バスケットボール

 ミサとおれの共通点は「バスケットボール」。基本的にバスケでつながっていたのだ。

 ――そんな直感で、ただ体育館に向かっていた。

 体育館に向かうと、練習終わりのバスケ部が廊下を歩いていた。後輩たちは恭しく挨拶していたが、おれは生返事をしながら、ひたすらに体育館に向かった。

 体育館につくと顧問の小林先生が体育館の電気を消そうとしていた。おれは、「体育館でなくしたものがあるから、つけといてください」と言い、「もう八時過ぎてるから、すぐに戻れよ」と返事をもらった。小林先生は手を振りながら、去っていった。

 体育館は静寂包まれていた。

 ――ミサはいない。誰もいない。

 当たり前だ。バスケ部を引退しているのだから。ただ、おれの脳裏に焼き付いたミサの姿は、いつもバスケをしている姿だった。その幻影を追ってここまできたのだ。

 残念。しかし、同時に安心していた。もし、ミサがいても、なぜここにきたのか、どうしてここまで探しにきたのか、不思議に思われるからだ。

 安心すると同時に、物悲しさに襲われる。

 少し前、バスケ部が朝練をしていた時は、ボールの音や足音などでにぎやかだったであろう。経験者である自分には、その情景がありありと思い浮かべられた。一緒にボールを追いかけていたのは、部活のメンバーやミサだった。

「ミサ……」

 小さく独り言がこぼれる。

 物悲しさに襲われ、バスケの青春を思い返す中、ふと、目に映った。

「片付け忘れか」

 バスケットボールが一つ、コートの片隅にあった。惹き付けられるように、おれは傍まで歩いていき、拾い上げた。手に取ると、そのままゆっくり下に叩き付けながら、ゴールに向かっていった。そして、水を得た魚のようにゴールまで素早くドリブルをして、レイアップシュートを決めた。

 ボールがゴールに入る。落ちたボールの音が静かな体育館に響き渡る。その音がだんだん小さくなっていき、体育館に静寂が舞い戻ってきた。

「カケルくん?」

「――っ!?」

 小さく、しかしはっきりとした声が聞こえた。その方を振り向き、そこにいた人見つめた。

「ミサ」

 体育館の入口にミサがいた。夏用の制服をまとったミサがこちらに近づいてきた。足音をさせないミサは、なぜか、上履きをはいていなかった。

 2メートルくらいの距離まで近づいて、立ち止まった。じっとこっちを見つめている。何か言いたいのかもしれない。言葉を選んでいるのかもしれない。しかし、口には何も出さない。

「懐かしいよな」

 そんなことを考えている沈黙を打ち破ったのは、おれだった。

「うん」

 ミサは微笑みで返してくれた。

「久々に勝負しよう」

 おれもミサに微笑んだ。

「……私、今、上履きないよ」

「じゃあ、おれのシュートが入ったら、おれの勝ち。外したらミサの勝ち」

「なにそれ。ずるい」

 ミサがさらに顔をほころばせると、おれの表情も自然と緩んだ。

「よし。見てろ」

 おれはフリースローの位置まで移動した。そして、深呼吸して、シュートした。

「「……あ」」

 ゴールのわくに当たったボールに弾かれていった。

「私の勝ち」

「……」

「なにをお願いしようかなぁ」

「……いや、願いを叶える約束なんかしてないし」

「何言ってるの。今日は七夕。願いが叶う日なんだよ」

「……」

 いたずらっぽく笑うミサが可愛くって、一瞬、目をそらした。

「……いいよ」

「え」

 ミサが驚いたように目を丸くした。

「願いをきく。次の勝負で勝った方の」

「……え―――! ずるい―――!!」

「今のは練習」

「ずるい、ずるい」

 ミサは不満そうな顔でじっとこっちを見つめていた。

 おれは体育館の時計が八時十五分になろうとしているのを確認して

「続きは、二時間目の後の休み時間! フリースロー対決。勝った方の願いを負けた方が全力で叶える。以上」

「もう。全力で叶えてよね」

 ミサはふくれっ面をしていたが、おれは構わず、ミサの背中を押して、教室に戻ろうとした。

「あ、私はこっちから行くね」

 体育館の入口に置いてあったローファーに履き替え、ミサは外から教室に向かった。

 ……外にいたのか。

 朝、教室にいなかったミサはこの近くの外にいたらしかったことはわかった。

 おれは、二時間目後の休み時間を心待ちにした。



 

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絶対契約 ~七夕の約束~ 空乃ひかる @sorano_hikaru

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