第11話

 アカリちゃん入学から大体半年くらい経った頃、生徒会メンバーの攻略が着々と進んだ頃合いを見計らって、放課後にアカリちゃんを生徒会長室へと呼び出してみた。


 彼女の周りにいた男ども、特に王子殿下がうるさかったけど、アカリちゃんが「ひとりで大丈夫だから」と震えながらも気丈に言ってくれたので、二人きりになれたのだ。あざといようにも見えるけど、あたしは好き。


「呼び出しに応じて頂き、有難う存じます」

「――それで、ボクに何の用かな、会長さん?」


 二人きりになった途端、氷のような眼差しで要件を問いただすアカリちゃん。まあ、あたし相手なら別に取りつくろう必要はないってことなのかしら、若干声が震えてるので、虚勢っぽくも見えるけど。

 それはそれとして、夕日を浴びて金髪ショートが赤に染まってるところとか、凄く絵になると思います。


 王子たちへの態度の使い分けもだけど、切り替えも素早く、冷静に見えるし、とても頼りになりそう。


 なので、転生者であることを明かした後、ある程度詳細はボカしつつ(あたしが創造神なところとか)世界情勢が煮詰まってる事情を説明してみた。

 ふふふ、最初はおぼつかなかったけど、千回も繰り返してれば、そこそこマシなお嬢様言葉もつかえましてよ? ……やっぱりぎこちないね、うん。


「――事情は説明した通りよ。少しだけ貴女の知恵を貸してほしいのだけれども、如何かしら」

「ええとさ。……それ、ボクに訊くの色々間違ってないかな?」


 あれ。なんでか知らないけど、アカリちゃん、すごく毒気を抜かれた、というか呆れたような顔をしてるんだけど。

 間違ってると言われても、今、この世界で一番事情に精通してるのは多分アカリちゃんだし(少なくともあたしではなさそう!)人選に間違いは無いと思うよ?


「ほら、貴女も転生者でしょう? 事情はよくご存じかと思いまして」

「……ボクが転生者って、なんで知ってるのさ?」


 あ。アカリちゃんに言われて気付いたけど、ユリア嬢あたしに、アカリちゃんが転生者だって気付く理由が無いね……。

 意味深に笑ってごまかすことにした。


「ふふ、何ででしょうね。まあ、さておき同じ転生者として、私が教えを乞う事に何の問題がありましょう?」

「問題だらけだよう……。そもそも、ボク、ユリアさんから王子殿下を奪おうとしてるんだけど?」

「それは構いませんわ」

「――え、と。構わないの?」

「ええ、まあ、別に」

「……うう、ブリ学と展開が全然違うし。なんか、ボクがひとりで空回ってるみたいだよ……。女神サマ、こんなこと言ってなかったんだけどなあ」


 困り果てたように眉根を寄せるアカリちゃん。

 ブリ学? 女神サマ? あ、多分お姉ちゃんかな。ちょっとアカリちゃん側の事情も聞きたい。

 そういえば、何で彼女は攻略タイムアタックをしてるんだろう。


「そもそも、貴女はなぜ、そこまで忙しく攻略を進めているのかしら。そこまで私を早く断罪したい理由があるのですか?」

「別にユリアさんを断罪したい、ってワケじゃないんだけどさ……。ああ、うん、もう、この際ぶっちゃけるね」


 諦め顔のアカリちゃんが言うには、この世界は『ブリスタニア学園物語』という乙女ゲーの世界にとても近いとのこと。アカリちゃんの転生前の世界では、結構流行っていたゲームだったらしい。

 彼女は元々の世界で、非常に重い病気に掛かっていたこともあり、入院中、病院の個室でかなりやり込んでいたそうで。


「で、病気が悪化してそのまま死んじゃったんだけど、いつの間にか真っ白な部屋にいて。そこにいた女神サマに、ここへ転生させてもらったんだ。ええと、この学園に入学する直前のボクに、記憶が合わさった感じでね」

