第5話 罠
川岸で修業中、なにかが上流から流れてきた。
「ねえ、あれなんだろう?」
ユラユラと波の力で流されている。布のようなものだ。丸太に伸し掛かるかのように布が巻かれていた。
「……!? アルメド、アスタ、手伝って!」
ユイが川の中へと飛び込んだ。続けてアルメドも飛び込む。
なにがあるのかと、アルメドたちを陸地から眺めていたら、流れてきた布の正体が人であることが分かった。
「神官様(レック)!!」
丸太ごと陸地へ引き上げた。
水を多く飲んでしまっているようで、とても苦しそうに水を吐く。
ユイが回復魔法で手当てをし、アルメドが水を体外へ出るよう応急措置をとる。
「どうしたんですか…!? どうして、神官様(レック)が流されてきたの!!?」
ロイドたちが進んだ方向とは反対側から流れてきた。
川は三方向に分岐しており、下流と上流二つに分岐している。上流の西側はロイドたちが進み、東側からレックが流れてきた。
地図だと二方向はつながっていない。
「……わなだ…!」
辛うじてレックが呟いた。
「レック!!」
アルメドとユイが重なるようにして呼びかけたが、レックはそれ以上答えることはなかった。
嫌な予感がする。
ロイドたちと一緒に行ったレックは誰なのだろうか。
「ロイドたちが心配だ! 急いで追いかけよう!」
修行どころではなくなってしまった。
不安と恐怖によって最悪な結末が脳裏に映る。
それだけは絶対に阻止しなくてはいけない。
ロイドたち…無事にいてくれよ。
――ロイドたちは目的地である神殿とは別の場所へ訪れていた。
大きな広場に出た。
目の前には滝が流れている。水しぶきが飛び散り、その滝の長さと強さがうなずけた。
周りは大きな絶壁に囲まれており、道具なしでの人の手では登れそうにもない。
「…レック?」
先頭を歩いていたレックが突然立ち止まった。
滝つぼの前でゆっくり腰を下ろし、身構える。
「――かかった」
「え…!?」
ざわざわと絶壁の上から何十人のゴブリンの群れが列をなして並んでいる。武器を片手に握り、正面に向けて腕を伸ばしている。
「これはどういうことだ!?」
レックが立ち上がった。
その瞬間、ゴウキが素早く動いた。得物を抜き、レックに向けた。
「ロイド! コイツはレックじゃない!」
ボコボコと音を立て、みるみる姿かたちが変わり果てていく。人ではなくそれは一言で言えば、”怪物”。
ロイドたちの眼には光が失われつつあった。
背後から悲鳴が聞こえ、振り返ると後ろにいたはずの隊列が崩されていた。十五名ほどついてきたはずの仲間たちがすでに息絶えている。
ゴブリンの他にヘッジホッグパイなどがいた。
それよりも驚く存在がいる。こいつらはこの地には決して出現しない魔物だ。もし、出現するのであるのなら今までの常識はすべて覆してしまう。
「なっ…なんでこいつらも…いるんだよ…」
冷や汗が頬を伝る。
水辺にしか存在できないはずのサハギン。
怪鳥とも恐れられるグリフォン。
武器では歯が立たないスライム。
どれもこの街道沿いでは出現した形跡が今までなかった魔物たちだ。
「ロイド、気を抜くな。こいつらはタダの魔物ではない――!!」
背後を気にかけながら正面に回り込む魔物たち。
ロイドを含めてゴウキの二人しか生き残っていない今、後からやってくるアルメドたちの希望も虚しい。
「ゴウキ! お前らしくないぞっ!!」
ゴウキが、あの威厳たっぷりのゴウキが、武器を地面へ落とした。
口元から唾液が出て、眼が虚ろになっている。
「ゴウキ!!?」
落としたはずの武器を拾い、ロイドに向けた。
その瞳の光はもはや、ロイドが知るゴウキではなかったことをロイドは内心から悟った。
「クソッ! なにかの魔術か!?」
(ユイ! こっちに来るな!)
ユイたちの安否を心配しながら無事でこの場所からさっさと撤退してくれることを信じて、武器をとり、この絶望的な数から逃げる方法を探し当てる。
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