第一部 日本国の動揺
第一章 外患・水戦争
第一章 1 未だ見ぬもの
≪敵機を視認、数4!≫
≪アロー1、目標を目視で確認。これは…!≫
≪大型機です、爆撃機と思われ…いや、速い!≫
≪でけぇ…!≫
≪爆撃機並の大きさであの速さ、「成層圏の死神」です!≫
≪信じられん、こんなものが空を飛ぶのか!?≫
雲から「壁」がせり出してくる。ここは美しい南の海の水面より上空15000フィート、科学の常識でいえば「壁」などという場違いなものがあるはずがない。
≪アロー隊各機、すぐにAAM-3の射程内だ。スパロー発射後射程に入り次第AAM-3も発射、高度を上げて奴の上を通過する!デカブツにキスするんじゃないぞ!≫
≪アロー2了解!≫≪アロー3了解≫≪アロー4、了解!≫
≪≪≪≪FOX1!≫≫≫≫
矢が空を駆ける。
≪敵機、例の高速の飛翔体を発射した模様。直撃コース、複合障壁展開間に合いません!≫
≪まずいぞ、装甲強化は実体弾相手では効果が不十分だ!≫
≪艦長!≫
≪…「水」だ。「水」に絞って緊急出力で障壁展開、一枚でもないよりマシだ!≫
≪艦橋より機関室、魔力炉緊急出力!≫
≪了解!…お前ら、全力でぶん回せ!≫
≪第二甲板、「霧の冠」緊急展開!≫
≪第二甲板了解。詠唱開始…amenos…≫
≪「霧の冠」展開完了まであと10、9、8…≫
≪左舷、弾幕を張れ!≫
≪スパロー、間もなく着弾≫
≪全機、AAM-3発射用意…いや、攻撃中止!直ちに上昇!!≫
≪なんて対空砲火だ、戦艦かよ!≫
≪周りの雲がおかしい、警戒を厳に≫
≪5、4、3、2…≫
≪飛翔体、弾着来ます!≫
≪なんだ!?≫
≪展開完了!≫
≪雲、いや水の壁!?≫
≪総員衝撃に備えッ!!≫
「壁」の周囲の雲が蠢くと急激に収束し、空中に垂直な水面を生み出す。
直後、AIM-7Mが着弾。40キログラムの弾頭が炸裂し水の壁を突き破った。
≪スパロー、全弾命中!≫
≪やったか!?≫
≪ッ…被害報告!≫
≪…おい嘘だろ!?≫
≪…損傷軽微です≫
≪おいおいそんなのありかよ…!≫
≪曇りもしないとは…≫
≪複合障壁に組み直し第二撃に備えよ≫
≪敵機、急激に上昇、本艦上空を通過します!≫
≪高射要員、対上方射撃!反撃しろ!!≫
≪アリスピラー防空隊、いつでも行けます!≫
≪よろしい。 総 発 艦 ! ! ≫
≪うおおおおなんたる弾幕!≫
≪巨人機への攻撃の効果認められず…ッ!オウルアイよりアロー隊、敵巨人機が飛翔体を多数射出した、ドローンと思われる!≫
≪なんだと!?≫
≪逃がさんぞ…我らは後方の民を守らねばならんのだ、異分子はここで墜とす!≫
≪…おいおい、ありゃドローンなんてかわいいもんじゃないぞ≫
≪どういうことだ?アロー1、状況を説明せよ≫
≪…人間だよ、オウルアイ。人が生身で空飛んでやがる…!≫
≪…なん…だと…ッいかん、囲まれるぞ!アロー隊、離脱しろ!!≫
≪アロー1了解!アロー隊各機、反転し全速で離脱!!≫
≪アリスピラー防空隊、総員全力飛翔!異分子共を叩き落とすぞ!!≫
≪≪≪≪≪≪≪≪おおおおおおおおおおおおおおおお!!!≫≫≫≫≫≫≫≫
皇国転移 第一部 日本国の動揺
西暦2021年5月1日 神奈川県横浜市中区 大さん橋
「これでこの国は救われたな」
「ああ、オージアさまさまだ」
オージアからの食料を満載した転移後最初の輸送船団が、北半球群島植民地にてオージア連合王国ソベック公爵領軍第二艦隊群第二航洋艦隊より護衛を引き継いだ「遣異世界遭難外国艦及び外交使節船護衛艦隊」と共に東京港へ入港した。現在はお台場ライナー埠頭で積荷を陸揚げしているところである。
この日ここ大さん橋では、前年に行方不明になっていた最新鋭のミサイル護衛艦「いぶき」を外交使節ともども護衛してきた「遣異世界遭難外国艦及び外交使節船護衛艦隊」の旗艦、巡洋戦艦「ソベック」が、ホストシップのたかなみ型護衛艦「たかなみ」およびいぶき型ミサイル護衛艦「いぶき」と共に停泊していた。
巡洋戦艦「ソベック」は、オージア連合王国を構成する国の一つである「ソベック公国」ソベック公爵領の領軍(アメリカの州軍に近い)、その海軍第一艦隊に所属している。同型艦の建造が過大な予算とオージアの「転移」の影響で中止とされたことで同型艦はいない。全長約280メートル基準排水量約57000トン、50口径40センチ級の主砲を三連装砲塔で四基、計12門備え、重要部の装甲は自身の主砲弾に耐える。
「かつての」地球でもこれを超える戦艦は大和型戦艦の他は計画のみに終わったモンタナ級戦艦しか存在しない、巡洋戦艦とは名ばかりの強力な主力戦艦である。現在のオージア連合王国最新鋭にして最強の戦艦である「オージア級」4隻に次ぐ同国の力の象徴であり、日本との接触より少し前まで行われていた大戦争を戦い抜いた武勲艦である。巡洋戦艦を名乗るのも伊達ではなく、約200000馬力の出力を以って30ノットを超える高速を発揮、全長の長さに対して全幅は33メートルほどとスマートで優美な艦影を持つ。
その美しき「ソベック」艦上にて、高半総理大臣が出席しての記念式典が行われ、その後「ソベック」と「たかなみ」は一般公開された。オージアからの輸入はあるとはいえ燃料節約の必要から国内の交通には一部制限がかかっていることもあり、この一般公開は形式的・政治外交的な意味が強かったが、それでも首都圏を中心に大勢の人が異世界の軍艦を、そしてなにより多くの日本人が見たことのない「現役の『戦艦』」を一目見ようと押し寄せ、英軍艦の来日もかくやの大行列が生成されたという。
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