第4話 もう一段階強くなる

 アルメドたちと別れたロイドたちは奥へ進んでいた。


「レック、いいんですか? 三人を置いてきて…」


 ロイドが槍を両手で後ろに組みながら余裕な表情で尋ねた。

 あれほどユイたちを気にかけていた上司の行動とは思えない。


「ロイド、ユイの実力はあなたから見てどの程度ですか?」


「質問を返すな。俺が聞いているのは―――!!」


 背にあった木がメリメリといって地面へ倒れた。

 なにが起きたのか? 早すぎて見えなかった。


「レック…」


「黙って質問を答えろ!」


 ビリビリと空気が痺れる。肌が針のようなもので突き刺されている感覚だ。レックがここまで圧迫してきたのは初めてだった。


「……俺の実力から見て、ユイはまだ半人前です。とてもじゃないですが、魔物一体を相手に生き残る可能性はないです」


「そうか。ゴウキ、お前はどうだ」


 髭を生やした男ゴウキ。

 近場の町で雇ったという男だ。ユイとの面識はそこそこ。ユイのことを娘と称して可愛がっている変態だ。


「天秤にかけることはしたくないですが、村に置いてくるべきでした」


 両手を組み、いつものゴウキとはくらべものにならないほど迫力がある。長年の戦士の経歴が物語っているのか、「あまちゃんだ」と付け加えた。


「このメンツで回復魔法が使える人は何人いる?」


 レッツがなにか探っている。

 おかしい、ロイドの胸から何かがおかしいと気づいていく。


「確か三人です。レッツ、アルメド、ユイの三人です。」


「そうか…ユイたちが合流する前にできる範囲で森に潜む小鬼を撃破する。皆の者はチームを組み、バラバラに行動する。できれば今日中か明日辺りには片付くだろう」


 バラバラに行動をとる? 違う、そうじゃない。当初の目的は小鬼討伐じゃない。どうした…!? なにを考えている。

 内心、レックが何を考えているのか想像つかなくなってきていた。



***




「これが、ケアルラという魔法だ。」


 水辺の近くでパアっと白い光が粒子となって飛び散った。

 力が沸き上がる、傷口が一斉に閉じていく。


「ケアルラ。中位回復魔法。ケアルよりも1.5倍の魔力を消耗するが、使い慣れればケアル並みの魔力で使えるようになる」


 本を開き、ユイに見せる。

 ユイはふむふむと頷きながら、アルメドがいま言ったことを繰り替えるように詠唱した。


「小さき光の妖精たちよ、はき違えた傷糸を…ぬいぐるみ…えーと、トウモロコシ畑? ええっとととと…わかんなーい!!」


 終いには>< という表情を浮かべてしまう始末。

 長く難しい詠唱は向かないと放り投げた。


「イメージすればいいのですが…ユイは想像力乏しいようです。その一方で、アスタ君は素晴らしい。我が見込んだだけあります」


 ケアルラ。

 ケアルの上位の魔法。魔力の消耗はあるものの、耐えられないほどではないが、やはり二回が限度だ。


「ふむ。アスタくんは魔力が足りないようですね。あまり高度な魔法では倒れてしまっては大変です。では、我が秘伝を教えましょう。そすれば、魔力の消費を考えずに選択肢が増えるようになります」


 自身の甲冑を脱ぐ。中身は空洞で、その中にあるものを取り出す。

 出し入れ自由とか、ズルくないですかと頭の中で横切ったが、彼らの身体がないという空虚なものと考えると、それは失礼じゃないのかと口を止めた。


「アスタくんの考えはわかります。…ですが、我はこの身体を十分に利用し、十分に裏切るのです。」


 そう言ったアルメドはなんだか寂しそうだった。


 ふと、頭から青年の声が聞こえてきた。

 パッと左能を押し当てるかのようにして青年の声に耳を傾けた。


――空虚だ。虚しい空が落ちる。手を伸ばしてもそこにいるのは信じていた友ではなかった。悲しい寂しい苦しい、レックお前は何者なんだ!?――


 ぼくは何か恐ろしいことが起きていることに気づかされた。

 レックの様子がおかしい…と。

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