第12話
公爵令嬢世界革命タイムアタック、はーじまーるよー。
はーい、よーいスタート。
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薄暗い執務室にて、数十枚に及ぶ報告書を読み、わなわなと肩を震わせるアグリフィーナ公爵。
御年二十八歳の若き当主だ。
「何と……いう事だ……」
「おとうさま、もはや、まほうつかいが、うえにたつ、じだいは、おわったのです」
「ぐ……、確かに、平民の中にここまでの技術が根付いているのならば、
そして、その資料を公爵に渡し、執務机の上に仁王立ちしているのは、あたし、こと、ゆりあちゃん三さい。
あたしがお父様に渡した資料には、今まさに市井で芽吹こうとしている、多数の技術改革の灯火、産業革命の予兆の数々が記されている。
あたし自身で書くのは無理だったので、公爵家のメイドさんと執事さん、あと母様をたらしこ……説得し、作業をしてもらったのだ。
実は今から弾圧すれば何とかなるのは秘密にして、かなり盛って書いてるけどね!
「だがそれでも。我が公爵家は、この国を支える貴族として、指を咥えて滅びを受け入れる訳には行かぬ」
お父様は、魔法による力の差異が、今の貴族社会を成り立たせていることを、よく理解しているようだった。
技術革新によって差異が埋まれば、封建制度が崩壊するという認識で、それ故に何とか対応しなければならない、という考えだね。
……なので。
「はっそうを、かえるのです」
「発想を……?」
疑問符を浮かべるお父様に、営業スマイルで営業トークをするユリアちゃん。
見よ、この天使のような満面の笑顔を!
「まほうだけでは、ちからがたりない。このままだと、あたらしいぎじゅつが、しょみんから、うまれてしまう、ならば」
「……ッ! そうか、その技術を、アグリフィーナ家が支援することで『発明』に漕ぎ着けさせることができれば……」
「つぶすのではなく、われわれから、はっしんするのです。そうすれば」
「貴族の影響力を、魔法による力以外で示せる、という訳だな。……成程。少なくとも、今、手を打てば、即座に我等が潰されることは無い、か」
うんうん。理解が早くて助かります、お父様。
「しかし。その性根がにじみ出た悪魔のような笑みといい、まったく、誰に似たのやら……。我が娘ながら末恐ろしいぞ」
なんか失礼なことを言われた気がするけど、ゆりあちゃん、わかんない。
「では早速だが、この資料にある者達に会い、資金援助などを行う事とする。任せてもよいか、ユリア?」
「おおせのままに、おとうさま」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――わたくし、あなたたちの『しえん』をするために、まいりました」
「なんだ、お嬢ちゃん? いきなりやって来たかと思えば……」
「って、オイ、兄貴、こいつの乗ってきた馬車! 『翼持つ黒獅子』――アグリフィーナ家の紋章だ!」
「なッ……」
「話がはやくて、たすかりますわ」
スラムにほど近い、あばら家めいた工房に乗り込む、ユリアちゃん四さい。
このどうみても荒くれ者の兄弟が、世界初の動力革命を行うラインバッハ兄弟だ。
別の世界線では、お父様に裏側からガチ弾圧されて、色々ヤバイことになるんだけど。こっちでは、そんなことはさせないよ。
「とりあえずの、『てつけ』ですわ」
老執事のセバスチャンに合図を送り、手付金として数十枚の金貨の入った革袋を兄弟の前の机にどさりと置いてみせる。意外と重いその革袋の口から、数枚の金貨がじゃらりと零れ落ちた。
受け取ったお兄さんの方が、まるで化け物をみるような目であたしを見る。
「……何が狙いだ、お嬢ちゃん」
「あなたがたの『はつめい』は、せかいをかえる。そう、わたくしは思っておりますの。これは、いわば『とうし』ですわ」
「……そうかい。貴族サマってのは、世界を変えて欲しくないモンだと思ってたんだがな」
「ごあんしんを。これはわたくしの『どくだん』です。あなたはもとより、『ごゆうじん』のみなさまにも、『ふりえき』はあたえませんよ?」
「…………良いだろう」
「兄貴ィ……。大丈夫なんですかい?」
苦虫を噛み潰したような表情のお兄さんと、心配そうな弟。
