撃ち込んだ。かすかな風とともに、意識にかかった靄が晴れた。短剣とマガジンのどちらを取り出すかの選択のために、この敵が確実に死んだかどうかを瞬時に確認し、落ち着いて予備のマガジンを取り出した。敵が死んでいたのは幸運だった。確実を期すならば心臓に2発頭に1発と言わず何発でも死んだと思うまで撃ち込むべきだが、如何せん状況をひっくり返すために5発もばらまいたため弾の残りがなかった。

 危ないところだった、と彼女は思った。殺害と同時に眩暈が止まった、ということはやはりこの敵の魔法だったに違いない。かつて教官が好んで使用していた毒によるものではなく、酸素を奪う類のものだったのだろうと、彼女は当たりを付けた。

 ホールドオープンした拳銃のマガジンを素早く入れ替えながら、同じように意識を狩られかけていた分隊の3人が立ち直り、接近しつつあった残りの敵に確実に対処するのを視界の端で確認する。飛び込んで来た敵の身体に新たに開けられた9つの穴からは、赤い血がとめどなく流れていた。





 アメイヤ暦2996年7月28日 オージア連合王国首都アメイヤ 国務省統合本部庁舎


「めぼしい証拠品はなし、一部の行方不明者の救助成功、状況証拠は山ほど…か」

 北半球群島植民地から帰還したオージア連合王国の行政の長は、自らの宮殿でその件の最終的な報告を受けた。

「ご期待に添えず、申し訳ございません」

「構わん、これだけの状況証拠が揃った以上、こちらも対応を絞れる。それで十分だ。君も第3中隊の者達もご苦労だったな。ゆっくり休んでくれ、多分また忙しくなる。問題の2人の件については任せる、よきに計らってくれ。重ね重ねご苦労だった」

「はっ、ではこれにて失礼いたします」

 報告に来た武官が下がったのを見届けて、クロード・ユリア国務大臣は溜息を吐いた。

(「…この分では衝突は不可避だな。いささか火遊びが過ぎる。かつての我々を見ているようだ」)

 もう一度、彼女は溜息を吐いた。後には重苦しい沈黙だけが残された。

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