7月7日

「――」

 不意に目を覚ます。

 いつもの朝だ。見慣れた白い天井。静かな部屋。そして、土曜日の朝は、このまま惰眠を貪る……

「カケルー」

 遠くから母さんの声が聞こえたが、無視して寝ることにした。土曜日は全力でだらけたいからだ。

 それに……告白できなかった無力感で、起きる気力もないのだ。

「カケルー!」

 さっきよりも、強めの口調で母さんが呼びかけてきた。まるで、平日の朝、学校に行く前のような呼びかけ方だった。

「ったく。何時だよ」

 枕元に置いてあった携帯電話を手に取る。

 七時七分

「土曜にしちゃ、早起きすぎだろ」

 と呟いて、携帯電話を再び枕元に置いた。仰向けになって、目をつぶり、再び寝ようと思った――けど。

 あれ?

 目を見開き、体を起こした。思うところがあって、携帯電話を再び手にして、画面を注視した。

 七月七日(金)七時十分

「…………」

「…………」

 画面をじっとにらみつけても、返事はない。当たり前だ。人間じゃないんだもの。……いや、でも何か回答して欲しいのだ。

 だって、なんか、おかしくない?

 今日は七月七日だっけ? 金曜日だっけ? 

「……うーん」

「……大丈夫?」

「うわっ!?」

 突然、部屋の扉が開き、母さんが入ってきた。怪訝な表情を浮かべている。なんか文句があるのだろうか。

「なに?」

「いや、学校、行かないの?」

「今日、学校あるんだよね」

「あるでしょ」

 母さんは、さぼりを疑っているようだ。

 いや、おれはさぼるつもりはないんだが――

「あのさ、おかしいと思われるかもしれないけど、確認したい」

「うん」

「今日は七月七日の金曜日であってる?」

「うん」

「平日だから学校はある?」

「うん」

「昨日、七月七日の金曜日に学校行って、おれは昨日落ち込んで寝落ちしたんだけど、合ってる?」

「う、ん? ……なに言っているか、日本語がよくわからないけど」

「だから、今日は七月七日の金曜日で」

「うん」

「昨日は七月七日の金曜日だったよね?」

「何言ってるかわからないわ」

 母さんは怪訝な表情を深めて、おれを心配している。

「休む?」

「いや、大丈夫。行くわ」

 そう言って、母親を部屋から追い出した。

 わかっている。おれが訳の分からないことをいっているのは。

 おれも、現状の訳が分からないのだ。

 確かにおれの記憶だと、今日は七月八日の土曜日なのだ。なぜなら、昨日が七月七日の金曜日だったからだ。

 しかし、朝、目覚めると、携帯電話の画面には七月七日の金曜日と表示されているし、母親も七月七日で学校があると言っている。

 訳がわからない……。

 とにかく、着替えながら、頭を整理しよう……。

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