「ふむふむ」

「ただ、転生するにあたって、女神サマにひとつお願い事をされたんだよ」


 お願い事とは、「このままでは近いうち、貴族と平民の間の軋轢によって大規模な内乱が起き、死傷者が多数出てしまう。それを止めてほしい」という物だった。


 元々のゲームである『ブリスタニア学園物語』では、逆ハールートのエンディングに「無血革命により、平民と貴族の垣根が無くなり、共に歩んでいく」と言うものがあって。

 そのルートを目指してほしいのかな、とアカリちゃんは思ったようだ。


 ただし、時間を掛ければ掛けるほど、貴族と平民の間の断絶が進むので、なるべく早くに逆ハーを完成させて、「貴族派」のトップであるアグリフィーナ家を掌握しておきたかった、と。


「最悪でもユリアさんが卒業するまでに、何とかしようとしてたんだ。そうしないと内戦が起きるからね」

「なるほど……」

「だから多分、ユリアさんの抱えてる問題と同じことじゃないかな。ボクの方がうまくいけば、ユリアさんは何もしなくても解決すると思うよ?」

「理解いたしました。大変わかりやすい説明、有難う存じますわ」


 アカリちゃんから事情を訊いて分かったことがある。


 この世界の欠陥、ひとめ見ただけでお姉ちゃんは把握して、アカリちゃんをヒロインとして選出したんだね。分かってたなら教えてくれても良かったのに、ぐぬぬ(八つ当たり)


「ユリアさんには申し訳ないけれど、ボクにも親しい人が何人もいるし、彼等を危険な目に逢わせたくない。酷いことしてるなあって自覚はあるけど……、王子サマ達と恋愛ごっこするのが楽しいのも事実だし、ね」


 苦笑しながらも、まっすぐにあたしを見つめるアカリちゃん。元の性格もあるんだろうけど、正にヒロインって感じで、なんというか、すごく凛々しいなあ。

 ただ、殿下達はガチ恋してるみたいなので、ごっこ呼びは、結構可哀想な気がするよ? ……いや、違うか。偽悪的に振る舞ってるだけだね、これ。


「……自己犠牲、というおつもりでは無いですわね?」

「うん、自分を捨てるつもりも、捨ててるつもりもないよ」


 最後に、女神おねえちゃんへの義務感とか使命感だけで動いてるんだったら嫌だな、と思って訊いてみたところ、彼女はニヤリ、と笑みを浮かべた。


「元の世界だと病気のせいで、こうやって外を歩くこともできなかったからね。こちらの世界では自由に動けてとても感謝してるし、世界を楽しみながら、女神サマに恩返しするのも悪くないかなって」


 ……強いなあ、アカリちゃん。楽しんでるのなら、気を使うのも変だよね。


「ユリアさんが転生者なのは想定外だったけど、ボクはそれで手を引くつもりは無いよ。ごめんね?」

「いいえ、こちらこそ、貴女の事情を細かく訊いてしまい、失礼いたしました。何か頼み事があるならば、融通できましてよ」

「あはは、申し出はありがたいけど、ライバルの施しを受けるのは何か違うかな。協力もなし。これからも、ボクは好き勝手やっていくから、ユリアさんも手を抜いたりしないでね?」


 まあ、そうだよね。

 こちら側も「八百長組んで課題達成」は評価的にかなり不味いから、協力は除外するとして。


 アカリちゃんの立ち位置も分かったし、彼女の言葉から攻略のヒントをつかめたので、アカリちゃんには感謝しかない。次のループからは頑張って、巻き返しを図っていくことにするよ!


 あたしとアカリちゃんは、最終的にがっしり握手して、正々堂々の戦いを誓い合ったのであった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 まあ、結局このループではこの後すぐに断罪されちゃったけどさ!


 そりゃ生徒会長が直接一生徒を呼び出して何かしてりゃ、そこを全力で突かれるよね、ハハハ。

 本当に容赦なかったよ、アカリちゃん……。


 ただこの回は、断罪されても死罪や国外追放ではなく、修道院送りだった。


 勘当はされたけど、老衰で死ぬまでの間、時折来る匿名の人アカリちゃんと手紙のやり取りをしたりして、のんびり過ごせたんだ。ある意味大往生というか、バカンスというか。少なくとも骨休めはできたね。


 さて。次回から、頑張って、世界に革命を起こすぞー!

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