まあ、貴族側の利益を第一に考える『貴族派』の、それも長であるアグリフィーナ公爵家からの支援って、はっきり言って毒物もいいところだろうし、警戒するのは分かる。
だけど、ここを押さえておかないといけないのはあたしも同じなので、にっこり笑って契約を結ぼう。
「……恐ろしい笑顔だ。俺は、悪魔と契約を結んじまったのかねえ」
あの、お父様といい、お兄さんたちといい、みんな酷くない?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――はじめまして、おじいさま」
「おやおや、こんな所にめんこいお嬢ちゃんが、一体何の用じゃ? 神殿の連中も、遂に気でも狂うたのかのう」
暗い牢獄の奥。全身に手酷い傷を負いながらも悠然と佇む老人と、それに相対するユリアちゃん五さい。
「わたくし、あなたを、おむかえにあがりましたの」
「ワシを? お主、ワシが『異端者』だと知って、言っておるのかのう?」
「ええ。せいかくには、『いたんしゃ』ということにさせられた、ですわね」
この老人、ゼス翁は、異端者としてこの地の領主に告発され、神殿に囚われることになった錬金術師だ。
魔法に関して、先進的な発明や発見をいくつもしているんだけど、領主にとっては権益を脅かされると思ったんだろうね、今は死刑を待つ身となってるのだ。
何気に、
「……ふむ、神殿に囚われる前に小耳に挟んだことがあるのう。お主、
「ごぞんじであれば、話がはやいですわね。あらためて、アグリフィーナ家に、来ては下さらないかしら」
「ほっほっほ。お誘いは有り難いがのう。神殿の連中が逃がしてはくれんじゃろう」
「――話はついております」
「……ほう?」
目を細め、剣呑な気配をまとうゼス老人。
既に神殿の人たちと話はついてるし、ある程度の便宜を図って、ここの領主である伯爵にも了承をもらってるんだよね。
「お主は、ワシに、何をさせようと?」
「あなたのすきなように、『けんきゅう』していただければ、それで十分ですわ」
あたしの言葉に、剣呑な気配を強めつつ、にんまり笑みを浮かべるゼス翁。何か怖いんだけど!
「了解したぞ。老い先短いワシの人生、
やっぱり最後にはディスられるユリアちゃんなのだった。
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ぶっちゃけ、やることは単純だ。
アカリちゃんは、学園に入学する直前に転生し、記憶を神託される――つまり、彼女は入学するまで、こちら側の妨害ができない。
ならば、入学前の段階で世界を変えてしまい、貴族と平民の軋轢をなくしてしまえば、早期断罪を阻止できるのではないか、と考えたのだ。
ただ、「貴族主義を潰しての民主化」は、
なので、逆の発想で「貴族側主導による技術革新と庶民の生活向上」を行えないかな、と思って、とりあえずお父様に直訴。
ラインバッハ兄弟をはじめとした、国内外で燻っている発明家や技術者、研究者なんかを片っ端からスカウトして保護し、アグリフィーナ家の潤沢な資金で研究のサポートを行っていくことにした。
お父様の説得に数百回のリトライがあったほか(さすがに三歳から動くのは頭おかしかったね)、人集めにも大分やり直しが発生していたので、人を集めてからも最初は上手くいかないかな、とか思ってたんだけど。
「よう、お嬢。試作品だが、お嬢の言っていた蒸気機関が完成したぜ。水力系の工作機械の類はもう量産が可能だ」
「あら……、ずい分とまあ、早かったですわね」
「ここまで好き勝手に研究できる事など、ついぞありませんでしたからのう。公爵家の悪魔、サマサマですわい」
「『あくま』よびは止めてほしいですのですけれど……」
スカウトした人たちが思いのほか優秀過ぎて、たった三年で数十年分の技術革新が行われてしまった。
ちょっと進化が早過ぎるけど、それだけ抑圧されてたんだろうし、まあ爆発する素地はあったのだろう。
こちらも若干八歳ではあるけど、一応公爵家名代として、各派貴族への技術供与の根回しが完了したので、国内の技術革新は今後十分におこなっていける流れになったよ。
技術革新ができれば、あとはこれを下に広めて生活向上につなげるだけだ。
よし、頑張っていこうっと!
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